悲劇が過ぎ去った場所で
遅かった。
私は失敗したのだ。
宿の部屋の窓から射し込む月明かりが、昔の記憶を思い出させた。手に持っていたその記事をグシャリと握り潰す。
“カナン皇国皇帝、崩御す 国民に死亡者多数”
「は、ははっ…」
何が国民を守るだ。
…結局私は自分の事しか考えていなかったではないか。
大切な人を守れなかったあの時に立てた誓いは何処へ行ったんだ。守ると決めていた筈なのに、これほど滑稽な事はない。
追放が何だ、信じてくれなかったことが何だ。
私は今まで私の意志で行動してきた。
何故、こんなときに限ってそれをしなかったんだ!
「私は何て薄情なんだ…」
頬が濡れているのが、自分でも分かった。
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突然の閃光に思わず目を瞑った。
恐る恐る瞼を上げれば、空に細く伸びていく光がゆっくりと消えて行く様が見えた。
あれは、何だ。
皇国についての情報を求め、私は昨日まで町を点々と巡っていた。しかしいくらフードを被っていても、この髪と目の色に気付く輩もいる。私の素性が明らかにされてしまい、見知らぬ者からの追っ手まで着いてくる始末。
私をどうしようと、皇国に圧力が掛けられる駒ですらないのだから意味はない。いや、それとも私を皇国に引き渡して謝礼金を貰おうとでも言うのか。
兎も角私は追っ手から逃れるために町をできる限り避け、今いるこの森へと辿り着いた。
が、私は厄介事からは逃れられない質らしい。
光の消えたと思われる場所へ、足を進めた。
導かれるように、何の疑いもなく。
「う……」
漂う異臭に思わず鼻と口元を覆った。
深い森の中、焼け焦げ炭と化した村がそこにはあった。
崩れた家々の残骸から真っ黒い物が見える。
___手だ。
此処に住んでいたであろう人の手。
辺りに目を向ければ、同じ様に炭と化した人型が転がっている。
「こんな場所で、何が」
視界の端でほんの一瞬だけ何かが光った様に見えた。
そこに手を伸ばすと、景色が変わった。
まっさらで何もない黒ずんだ地面。
振り返っても、さっきまであった焼けた村はそこにはない。
今まで体験した事のない不可思議な現象。
だが足は確実に進んでいた。まるで動かされているかの様に。
進む 進む 灰色の中を
それは女の意思か否か
進む 進む 灰色の終り
陰る瞳に何を写すか
薄暗い洞窟の中、誰かが倒れている。その影は小さい。
近くに駆け寄ると倒れているのが子供だと分かった。
今まで見たこともない色の髪が目を引いた。だがその顔は蒼白く、浅い呼吸が口から漏れている。
医師の下へ運ばなければ。
そう思い伸ばした手は、何かに阻まれた。
何か、というよりも風に。
『この子に触るな』
「っい…」
つー、と腕に走った傷から血が流れ落ちた。それは地面に小さな染みを作る。
目の前にいるのは小さな人形で、それが私を睨み付けていた。それも殺気の込められたもので。
「その子は、」
『どうやってここに入ったのか、今はどうでもいい。…お前は、奴等の手の者か?』
「奴等…?」
どうやらこの不思議な生き物は私を何かの手先だと勘違いしているらしい。
そもそも倒れている子供の事は何一つ知らない。見たこともない髪色が特徴的な幼い少女として認識しているだけだ。
___蒼銀の、髪。
「うっ、ぐ」
激しい頭痛が私を襲った。
残りの一話分は午後に投稿します。




