回る歯車
ラピスの師、アリィナの旅路を辿ります。
「そうか、お主が…お主が殺したのか!」
目の前には、忠誠を誓った王の姿。
違う、私は殺してなどいない。
奴は死んでいない。
「違います。皇帝陛下、私は…」
「裏切り者に用はない。追放じゃ!」
___その日、一人の女将軍は国を追放された。
彼女の名はアリィナ・ウミナリ。
齢二十一にしてカナン皇国の左将軍まで登り詰めた武人。
そしてここから、歯車は動き出した。
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ふわりと薫風が吹いた。
羽織っているマントが揺れる。
あの日からもう、二年の月日が流れた。
当てもなく各地を転々としていても私の答えは見えてこない。
あの時、どうすれば皆を救えたのか。
元凶である奴はまだ行動を起こしてはいないが、いずれ多くの人間がその餌食になるだろう。
…本当に守りたいのは『何』か。
今までの私なら「皇国とその民」だと即答できたのだろう。
だが追放された今、民を思う気持ちはあれど皇国の中枢を担う者たちを守りたいとは思わない。
けれど、これで…このままでいいのだろうか?
中枢が崩されれば皇国は滅びの路を辿ってしまうだろう。
そうしたら、民たちはどうなる?
しゃん、しゃん
「迷っているようですね」
「…何者だ」
鈴の音と共に現れたのは祖国の古い民族衣装を纏った男。
深く笠を被っていて、その顔は見えない。
「迷いは弱さ、弱さは何を招くのか」
「何者なのかと聞いているっ!…答えろ」
鈴の音が鳴るまで気付かなかった。
私の腕も、鈍っているようだな。
腰に差した刀に手を掛けると、空気が凍った気がした。
男は私を見て苦笑する。
「母親の事、知りたくありませんか?」
「…母の何を知っていると言うんだ。あの人はもういない」
何故私が母上の事を調べていると知っている?
この事は父上にも、誰にも話していない。
『コラコラー!何警戒心を抱かせるような事をしてんにゃ…してんじゃい!』
「そんなこと言われましても…あと噛みましたよ?」
『人の揚げ足を取るなっての!』
バチッ
「なっ、」
『そこの姐さんも、初対面の相手に刃物向けるのが礼儀なワケ?ま、こいつが怪しい不審者なのは認めるけど』
「僕の扱い、ひどくありません?」
『何を今更』
結界か。
結構力を入れたつもりだったが、中々破れないようだ。
それにあの光の玉は、一体…。
「何がしたいんだ」
「話を聞いてもらいたいだけですよ。貴女はこれから、重要な役目が待っているんですから」
『とりあえず飛ぶぞ、こっから』
その言葉と同時に、何故か意識が遠退いた。




