30話ーmessage from‥
ラピスは四族としての役割をひとつ果たした。
この国からの依頼を受けたのは元々「負を救う」という目的に必要な事だったからだ。
ギルドが依頼を受けるには、それ相応の対価が必要。双方の利害の一致により仕組みが成り立っている。
魔族の調査の対価として、ヒイラギの宮への……皇国で“悪霊”と呼ばれていた負の精霊への干渉を許されたのだ。
この事実を知るのは皇帝と四族、そして精霊のみ。
二つの目的を果たし、今日でラピス達は皇国を去る。
「おねえちゃん、いかないで」
「ごめんね、ミヤビ。でも、きっとまた会えるよ」
ミヤビはラピスに諭されながらも、口を尖らせている。
ラピスとしてもここまで懐かれるのは予想外だった。
「じゃあ、ゆびきりげんまん!」
ミヤビはラピスの手を取り、小指を絡ませる。
「ゆーびきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」
ミヤビは嬉しそうに笑い、はしゃぐ。
___またあえますように。
そう、願いを込めて。
周りの生徒達より一足先に学園の寮へと戻ったラピスの手には一通の手紙。
紙の色は薄茶色になっていることから、古い物であることが分かる。封は開けられていない。
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「…君が、ラピスか?」
馬車に足をかけたとき、ラピスは自分を呼ぶ声を聞いた。
振り返ると、そこにいたのは見知らぬ初老の男性。
「はい…、確かに私はラピスといいます」
不審に思い、少しだけ殺気を飛ばす。
だが初老の男は表情を変えない。
「娘に…アリィナに、君にこれを渡すように頼まれていたんだ」
“アリィナ”
その名を聞いたラピスは体を強張らせ、男の差し出した手紙を震える手で受け取った。
「アリィナはもう、いないのだろう?」
「……私の事を、恨んでいただいても構いません」
犯した罪の重さがのし掛かった。
尊敬し、敬愛した師の父親である男が悲しそうに事実を受け入れた。
愛する娘を喪った原因である私を責めもせず。
「何でですか。…何故私を責めないんですか!私はっ、私は貴方の娘を奪った、それなのに…!」
この男にはラピスを責める権利がある。
なのに何故責めないのか、ラピスはその真意を理解する事が出来なかった。
「私の娘は、陥れられた。娘が国を去ったあの日から私は娘に会っていない」
「……」
「それでも娘が心配だった私は便りを出した。そうしたやり取りを続けていた時、手紙の中に弟子の話が出てきた」
言わずもがな、ラピスの事だ。
「そして、娘が君を我が子の様に大切にしている事を知ったんだ。…私は君を責めない。娘が命を賭けて守った君を、責めたりしない」
「ですが」
「その手紙は、娘が君に宛てた物だ。それを読めばきっと娘の気持ちを知ることができる」
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そうして渡されたこの手紙を、ラピスは中々開けない。
(怖い…師匠の気持ちを知ることが)
ずっと信じていた物が紛い物であるという可能性を、ラピスは捨てきれずにいた。
(けれど、知りたい。師匠の気持ちを)
意を決して、ラピスはその手紙を開いた。
___どんな言葉でもいい。どんな気持ちでもいい。只、全てを受け止めたいから。




