28話ーそれはきっと
先程まで暗闇に包まれていたその場所は明るくなり、燈赤が負を襲う。
振りかざされた棍は残像のみを捉え、本当のターゲットには届かない。
凪ぎ払い、突き、その流れに身を任せ舞う。
それらを軽やかに避ける負。重く感じる自分の体。
シュリが目にしたその身のこなしは、紛れもない「彼」の物で。
「っシュリ!」
目の前には守るべきラピスの姿。
刃が火花を散らし、上からの蹴りを受け止めていた。
“へぇ、速いね。……でも速さだけじゃ足りないよ”
「っ!?」
一瞬のうちに重くなった蹴りに耐えきれずラピスは刀を落としてしまう。
『…あたしの事を、無視してんじゃないわよ!!』
茨を形どった光の粒子が負に巻き付き投げ飛ばしたが、投げ飛ばされた負は空中で体勢を立て直し着地する。
そして少し驚いた様に顔を上げた。
「シュリ…」
『あたしに気を使わなくたっていい』
「っでも!私は、シュリに」
大切な人を喪って欲しくない。
表情を崩してはいなかったが、その瞳は悲しげで。
ラピスが思い出していたのは自身の過去。
ただ何も考えず人形の様に生きていた日々の中で訪れたのは後悔と懺悔のみ。消えない傷痕を残したまま、生きることに絶望していた。
シュリが精霊である以上、ラピスとは運命共同体。
来たるべき時まで生き抜く義務がある。
『ラピス。これは、あたしの戦いなの』
「っ、……私は」
シュリは首を振り、しっかりとラピスの目を見た。
『あたしは喪う為に戦う訳じゃない。…助ける為に戦うの』
凜とした表情が、シュリの心情を物語っていた。
ラピスは落とした刀を拾い上げ、目を瞑りながら一振りする。
神経を研ぎ澄ませ、思考は冷静に。
空気を読み、その場を支配する。
【風の眷属 総てを包むモノよ】
古の言葉は鍵となり、チカラを解放する。
ラピスは緑色の光を纏った。
途端、シュリは自分の体が軽くなるのを感じた。
言葉で言わなくても分かる意思表示。
大切な人を取り戻す為の戦いへの肯定。
走り出したシュリは手を翳して光の茨を放つ。
また彼に会いたいと、想いを込めて。
あたしの願いは__。
何で……何でボクは戦ってるの?
ボクは誰?目の前にいるのは誰?
この光は何?けど、分からないのに体が勝手に動く。
何で?知らない筈なのに知ってる。
この光を、目の前にいる人を。
懐かしくて、暖かい。
ボクはキミを__。
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光の茨が目を開けていられない程に輝くと、そこには男が倒れていた。
シュリは男に駆け寄り、その黒に近い深い緑色の髪を撫でる。
ずっと会いたかった。
寂しかった。
幸せだと感じていても、どこか心にぽっかりと穴が開いた様だった。
欠けていた。
『…シュ、リ』
懐かしい声が聞こえた。
低いけれど、やさしい声が。
『シュリ、久しぶり』
目を開いていた。
緑色の瞳に自分が映っていた。
考える前に体が動いていた。
『ばか』
起き上がった彼を抱き締めた。
けれど口から出てくるのはそんな言葉で。
ぽんぽんと頭を撫でられる。
『…ただいま、シュリ』
『おかえり、シェイド』
嬉しくて、ただ泣いた。




