27話ー負が堕ちた奈落
全ては生命が生み出されし時へ遡る。
生命が生まれた時、善悪の境界…つまり正負の境界は出来た。
相反する二つは人と魔族が生み出されし時を境に、四柱の精霊の手には負えないモノになってしまった。
精霊たちの身を案じた神は正と負を司る精霊を生み出し正を司る精霊を「シュリ」、負を司る精霊を「 」と名付けた。
二人は互いを支え合いながら均衡を保ち世界の安寧の守っていたが、それは人魔の争いによって崩された。
魔族が人を害し、人が魔族を害す。
連鎖は留まることを知らずまもなくして「 」は堕ちた。
憎しみが溢れかえる世界の中で、正は微々たるモノ。
天秤は大きく傾き、正は負を正す事が出来なかった。
やがて神は人魔の争いに怒り狂った後に消滅し、神が負を司る精霊に手を差し伸べることは叶わなかった。
___以来、堕ちてしまった「 」は生きる者全てを襲った果てにある男に封印されることになる。
その男こそカナン皇国初代皇帝、ユナン一世である。
ユナン一世は負の精霊を監視するために、封じた地に自身の国を建国した。
(そう…ボクはあの時“僕”でなくなった。封印と共に)
名前を失くした精霊の脳裏で自身の中に幽かに残る堕ちる前の一人称が浮かんだのは、大切だった…いや、大切な存在がかつての姿で立っているからだろうか。
しかしその断片は深いところへ沈んでいった。
シュリは本来の姿で大切な存在の前に立っていた。
かつての姿ではなく、幼い少年の姿の彼の前に。
(絶対に、助ける…!)
つい先程まで手のひらサイズだったシュリは今、小柄な女性の姿をしていた。
燃えるような紅蓮の髪は、シュリの感情に呼応するように煌めき、暗闇を振り払う。
少年は一瞬目を見開いたがすぐに嬉しそうに口角を上げた。
きらきらと目を輝かせるその姿は、新しい玩具を与えられた子供の表情そのもの。
シュリは少年を見て哀しそうに顔を歪めた。
少年にかつての面影はない。
「シュリ……」
『ラピス、お願い。…私に力を貸して』
シュリの左手には既に燈赤の棍が握られていた。
感触を確かめるようにくるくると棍を回す。
「分かった」
すらりと銀色の刀身を鞘から抜き、ラピスは刀を構えた。
シュリはそれに応えるかのように回していた棍を握り、独特の構えをとる。
『___行くよ』
「うん」
戦いの火蓋は、切って落とされた。




