19話ー三年前の記憶の欠片
___三年前
「師匠!…嫌、やだよっ!ねぇ、一人にしないでっ!!」
辺境の廃村で、泣き叫ぶ少女がいた。
年は12,3歳位だろうか。
少女の視線の先には一人の異形。ウロコに覆われている体が血に塗れ、浅い呼吸を繰り返している。
異形は少女に最後の力を振り絞って話し出した。
「泣くな。…お前は、一人じゃ、ない。精霊たち、は……お前の傍に、いてくれる。もう、私は傍にいられ、な……が、お前は決し、て…一人じゃない事を……忘れ、るな」
「逝かないで……師匠」
「我侭、言うな…私はもう駄目だって、分か、ってんだ。……お前の事、見守って、る…から。……今まで、あ…がと……な」
その言葉を最後に、異形の命の灯火は消えた。
黒い靄が異形の体から出てくると、その姿は女の姿に戻った。
黒い髪、蒼白の肌。
髪と同じ色をした瞳は、もう二度と開かない。
息はない。その心臓が動くことも無い。
…だが、安らかな顔だった。眠っているだけに見えた。
ぽたり、ぽたり
女の頬を、少女の涙が濡らす。
「ああああああああああああっ!!!!」
少女は泣いた。叫んだ。
一生分の涙と声が出た気がしていた。
声と涙に限界が来た時、少女は意識を失った。
水底にあった意識が、段々と浮上してゆく。
どこまでも曖昧で、それでいて心地良さまで感じるような感覚。
「…うっ」
ぱちり、と目を開けると、そこは見たことも無い場所だった。
漠然と分かっているのは自分がベッドの上に寝ているということだけ。
少女はゆっくり身を起こしたが、体中に激痛が走り、声にならない叫びを上げた。
(ここ……どこ?)
少女がいたのは家具や壁、扉に蔓の装飾が施された統一感のある部屋だった。
外に出て行きたいのは山々だが体が思うように動かない為、それは不可能であった。
そして少女は違和感を感じていた。
(空気が、違う)
少女が感じた違和感とは、空気の清らかさにあった。
魔物が世に蔓延っている以上空気は完全に浄化されることがない。
しかし、少女が今いるこの場所にはそういった穢れが全く感じられない。
絶対にありえないことが起こっているのだ。
『あ、目が覚めたんだ』
「精…霊?」
いつの間にか入ってきていたのは水色の髪と瞳を持つ中性的な容姿の人物。少女に比べ、身長も高く大人びている。
普通の人が見ればただの人間にしか見えないが、少女は直感的に人物が精霊であることを感じ取った。
『当たり。おはよう、姫』
少女は自分が役目の名で呼ばれたことに驚きを隠せなかった。
「何で、知ってるの」
『君は賢いから、少し考えれば分かるはずだよ』
___精霊の姫 生まれ落つる
少女の頭によぎったのは、神の唄の一節。
「そっか…精霊だから」
『そういうこと!そうそう、君に会ってもらいたい人達がいるんだけど』
「大丈夫、さっきよりは楽になったから」
少女の言葉に精霊は嬉しそうに頷いた。
『入っていいよ』
扉から入ってきたのは、三人の精霊だった。
それぞれ真紅、新緑、琥珀の髪と瞳をした精霊達。
「四柱の精霊…?」
四柱の精霊とは、神が創った精霊達の長であり柱だ。
精霊達の色に見覚えがあったのは、その為だった。
『さ、話は長くなるからね。…肩の力を抜いて聞いてよ?』




