16話ーひとつの可能性
(…民たちが住んでいるだけあって、本当に深い霧)
ラピスは頬を刺す冷たい空気に顔をしかめた。
「大丈夫?ラピス」
「ん、平気」
「ま、こんなんでへばる程じゃあいつ等の娘じゃねぇしな」
深い霧の中を進むのはラピス、ブランシェ、カラギアの三人…正確には、シュリも含めての四人だ。
今、四人はアオバの里へ向かっている。
他のメンバー達はカナン皇国の各地へ赴き、調査にあたっている。
「それにしても、警戒し過ぎなんじゃないかしら」
「それが本来の民の在り方だ。…あっちからすれば、異常なのは俺たちの方だぞ」
いつ命を奪われるかも分からない民たちは、ひっそりと身を隠すように暮らしている。
それぞれがそれぞれの血を繋ぐために。
それ故に、情報網は精霊たちに頼っている。
…そのはずなのだが、今回の場合は特殊な例だ。
精霊に頼れば、皇帝の許へ文を出す必要は無い。
民に伝えれば済む話なのだから。
しかし今回のような場合、精霊たちを頼ることの出来ない何かがあるという仮説が生まれる。
「…何が、起きてるのかな」
ぽつり、と呟いたラピスにシュリが相槌を打つ。
『さぁね。でも、精霊の気配は感じるよ』
「ほんと…?」
『うん、確かに精霊は里にいるよ。…だけど意識はない。聞こえるはずの声が返って来ないもん』
「意識が、ない?」
驚愕を滲ませた声でラピスが聞き返した。
『そ、意識がないの。…原因は分からないけどね』
「……魔族の仕業なの?」
ぴん、と空気が張り詰めた物に変わった。
シュリはふるふると首を横に振る。
『分からない。…でも、可能性は十分ある』
「そう……」
〈去れ、立ち去れ…〉
中性的な声が、辺りに響いた。
深い霧のせいかどこから声が聞こえているのかさえ分からない。
けれど確かに、声が聞こえている。
「あらあら、本当に警戒心が強いわね」
「さっきも言っただろ。これが本来の在り方だ」
カラギアとブランシェはそんな状況を気にするまでも無く、悠長に話している。
そんな中、ラピスは目を閉じ神経を研ぎ澄ませ、気配の数を探る。
(2、5……8人か)
「シュリ、取次ぎをして」
『りょーかい』
シュリはふわ、と霧の中に消えてゆく。
少しすると、鈴の音が鳴り響いた。
霧がゆっくりと晴れ、ローブに身を包んだ人影が姿を現す。
人影はラピス達三人を見つめ、やがて頭を垂れた。
「無礼をお許し下さい、御三方」
「気にするな、俺たちは気分を害した訳でもない」
カラギアの言葉を聞き、人影は再び頭を垂れた。
「…こちらへ。今から、里へ案内致します」




