13話ー詳細
「陛下…そろそろ本題に……」
「おお、そうだったな」
思い出した、と言わんばかりに少し驚いた顔をするタカオミ。
それを見てソウシと呼ばれた男は頭を抱える。
「___そなたらは……魔族を相手に戦う事が可能か?」
タカオミの表情がさっきまでの柔らかな雰囲気を纏ったものから、ぴんと張り詰めたものに変わった事に周囲は気づいた。
さっきまでとは、まるで人が違う。
タカオミの問いに対し、カラギアは事実を口にする。
「正直、戦うこと自体は可能でしょう。……ですが、勝率は五割もないのではないかと」
「うむ……魔族を相手にした経験のある者はおるのか?」
カラギアは迷った。悟られないように。
魔族を相手にする者はいないに等しい。
それ故に交戦経験がある者には理由がある。
(此処で話すと、後々民の事も……)
「残念ながら……」
「いない、か」
やはり優先すべきは目の前の問題ではなく、民の命。
(姫が生まれた以上、鐘の鳴る時は迫ってる。…世界がどう転ぶかは今後の人と、魔族次第だ)
タカオミはカラギアの答えに一切疑問を持っていない様だった。
そして、一通の手紙をカラギアに渡した。
___一週間前、アオバの里。
皇国の中でも特異な場所に、アオバの里はあった。
一年中霧に蔽われた山の中に人々がひっそりと暮らしているこの里は、外部からの侵入者をも通さない。
唯一外から里に入る事を許されているのも、皇帝の使者のみ。
その日はいつもと何も変わらない一日の筈だった___その事件が起きなければ。
「お兄ちゃん、こっちこっち!置いてっちゃうよ~?」
「待てって。そんなに急ぐと転ぶぞ」
そこにいるのは幼いツインテールの少女と、その兄である背の高い青年。
二人は山菜を採る為に里から少し離れた場所へ来ていた。
はしゃぐ少女には兄の声すら届いていないようだった。
兄である青年には、妹の気持ちがよく分かる。
始めて見る世界を前に、好奇心を揺さ振られるのも当たり前の事だからだ。
やはり兄妹というだけあって、似ている部分が沢山あるのだろう。
走って行った妹を追いかけようとした青年だったが、妹は幼いながらにしっかりとしている事もあってか、山菜を探す事にしたようだ。
___幸せな日常に終止符を打ってしまう出来事が、これから起こるとも知らずに。
少女は今まで里の外に出た事が無かった。
里の子供は皆、10歳を迎えるまでは里の中で大事に育てられる。
先月めでたく10歳を迎えた少女にとっては、里の外は未知のものであった。
___ドンッ
「あ、ごめんなさ……い」
ぐらり、と少女の体が傾いた。
その身から流れ出す鮮血が、地面に血だまりを作ってゆく。
「アカリー、何処だ?返事しろー」
青年は目的の山菜を手に入れると、妹の姿を探し始めた。
奥まで行ってしまったのだろうか、と妹の名前を呼びながら進む。
「アカリ、何処にいるんだ!?」
気づけば日は既に傾いていて、空は見事な黄昏色に染まっていた。
残酷な程に美しい空を、兄は見上げる。
(胸騒ぎが、する)
青年は走った。妹の姿を探して。
胸騒ぎはおさまらない。
だからこそ、必死に探した。
___ガサリ
茂みが揺れた。
「アカリッ!!」
弾け飛ぶように茂みの向こうへ向かう青年。
その先にあるものは、目を背けたくなる様なものだった。
「ア、カリ…?」
青年の目の前に広がるのは鮮やかな紅。
そして佇む異形と、その傍らの残骸。
残骸の中でも大きなものの傍には、紅に濡れた白のリボン。
それは、青年の妹の物で。
残骸の正体は、妹の頭部で。
「あ…ああ……」
青年の存在に、異形が気づいた。
異形の正体は、片腕が鱗の様なものに覆われた金色の瞳を持つ男。
(金の、瞳……つまりこいつは…魔族)
青年の中の冷静な部分が、警鐘を鳴らす。
でも、妹を__妹であった残骸を置いていく事など青年には出来ない。
「アカ、リ」
情けない、掠れた声が紡がれる。
ぐるぐると、青年の中で疑問が渦巻く。
___何故、妹はこんな姿になった?
___何故、此処に魔族がいるのか?
___何故…何故……?
ふと、獣の鳴き声が頭に響き渡る感覚に青年は襲われた。
聞いたこともないはずの鳴き声だというのに、不思議と懐かしさを覚える。
「お前もか……」
魔族の男が、その瞳に青年を映した。
怠そうに、一歩一歩青年に近付いてゆく。




