11話ー夜、即ち闇の満ちる時
あの後食事を終えると、部屋に帰って寝た一同。
皆が寝静まった頃にラピスはシュリと共に部屋を出た。
真夜中とはいえ、季節は夏真っ只中。
『蒸し暑いね、此処は』
「夏だから仕方ないと思うけど…」
二人は取り留めの無い会話をしながら、庭園を目指す。
庭園に出ると、空には満天の星が広がっていた。
(今日は新月。……光の加護が唯一無くなる時)
空を見上げても、そこに月は浮かんでいない。
星の瞬きは確かにあるが、星は闇には対抗できない。
辺りに誰もいないのを確認してから、結界を張る。
「フリッツ……出てきて」
小さく呟くと、柔らかな光が結界の中を満たした。
『久しぶり、どうしたの?』
「ちょっとだけ保険を掛けておこうと思っただけ。……手伝ってくれる?」
『もちろん。断る理由も無いからね』
光の精霊は笑った。
新月の影響で結界なしでは姿を顕微する事は出来ない。
結界は外からの影響を防ぐモノ。
故にこの状況下であってもそれは適応される。
目を閉じ、左手を胸に当てるとラピスは息を吸い込んだ。
【月無キ夜___満ちるは闇
月無キ夜___加護は消え去る
月無キ夜___災厄の時
為らば今 覆そう
今宵___光は満ちる
今宵___闇の力は抑制される
今宵___祝福の鐘が鳴り響く
今世界に顕微せよ 光の力】
歌い終わると同時に結界を解き、柔らかな光が溢れ出す。
溢れ出した光は世界中を巡り、光を満たしてゆく…。
ふぅ、と息をひとつ吐きラピスは精霊に笑いかける。
「ありがとう、フリッツ」
『いいのいいの、気にしないで。姫に頼られることは、僕たち精霊にとって誇らしい事だからね』
じゃあね、とフリッツは消えていった。
『ラピス、早く戻ろう?マスターが怒るだろうから』
「むぅ……もう少し涼んでも」
『ふーん、………チクって来よっかな~?』
「戻ればいいんでしょ。……もう、過保護なんだから」
『聞こえてるよ』
「……………」
ラピスは無言のまま、その場を後にしようとした
「あれ、ラピス?何でこんな時間にここにいるの~?」
___が、それはアルマの声に阻まれた。
「そんなに怯えないで?」
『何言ってんのよっ、このろくでなし男!!』
シュリが震えるラピスを守るように、アルマの前で声を荒げる。
アルマは鬱陶しそうにシュリを摘んで放り投げた。
『皆っ、ラピスを…姫を守って!!』
放り投げられたシュリが叫ぶと同時、ラピスの前に旋風が吹いた。
現れたのは数十に及ぶ精霊たち。
ラピスが怯えているのを見るや否や、精霊たちは明らかな敵意をアルマに向けた。
『何なの、このチャラい人』 『よし、殺ろう』 『さんせーい!!』
『姫に害を加えるとか……罰が必要だよね』 『皆、落ち着いて……徹底的に潰しましょう?』
精霊たちはアルマに術を放つ。
それは火であったり、水であったり、風であったり……。
精霊は自らの眷属にあたる属性を操る。
様々な術が交じり合い虹色に輝く光線が、アルマに直撃した。
声も上げずにアルマは倒れ伏す。
『よいしょっと。僕たちを見たっていう記憶を消さないとね』
ポゥ、と光の灯った手をアルマの額に当てる精霊。
体の震えはまだ止まっていなかったが、自身を落ち着かせるためにラピスは深呼吸をしてから精霊たちに声をかける。
「皆……ありがとう」
『気にしないで下さい。姫を助けるのも私たちの役目ですから…』
ラピスに微笑みかけるのはカーミナ。
精霊たちにとって姫は唯一無二の存在。
代わりなどいない。
これから生まれる事もない。
故に姫を助けるのは半永久的に生き続ける精霊の役目となるのだ。




