10話ー迷子の二人
迷ってから一時間が経つか経たないか位の頃、未だに二人は迷っていた。
ラピスと少女は手を繋いで歩いている。
「おねえちゃん、そっちのみちはちがうと思うの」
「…そうなの?」
「たぶん!」
自信満々に胸を張っているが、説得力が無い。
(今頃、ギルドの皆が私のこと探してるだろうな…)
はぁ、とため息をつくラピス。
前にも似たようなことがあった。
その時は街だったためにガラの悪い男に絡まれ襲われる所だったのをカイルに助けられた後、マスターに叱られてしまった。
「どうしたの、おねえちゃん?」
「うん。…皆に怒られるだろうな、って考えてただけ」
「おこられるの、やだ」
「私も同じ。わざと迷った訳でもないのに…」
「うん!」
少女は同じ事を考えているラピスを見て、嬉しそうに頷く。
「ねぇ、あなたの名前は?私はラピスっていうの」
「らぴす?おねえちゃん、おもしろいなまえだね!」
「そう、かな…」
「うん。えっとね、わたしはミヤビってなまえなの!」
得意げにミヤビは笑う。
「自分の名前は好き?」
「うん!…あのね、母上につけてもらったなまえなんだよ」
「そうなんだ…。私もお母様に名前をつけて貰ったの」
「えへへ、おねえちゃんとおそろい!!」
瞬間、視界の端にあった空間が歪む。
「ラピス!」
「あ、カイル」
カイルは歪みから姿を現す。
カイルは慌てた様子でラピスに駆け寄り、強く抱き締めた。
「心配したんだからな」
「……ごめんなさい」
「部屋まで連れてかなかった俺も悪いけどさ」
「私も迷うとは思ってなかった」
ラピスは軽くカイルを抱き締め返す。
(私、困らせてばっかりだな…)
「おねえちゃん、この人だぁれ?」
くいっ、とミヤビが服の裾を引っ張る。
カイルはラピスしか目に入っていなかったらしく、ミヤビの声に目を見開いた。
「ラピス、こいつは?」
「ミヤビ。私と一緒で、迷子なの」
はぁぁぁぁ、と長いため息がカイルから漏れた。
ラピスに回していた腕を解くと、ミヤビを抱き上げる。
「?カイル…」
「お前も掴まれ。皆のとこに行くぞ」
「うん…」
腕を掴み、ラピスは目を瞑る。
ほんの少しの浮遊感を感じ、ラピスは手に力を込めた。
カイルの腕が少し動くが、ラピスにそんな事を気にする余裕など無い。
「…着いたぞ」
声を聞き、恐る恐るといった様子で目を開く。
「ラピスっ!!」
「マス、ター」
「ああもう、何でいなくなるのよっ。心配したじゃない!」
目に飛び込んできたのはブランシェの姿。
ブランシェは相当取り乱していて、目に涙を浮かべている。
「これからはいつも誰かと一緒に行動するのよ?」
「マスター…。ごめんなさい」
「誰 か と 一 緒 に 行 動 するのよ」
「…………はい」
いいえとは言わせない、と言わんばかりの気迫に圧されラピスは頷いた。
「ああーー!!ミヤビ様っ!」
「うっ、ヒオウ」
叫び声を上げたのは二十代後半と見られる男。
ヒオウと呼ばれた男はミヤビに駆け寄ると、しゃがみ込んで目線の高さを合わせた。
「またコデマリの宮から勝手に抜け出して……あなたは皇女の自覚が足りません!」
「だってお外に出たかったんだもん」
「だもん、じゃありません。せめて供をお付け下さい」
「だってみんなこれはだめ、あれはだめ、ってばっかりいうんだもん」
口を尖らせると、ミヤビはラピスに抱きついた。
「え、っと……ミヤビ様?」
「だめなの!おねえちゃんはそんなよび方しちゃだめ」
「じゃあ、ミヤビ?」
「なぁに?」
「何で私は抱きつかれてるの?」
「なんとなく!」
ミヤビは無邪気に笑う。
ラピスはその笑顔に癒されたような気がした。




