9話ーナギの宮
アマノセの中心地。
独特の雰囲気を持つ庭園には青々とした緑が生い茂り、やや大きめな池があった。
池の上には朱塗りの橋が架けられている。
「……此処が、宮…」
表情にこそ出ていないがラピスは目の前の光景に圧倒されていた。
今まで見たことも無い異国の文化。
様々な場所に依頼を受けに行っても、その殆どが人里離れた秘境であった為に国そのものの文化を見ることはあまり無かった。
しかし建物の所々には黒い焼跡が残されている。
12年前、皇国の首都であるアマノセでは反乱が起きた。
反乱の原因は戦争に敗北したことによる国土の減少。
その当時、皇国の全盛期は去り衰退していく国に反乱派の国民は増えていく一方。
名を上げた女将軍も国を追われ、その他の武人も行方知れずになる事が多くなった。
国民はそれは自身が失脚する事を恐れた皇帝によって起こされた物だと認識し、反乱軍を立ち上げ反乱を起こした。
だが反乱軍が皇帝の下に辿り着いた時、既に皇帝は殺された後だった。
明らかな他殺であるものの、誰によって殺されたかは未だに謎のまま……。
現在帝位は当時17歳であった皇太子が継いでいる。
(……師匠の生まれ育った地)
ラピスにとって初めて訪れたこの地は師の故郷でもある。
懐かしさを感じずにはいられない。
「おい、ラピス」
「え?何、カイル…」
「こっちの台詞だ。何ぼーっとしてんだ……皆はもう部屋に行ったぞ」
呆れたように話すカイルに、ラピスは思っていた以上に時間が経っていることに気づいた。
ここに着いたのはまだ空が青かった昼下がり。
だが今、空は完全な黄昏色に染まっていた。
「あ…、ごめん」
「別にいい。そこまで気にしてる訳でもねぇから。…ほら、行くぞ。にしてもそんなに珍しいか?」
「うん。この空気が…少し、懐かしいと思っただけ」
「…懐かしい?」
はっ、としてラピスは口を噤む。
(カイルには…言っちゃダメだった。……私の過去を知ったら、きっとカイルも巻き込む)
民ではないカイルを巻き込みたくない、とラピスは話を逸らす。
「カイル、部屋って何処なの?」
あからさま過ぎる話の逸らし方。
カイルは気づいていたが、特に追求もせず言葉を返す。
「この廊下を右に進んだ先が男の部屋。でもって女の部屋は左に進んだ先だ。…夕食の時間になったら呼びに来る奴がいるらしい」
「そう…じゃあ、また後で」
ラピスは左へと進む。
「迷った、みたい……」
部屋の場所が分からず、きょろきょろと周りを見回しても誰もいない。
先程まで廊下を歩いていたはずなのに、ラピスが立っているのは最初とは違う庭園。
殺風景で、雑草だらけだ。
ガサッ
「!!」
反射的に刀を抜き、現れたモノに突きつける。
「きゃっ!!」
「…え」
刀を突きつけた先にいたのは、4,5才位の黒髪の女の子。
やたらと質の良い服を着ていることから、高貴な存在であると検討がついた。
「何で、子供が…?」
「ふぇ……」
少女は突きつけられた刀に怯え、泣き出してしまう。
「あ、えと…ごめんなさい。あなたを襲うとか、そんなつもりはないから」
「だっておねえちゃ、ひっぐ…かたな、むけたもん」
「これは…反射というか……何と言うか」
少女の頭を優しく撫でながら、ラピスは弁解する。
何はともあれ、刀を向けたのは事実。
ラピスは慣れない手つきで子供を抱えた。
抱えられると、少女は泣き止んだ。
「あなたはどうして此処にいるの?」
「…まいご、なったの。おねえちゃんは?」
「私も、迷ったの」
「おねえちゃんみたいな人でもまようの?」
「私は方向音痴みたいだからね。よく迷っちゃうの」
「おもしろーい!」
あはは、と少女は楽しそうに笑う。
(此処…本当に何処だろ?)
ラピスは首をかしげていた。




