8話ーカナン皇国
出発から三日目の昼下がり、五大ギルドの面面は皇国の首都であるアマノセに到着した。
「今回も長かったなー」
ふー、と伸びをするのはドーゴ。
「邪魔よ。そのでかい図体何とかしなさい、筋肉ダルマ」
「今更だ、諦めろブランシェ」
「…そうね、リクの言う通りだわ。ドーゴに突っかかっても時間の浪費をするだけね」
「そういうことだ」
うんうん、と頷く二人。
「グランドマスター」
「何だ?ディー」
「今日は何処に滞在することになってるんだ?」
ああ…言い忘れてたか、と声を漏らすカラギア。
「それなんだけどな…」
「そこの強面の人ー!」
ピクリ、と頬を引き攣らせながらカラギアは声の主を睨む。
「あぁ?」
「そう!貴方です。ギルドの方で合ってますよね?」
「…それで?」
「はい。今日の宿の件なんですが…人数が多すぎて、普通の宿は全部断られました」
「はぁ!?そっちに任せろとか言ってたじゃねぇか!」
人目も憚らず怒鳴り散らす。
声の主である男は慌てる訳でもなく、話し始める。
「あー、そんなに怒らないで下さいよ。代わりに宮に滞在してもら」
「宮だとぉ!?」
「宮です。知ってると思いますが、皇帝陛下の所有物なので、粗相の無いように。…あ、宮と言っても、ナギの宮ですけどね」
男が話したように「宮」というのは皇帝一族の所持する建物だ。
現在の皇帝はコデマリの宮、エンジュの宮、ナギの宮という三つの宮を所持している。
コデマリの宮には皇帝の直系にあたる人物が、エンジュの宮には直系ではないが皇帝の血筋を持つ人物がそれぞれ住んでいる。
今回名前の挙がった「ナギの宮」とは他国からの客人を招く場所である。
(やっぱりな…。それだけ事態は深刻ってことか)
ちらり、とカラギアは各ギルドのマスターに視線を向ける。
もっとも、この場に居るメンバー達も依頼の本当の内容を知っているが。
「…行くぞ」
カラギアが言葉を紡げば、その場に居たギルドメンバー達全員が頷いた。
闇に包まれたとある場所。
豪奢な椅子に腰掛ける人影がひとつ。
人影の前には数人の黒衣を纏った人物達。
黒衣の者たちは皆フードを目深に被っている為、その表情は読み取れない。
「紅が行方不明というのは、本当か?」
椅子に腰掛けた、闇の様な紫色の髪を持つ男が問う。
苛立たしげに、不機嫌そうに。
「はっ。真で御座います、長。帝都から北にある不可視の森にて、紅の配下であったセルと見られる死体が見つかりました。…ですが、紅の死体は見つかりませんでした」
頭をたれ、答える黒衣。
その答えに、男は興味を示した。
「ほう…。原因は掴めたのか?」
「いえ……。ですがひとつ、気になることが」
話してもいいか、と問う様な黒衣の視線に男は頷く。
「…不可視の森の精霊が、敵意を向けてきたのです。我々が森に踏み込む際、一悶着ありました」
「精霊がか?」
間髪入れずに問われ、黒衣は大きく頷いた。
「はい。…改めて、精霊の恐ろしさを実感しましたよ」
悔しげに言葉を吐き出す黒衣に、男は不快感を露にした。
ピリピリとした魔力が、空間を満たしていた。
「お…長……」
「黙れ。……俺は今、機嫌が悪い」
「も、申し訳……」
プレッシャーに負け、黒衣は倒れた。
倒れた黒衣を、別の黒衣が背に乗せる。
倒れた者以外の黒衣達は、そそくさとその場を後にした。
___機嫌の悪い長はどんなものよりも恐ろしい事を、その場の誰もが知っていたからだ。
パタリ、と扉が閉まった。
「くく、はははははは!!」
男は狂ったように笑い出す。
広い部屋に、声が木霊する。
「……面白い。誰だ?紅を殺ったのは」
ニィ、と三日月の様に吊り上げられた口。
爛々と輝く目。
「必ず見つけて…………殺してやるよ」
まるで子供が新しい玩具を見つけたような表情で、男は虚空に呟いた。




