5話ー教えて
カツン、カツン
静かな廊下に足音が響く。
足音のペースは速い。
(やっぱり……平和ボケしてたのかな、私)
ラピスは少し前に、魔族を殺した。
容赦なく、無慈悲に。
…だからこそ。
だからこそ、どこかで安堵していたのだろうと、ラピスは思う。
もう諦めたのではないか?と。
魔族を殺す度に思っていた。
だが今回のことは、その浅はかさが原因だ。
(監視されてない訳がないのに。殺した以上、気づかれるのも当たり前……結局、私は何も変わってない)
小さく震える手。
在りし日の絶望。
二つの喪失からくる恐怖。
それが自分の弱さの証だと物語っているような感覚が、ラピスを襲った。
母を守れなかった少女。
師を殺した少女。
変わらないのは、どちらも同じ。
少女は弱い。
(弱いのは、私自身……!)
「お母様っ……師匠っ…私は、何も出来ないの?」
虚空に向かって、ラピスは声を絞り出す。
頼りないソプラノが響いて消えた。
悔しい。そして悲しい。
自分が何一つ変われていないことも、自分の心が弱いことも。
宿命を背負うことは、今のラピスにとっては誇らしいことだ。
けれど
少女は喪い過ぎた
大切なモノを
それは人 それは温もり それは_____
「おい、ラピス?」
テノールの聞き慣れた声が、ラピスの鼓膜を振るわせた。
(カイルの、声)
頼ってはいけないと、頭の中で声がする。
自分は強くなければいけないと、込み上げてきた熱いモノを堪える。
カイルはラピスが平常心ではないと気づいた。
「ラピ、ス…?」
俯いたまま、何も言わずに佇むラピス。
(私に、出来ること…)
「大丈夫か?」
こくり、とラピスは頷く。
その様子にカイルは少し安心した。
感情表現が人よりも苦手なラピスが、こんなに動揺することは滅多にないからだ。
ここまで動揺しているのは、ラピスが男が苦手になったある事件以来のことだった。
(一体、何があったんだよ)
無理に聞き出すようなことはしない。
ラピスはカイルを受け入れている様に見えて、どこか線を引いているように接している。
それがカイルには分かっていたからだ。
誰にだって入られたくない領域というモノがある。
そこに土足で踏み込むことはしたくない。
「ありがとう。もう、平気だから」
「…気にすんな」
ラピスはそっとカイルから離れる。
「ほら、行くぞ。俺はお前を迎えに来たんだからな」
「うん」
二人は横に並んで歩く。
肩がぶつかりそうでぶつからない、一定の距離を保ったままで。
(今みたいに心地よい時間が、いつまでも続いたらいいのに…)
過去を想って、ラピスはそんなことを頭に浮かべていた。
___例えそれが幻想のままになってしまう、と知っていても。




