2話ー怪しい雲行き
あの後泣き付くリィルを何とか宥めたラピスは、寮の自室で必要な荷物だけをまとめていた。
「明日から依頼か…」
『ラピス!』
「何?シュリ」
いつの間にか出てきていたらしい精霊に、振り返ることもなく聞き返すラピス。
シュリはそんなラピスの様子に少しだけムッ、っとすると、不満そうに声を上げる。
『何もそんなに急がなくてもいいじゃない。マスターだって遅れてきても大丈夫って言ってたじゃないの』
ようは『荷造りに根詰めるのは体に悪いから、休んだほうがいいのではないか』と心配しているのだ。
長い間共にいるラピスには分かる。
大体シュリが似たようなことを言うときには、基本的に少しだけ責めるような口調になる。
(心配してくれるのは嬉しいけど、過保護な気がする…)
そもそもラピスからすれば、そんなに心配されるようなことはしていないと認識している。
「ただマスターが過保護なだと思うけど」
『絶対違う!ラピスは無茶をし過ぎるから、マスターだってああ言ったのよ』
手のひらサイズのシュリはラピスの頬をペシペシと叩きながら言った。
はぁ、とため息をつくラピス。
「いつ私が無茶をしたの」
『魔族と一人で戦って、死に掛けたのはどこの誰だっけ?』
「…………」
返す言葉もないラピス。
図星だ。
ラピスに勝ち誇った顔を向けるシュリ。
当然だ。
紛れもない事実の上、マスターに笑顔で怒られたのは記憶に新しい。
『ほら、一旦休憩しよ!』
「ちょ、シュリ!?」
『聞こえない聞こえない。みんなーっ、そこに隠れてなくてもいいから出てきてよ!!』
シュリが声を上げると、精霊たちが顔を出した。
その中の一人の精霊の姿に、ラピスがあ、と声を上げた。
「…カーミナ?」
『久しぶりです、姫』
名を呼ばれ穏やかに微笑む、長い髪を後ろに結い上げた手のひらサイズの精霊。
その精霊の中性的な顔立ちから、男にも女にも見える。
もっとも、精霊に性別は無いが。
「二年ぶり、かな。…どうしたの?いつも人のいるところは嫌いって言ってたのに」
『シュリから、姫がまた魔族と相対した、と伺ったので…』
「う、その事はごめんなさい」
『別に言ったところで直るものでもないですから、何も言いませんよ。…今日は伝言があるんです』
「伝言…?」
カーミナの纏う空気が一変し、他の精霊たちも息を呑む。
『“ギルド総本部で話がしたい。ブランシェにはもう伝えてあるから、詳しいことはブランシェから聞け”と、フェルマータから』
“フェルマータ”
それは古の神話に登場する民の名。
忘れ去られた存在。
だがラピスは知っていた。
彼らもまた、血を繋いでいることを。
だから分かる。
(何かが……動き出してる。今まで以上に)
決意のこもった瞳に、カーミナは在りし日の面影を見た。




