26話ー最初の喪失の記憶
7話の夢の続きです。
「な…んで、燃えてるの?」
『ラピスっ、あなたは隠れないと!!』
精霊__シュリは少女に慌てながらも声をかけた。
だが少女には、ラピスの瞳には、目の前の惨劇しか映されていなかった。
そして、気づいてしまった。
母のいる家の扉が、破壊されていることに。
ラピスは走る
シュリの言葉など耳に入らなかった
ただ、母のところへ 家へと走る
何も考えてなどいない
自分が‘どんな存在’であるかさえ、まだ知らなかった
それほどに 幼かった
「おかあさ、ま?」
「ラピ……ス」
家に駆け込んだラピスの前には、血まみれで倒れこんでいる母の姿。
母はラピスを見ると、痛みと悲しみに顔を歪め、ラピスの名を呼ぶ。
「おかっ…さま、どうして……?」
ラピスはよろよろと歩き、母の体に抱きついた。
その手は、小さく震えている。
「ごめ、ね、ラピス…。わた、し…あなたを置いて、逝かなきゃ、いけな、みたい」
「やだっ、やだよ!ひとりに、しないで……」
『ラピスっ、ヴィオレッタ!!…っ!』
シュリが叫びながらやって来た。
だがシュリはヴィオレッタの姿を目にすると、口元を押さえる。
血まみれのヴィオレッタには、右足がなく、その胸からはおびただしいほどの血が溢れている。
出血は止まるどころか、ドクドクと脈の音に合わせ、流れ出るばかり。
___もう、ヴィオレッタは助からない。
シュリは現実を目の当たりにし、立ち尽くすばかりだった。
「ラピス…あなたに、唄、を……教えた、よね」
ヴィオレッタの問いに、その顔を涙で濡らしたラピスはこくり、と頷く。
「あの、唄…の、『姫』は、あなた…なの……。私、あなたに…宿命、を……背負って、ほしくなくて…ずっと、言わなかった、の……ごめんね、ごめんね…。母なのに、もう、あなたを守れない、母様を、ゆるして」
「やだ……、わたしはおかあさまとっ、いっしょに、いるっ!」
ヴィオレッタは、シュリを見つめた。
____この子の事…お願いね
シュリは涙を拭った。
そして、決意を瞳に宿す。
『ラピス…。あいつらが来る前に、いかないと』
「いやっ!!おかあさまも、いっしょに、いくの!!」
ゆずらないラピスの頭を、ヴィオレッタがそっと撫でる。
「母様の、最後のお願いを、聞いて……?」
ラピスは目を見開き、ヴィオレッタの顔を覗き込む。
ヴィオレッタは、優しく笑った。
「あなたは…生きて」




