16話ー森の中で
ヒュオオオオォォ
辺りは見渡す限りの草原。
時折吹き付ける風にその蒼銀の髪を揺らしたまま、ラピスは立っていた。
身に着けているコートがはためき、ラピスは目を閉じる。
精霊の声を拾えるように、感覚すべてを耳に集中させた。
『森の中に、魔族がいます!ラピス、泉へ急いでっ』
風に乗って、焦っているような声が響く。
パチリ、と目を開きラピスは取り出した木製の笛を吹いた。
ピイイィィィ
笛の音が響き渡ると、大きな羽音を立てながら、黒銀の巨大な影が現れた。
鋭い嘴に、広げられた巨大な黒銀の翼、深い海の底のような青い眼。
かつて『天からの使い』と呼ばれた鳥___ヘヴェルが、そこにいた。
「久しぶり、ベガ。西の森までお願いできる?」
ラピスの言葉に嬉しそうに喉を鳴らすベガ。
「そう、ありがとう。じゃあ行こう」
ベガの背に乗り、再び笛を鳴らした。
「…ここに、いるの?」
『フィアが言ってたんだもの、絶対いる。今は気配を消してるだけだよ』
ラピスの問いに、シュリがそう答えた。
森の奥深くに、その泉はあった。
警戒を強めつつ、ラピスは足を踏み出そうとした。
そのときだった。
「!?」
反射的にその場から後ろへ跳ぶと、先程まで立っていた場所に強い衝撃が加えられ、地面に亀裂がはしった。
「あーあ、外しちまった」
そこにいたのは、漆黒の長い髪に、魔族特有の金色の眼を持つ男だった。
「そうやって先走るからですよ。こいつはただの人間とは違うんですから」
木の陰から出てきたのは、鮮血のように紅い髪を縛っている男。
その眼は言わずもがな、金色だ。
紅い髪の男がニタリ、と薄気味悪い笑みを浮かべた。




