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第六話 小さなお客様

 ——リリアの駄菓子屋、開店三日目。


 ドアに取り付けた鈴が小さく鳴る。


 リリアは小首を傾げた。


 すぐにまた鈴が小さく鳴った。


 リリアは不審に思い、席を立つ。


 レオンはリリアに声をかけた。


「リリア、ドアは静かに開けろ」


「はい。わかりました」


 リリアがゆっくりとドアを開けると、男の子が背伸びをしてドアノブに手を伸ばしていた。


 男の子は後ろに下がり、リリアはドアを大きく開けた。


「いらっしゃいませ。お買い物ですか?」


 男の子はこくんと頷き、店の中に入った。


 リリアはドアを閉め、カウンターの奥から男の子の様子を見守った。


 男の子はカウンターに駄菓子一つと握り締めた銅貨五枚を置き、リリアに尋ねた。


「これください」


 リリアは銅貨二枚を受け取り、男の子に残りの銅貨を返し、駄菓子を手渡した。


 男の子は嬉しそうに笑った。


「ありがとう」


 踵を返し、ドアの前で立ち止まる。


「リリア、あの子は両手が塞がっている」


「はい」


 リリアは慌ててドアを開けた。


「ありがとう」


 男の子は笑顔で店を出て行った。


 リリアはドアを閉め、息を吐いた。


「レオンは気づいていたのですか?」


「ああ。上菓子屋を思い出してほしい。引き戸になっていた。引き戸の窓は、子どもの顔を確認できる大きさになっていた」


 変わらぬ口調で続けた。


「この店の内装は大人向けのデザインになっている。内装を決めたのは旦那様に雇われた職人だが、リリアが一言言えば変わっていたかもしれない」


 リリアは肩を落とした。


「リリア、少し席を外すが、構わないか」


「はい……」


 リリアは俯いたままイスに腰を下ろした。


「失敗は誰にでもある。それよりも笑顔を忘れるな」


「はい」


 顔を上げ、笑顔を作る。


 レオンは外へ出て行った。


 一人になり、ため息をついた。


 しばらくして、レオンが戻ってくる。


 彼はドアを開け、金属の塊を地面に置き、ドアが閉まるのを防いだ。


 レオンは店に入り、リリアに言った。


「こうなると思って、エルザに用意してもらっていた。これで、子どもだけでも買い物ができる。迷惑だったか?」


 リリアは首を横に振り、柔らかく微笑んだ。


「レオン、ありがとうございます。ドアのことはお父様に相談しようと思います」


「ああ」


 レオンはリリアの傍に控え、帳簿を手に取る。


「レオン、開店初日から気になっていたのですが、それは何をしているのですか?」


「駄菓子の売上を記録している。どの駄菓子がどれだけ売れたか知っておくことで、人気の駄菓子がわかるようになる」


「見せてもらってもよろしいですか」


「ああ」


 リリアは帳簿に目を通し、小首を傾げた。


「この『正』は何でしょうか?」


「僕の故郷では数を数える際、その文字が使われている」


「もしかして、レオンの実家も商家なんですか?」


「そういう知識があるだけで、普通の家庭と変わらない」


 リリアはレオンに帳簿を返す。


「レオン、ありがとうございます」


 子どもが来店し、リリアは微笑んだ。


「いらっしゃいませ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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