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第四話 開店まで、あと少し

 リリアはダイニングルームで遅めの昼食を取っていた。


 パスタを口に運ぶ。


 口の中のものを飲み込み、ナプキンで口元を拭き、グラスの水を一口飲んだ。


 所作の一つひとつから気品が溢れていた。


 そこへオスカーとレオンが近寄る。オスカーがリリアに声をかけた。


「リリア、食事中に悪いが、少し話を聞いてくれるか」


「はい。何でしょうか?」


「店を開くにあたり、娘たちには護衛をつけようと考えている。レオン殿は視察を最後に騎士を辞めるつもりでいた。そこでレオン殿と交渉し、リリアの店の専属護衛になってもらおうと考えている」


「私は構いませんが、なぜレオン様は騎士をお辞めになるのですか?」


「大人にはいろいろと事情があるんだよ」


 リリアは柔らかく微笑んだ。


「わかりました。レオン様、よろしくお願いします」


 オスカーはリリアの傍らに控えている使用人に言った。


「少し留守にする」


「畏まりました。旦那様」


「レオン殿、行きましょう」


「ああ」


 二人はその場を後にした。


 *


 ——半月もしない内に、レオンは騎士を辞め、ベルフォード家の門番を務めていた。


 彼が時折見せる遠い眼差しを、リリアは不思議に思っていた。


 ある日、リリアはレオンに尋ねた。


「レオン様、騎士をお辞めになったことを後悔されているのですか?」


「リリアお嬢様、僕は使用人です。もう敬称は不要です」


 リリアは微笑んだ。


「レオン様が以前のように私のことを『リリア』と呼んでくだされば、私もやめます」


 レオンは眉尻を下げた。


「リリア、僕は後悔していない」


「なぜ、レオンは寂しそうな目をされているのですか?」


「騎士を辞めたことに未練はない」


 レオンは息を吐いた。


「たまに故郷のことを思い出す」


「お父様に言って、お休みをもらうのはどうですか?」


「僕の故郷はとても遠い場所にある。それに、リリアの護衛ができなくなる」


 レオンは口元を緩めた。


「だが、安心してほしい。故郷に帰る目途は立っている」


 リリアは少し俯いた。


「もう会えなくなるんですか?」


「ああ」


 リリアは顔を上げ、笑顔を作った。


「少し寂しくなりますが、よかったです。お店の様子を見てきます」


「ああ。気をつけてな」


 リリアは改装中の店へと向かった。


 ふと足を止め、振り返る。


 遠目でレオンを見ながらつぶやいた。


「せっかく会えたのに、寂しいです……」


 踵を返し、小さな足取りで店へ向かった。


 オスカーから商売のいろはを教わり、それが終わると店に足を運ぶ。リリアの日課になっていた。


 *


 ——さらに数日が経過した。


 リリアとレオンはオスカーの書斎で、彼と打ち合わせをしていた。


「リリア、店の名前は決まったか」


 リリアは首を横に振った。


「ずっと考えているのですが、いい名前が思い浮かびません」


「レオン、お前ならどうする?」


 レオンは顎にそっと手を当てた。


「『リリアの駄菓子屋』にします」


「レオン、上菓子屋ではないのですか?」


「客層は子どもだから、短くて覚えやすいものがいい。それに、駄菓子は響きがいいだろう?」


 リリアは頷いた。


「お父様、お店の名前は『リリアの駄菓子屋』にします」


「わかった。そのように手配しよう」


 *


 ——リリアの駄菓子屋開店前日。


 リリアとレオン、手伝いを買って出たエルザの三人が駄菓子を陳列していた。


「レオン、明日が楽しみですね」


「ああ」


 エルザは眉を八の字にし、レオンに小声で話しかけた。


「騎士様、本当にこれでいいのかい?」


「ああ。僕たちが教えては、リリアのためにならない」


 ふふっとエルザは笑った。


「口を挟まない約束だったけど、騎士様が傍にいるのなら安心できるよ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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