第9話「腹ペコ猫vsオタク事件・2」
ロータリーを歩いていた周囲の人々の視線が、テツとバネッサに集まる。
おおぅ。
そんな小さな感嘆の声が、ちらほら聞こえた。
スマホを取り出して構える人の姿もある。
恥ずかしい!
「バネッサさん! バネッサさんしか……あっ……えっと」
どうして、そこで口ごもる!
バネッサの頭脳は、緊急事態モードに入った。
採取師は危険から逃げるんだ。
ギルさんの教えだ。
無言で踵を返し、全力ダッシュでその場から逃げる。
「待って、待ってください、バネッサさん! 置いていかないで!」
追いかけるテツに向けて、拍手が起こる。
スマホのカメラも、二人の背中を追いかけていた。
なお、その様子は動画サイトにアップされ、後日、テツはクロエとオリヅルとパトラに散々絞られることになる。
◆ ◆ ◆
バネッサは、走りながら頭をフル回転させていた。
冷静に考えろ。
明日は、クロエ商会のパーティーだ。
ホテルには、前日入りしている偉い人たちもいる。
つまり、周囲には警備の採取師がいる。
これを使う。
今いる繁華街と、ホテルの位置を頭の中で確認する。
方角は、こっちだ。
居酒屋横の路地に飛び込む。
ごみ袋の山を飛び越え、フェンスをよじ登る。
ホテルがある大通りを目指し、狭い路地を駆け抜ける。
しかし、背後から聞こえるテツの静かな足音が、なかなか振り切れない。
体格が違う。
だてに戦闘職じゃない。
なんなの。
ねえ、何なんですか。
◆ ◆ ◆
五分後。
テツは、ホテル周辺に待機していた採取師たちに取り押さえられた。
なお、この事件は「腹ペコ猫vsオタク事件」として、しばらく採取師の酒場のネタになった。




