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第6話「ハル商会、その後・1」

# 第6話と第7話は「久遠のバネッサ -東北三度・最後の焚火-」の後日談となります。

# ネタバレを含みますので、ご注意ください。

# 第6話と第7話は「-東北三度・最後の焚火-」の後日談となります。

# ネタバレを含みますので、ご注意ください。


翌朝。


ビュッフェのサラダにかかっていたドレッシングが抜群に美味しくて、食べ過ぎた。


昨日、あんなに食べたのに。


ホテルから駅へ歩きながら、バネッサは反省する。


目が覚めた時、軽く走ろうと思って窓の外を見た。

しかし、慣れない街の雰囲気からして、迷いそうな気がしたのでやめておいた。


日帰りの予定なので、今日はリュックだけだ。


薄緑のワンピースに大きなリュックは似合わないが、気にしない。


お土産のうどんと、ペットボトル二本分の出汁が、ずしりと重い。

早く現地で渡して、身軽になりたい。


駅の路線図をふむふむと眺め、切符を買う。


乗り換えが数回あるので、駅弁は諦めた。

というか、サラダがまだお腹に残っている。


昨日乗ってきた列車に乗り、さらに北へ。

途中駅で私鉄に乗り換える。


昨年一度使った路線だ。

迷う不安はない。


昼少し前に、目的地の駅に着いた。


ぱらぱらといる降車客に混ざって、改札を出る。


駅前のロータリー。

その後ろに見える山。


一年前と変わらない景色だ。


ロータリーには、白い軽トラックが止まっていた。


「ハルアキさん、ご無沙汰しています」

「あれ、アネッサさん。髪の毛、金髪にしたんだ」

「えへへ。おしゃれしてみました」

「うん、似合ってるよ。嫁さんがいなければ、デートに誘うところさ」


ハルアキは、ハル商会の商人ハルの息子だ。


以前会った時の彼は、ハル商会とは距離を置き、ごく普通の漁師として生きていた。

転生者社会の秘密めいた空気が苦手なのだと、そう聞いていた。


その彼が、今は母親の残した海産物部門を引き継ぐ側にいる。


事件の後、ハルは海産物を取り扱っていた部門を、一般社会の企業として独立させた。

ハルアキは漁師を辞め、その企業の専務になった。


転生者社会そのものに戻ったわけではない。

けれど、母親が残したものを、彼なりの形で引き継いだのだろう。


少なくとも、前より息がしやすそうな形には見えた。


「でかいリュックだな。荷台に乗せるか。……わ、重っ!」

「すみません。お土産が入ってて」

「見かけによらず、力持ちだなあ。先に助手席に乗っててくれるかな」


数十分のドライブ中、ハルアキはその後の話をしてくれた。


彼は、来年結婚する予定だそうだ。

奥さんになる人は、もうすでに父であるハルと三人で暮らしており、会社も手伝っている。


事務職のえっちゃん――ナカイが、彼女を教育しているそうだ。


ハル商会とは、今もほとんど接触がない、とハルアキは言う。


「まあ、喧嘩しているわけじゃないけど、お互い気まずいからね。えっちゃんがそのあたり、橋渡ししてくれているから助かっているよ」


ハルアキは、以前より少しだけよく笑うようになった気がした。

無理に笑っているのではなく、話す先が決まった人の笑い方だった。


駅から半島を横断するバイパスを抜けると、海と漁師町が見えてきた。



ハルアキたちに、自分が「バネッサ」であることをわざわざ打ち明ける必要はない。


バネッサは、そう考えている。


ハルアキは特に、転生者社会と距離を置きたいはずだ。

それに、ハル商会のハル社長も商人である。


採取師であるバネッサの素性がどうこうというのは、あまり関係のない話だろう。


あくまで、アネッサが金髪に染めた。

そういうことにして振る舞おう。


懐かしいハル商館に到着した。


懐かしい建物なのに、玄関に出入りする人の流れが違っていた。

山の匂いより、海の匂いが強い。

同じ場所なのに、少しだけ別の生き物になったようだった。


一階は海産物の会社。

二階が商館――表向きは山岳警備のNPO。

三階が、ハルたちの自宅。


外観は記憶のままだが、中身は変わっている。


一階の応接室に通された。

しばらく待つと、お茶を持ってえっちゃんが入ってきた。


「アネッサちゃん、お久しぶり。あら、その髪いい色ね。かわいいわ。うん、似合ってると思う」

「えっちゃん、ご無沙汰しています」


「あら、ちょっと痩せたんじゃない? あ、よく見るとそうでもないわね」

「えっ。太り、ました、かね」

「まあ、誤差の範囲よ。大丈夫。若いんだから、少し絞れば元通りよ」

「は、はは」


「後で上にも顔を出すんでしょ。その時、声をかけてくれる? またお茶持っていくからね」

「はい、わかりました」

「じゃあねえ、アデュー」


えっちゃんは、相変わらずのマシンガントークだった。


ほぼ入れ替わりで、ハルアキと若い男性が入ってきた。

名刺を交換する。


名刺には「イシノ・バネッサ」とあるが、目の前の二人は特に気にしていなかった。


若い男性は、バネッサの店に送る品の担当者だった。

バネッサは、両手でその手を包むようにして握手する。


「これ、送ってもらった品で作った出汁と、店で出しているうどんです。皆さんで食べてください」

「いやあ、楽しみだなあ。あとでえっちゃんに茹でてもらおう」


前回の事件については、車の中であらかた話をしていた。

そのため、話題は今後送る品についての情報交換や、漁獲量の話など、仕事面の話に終始した。


バネッサは改めて礼を言い、席を立つ。


「アネッサさん。二階の話が終わったら声かけてよ。また駅まで送るから」


一階の空気は、明るく、少し忙しく、海の匂いがした。

去年ここに来た時とは、同じ建物なのに、まるで違う場所のようだった。

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