第5話「オリヅルとパトラ・2」
店の名物だという肉料理は、格別だった。
オリヅルとパトラは、それはもう上品に、しかし同じ料理を二回もお替わりした。
食べながら、お互いの近況を話し合う。
パトラはテツと一緒に、周辺警戒の仕事で東北の山を転々としていたらしい。
テツも今週末のパーティーの警護には参加する。
だが、今日のこの集まりについては「女ばかりだと気疲れするから」と不参加を表明したとのことだった。
相変わらずだな、とバネッサは笑った。
オリヅルは前回の事件の後、つい最近まで関西の方で仕事をしていたらしい。
たしか、以前も九州に遠征していたはずだ。
他所の商館で働くのが苦手なバネッサは、素直に尊敬する。
「クロエ社長の方針でね。手の空いた戦闘特化の採取師の貸し出しに、力を入れてんだよ」
「戦争でもする気ですか」
「ああ、違う違う。東北はチームでの採掘が主流だから、特化型が育てやすいんだ。戦闘特化には、スポットの依頼が結構あるんだよ」
「というと?」
「バネッサのいる中央とかは、ソロも多いだろ? だから、掘るのも殴るのも、同じくらいできるようにならないと駄目だろう」
「まあ、ばらつきはありますが、平均的に伸ばさないと、とは言われていました」
「東北では、原則チームで動く。掘れなくても、殴れる採取師なら生きていけるんだよ。その逆もありだ」
オリヅルは、肉をひと切れ口に運んでから続けた。
「ピンポイントで即稼働できる戦闘特化の採取師ってのは、採掘が下手くそでも需要があるんだよ」
「なるほどなあ。育成期間も短く済みますよね」
「そうそう。私もパトラも、机に向かうのは得意じゃないからな。東北では早めに稼げるようになるから、ありがたい風習なんだよ」
「で、ですです。い、石のこととか、な、なかなか覚えるの、た、大変で」
「あたしはもう諦めて、戦闘特化で生きていくけどな。パトラはもっと勉強して、特化から卒業するんだぞ」
「う、うん。が、頑張る」
なるほど。
人数をたくさん抱えることで、分業体制ができているのか。
これも時代の流れなのだろうかと、バネッサは少し羨ましくもあり、寂しくもあった。
◆ ◆ ◆
二人と話していると楽しい。
今が楽しい分、明後日のパーティの事が億劫になる。
「いやだなあ、パーティ。出たくありませんよ」
「バネッサってさ」
オリヅルが肉を切り分けながら言った。
「はい?」
「もっと偉そうにしてもいいと思うんだけどな」
「なぜですか」
「だって、一応、……伝説とまで呼ばれたんだろ」
その言葉に、バネッサは少しだけ箸を止めた。
バネッサは肉を一切れ口に入れて、よく噛んだ。
美味しい。これは大変美味しい。
こういうときは、まず美味しいものの方を考えるべきだ。
飲み込んでから、バネッサは言った。
「伝説って、人が勝手に言っているだけですから」
「そういうもんか?」
「そういうものです。正直迷惑だなって。誰かに引き取って欲しいですよ」
オリヅルが吹き出した。
「オークションにでも出すか。結構高値がつくんじゃねえか」
「返品は受け付けません、って書いておかないと」
「ぜ、絶対、怪しまれるよ、そ、それ」
パトラが口元を押さえて笑った。
バネッサは少し安心した。
この二人の前では、伝説の何かじゃなく、ただの知り合いでいられる。
それが、とてもありがたかった。
◆ ◆ ◆
「明日、ハル商会に行くんだろ?」
「はい。食材で色々お世話になっているので、一度挨拶に行こうと思って」
「仕事がなきゃ、車で送ってあげたんだけどな」
「いえいえ。駅まで迎えに来てもらえますし。ありがとうございます」
「あの爺さんたち、元気かなあ。よろしく言っておいてくれよ」
正直なところ、ハル商会では、ホリイ頭目とゲンという老採取師くらいしか、まともにやり取りをしていない。
新しい人と親しくなることに苦手意識があるバネッサは、オリヅルのこういう面も尊敬している。
「ええ、まあ。会えたなら」
バネッサは、苦笑いしながらうなずいた。
その後は、クロエやテツへの軽口、この地方の美味しい食べ物の話で盛り上がった。
ホテルまで送ってもらい、二人は帰っていった。
彼女たちは、パーティーの際、室内で警護を担当するそうだ。
当日、時間があったらまたご飯を食べようと言ってくれた。
ギルさんの時代に、もっと女性の採取師がいたら楽しかっただろうなあ。
ギルの商会と契約していた採取師は、圧倒的に男性が多かった。
商人見習いにはそこそこ女性もいたが、採取師は男性ばかりで、女性はバネッサが指で数えられる程度しかいなかった。
ギルの商会だけではなく、バネッサのいた地方の他の商館も、同じような感じだったかもしれない。
今の東北の採取師の環境が、少しうらやましい。
お腹がいっぱいで、眠くなってきた。
シャワーは明日の朝にしよう。
歯だけ磨いて、バネッサはベッドに入った。




