第4話「オリヅルとパトラ・1」
今までは通過だけしていた駅の改札を抜ける。
ここは、クロエの商圏に近い、東北でも大きな都市の一つだ。
高いビルが建ち並ぶ間を、太い道路が通っている。
その歩道を、バネッサは歩いていた。
大きなリュックを背負い、キャスター付きのトランクを引きながら、指定されたホテルを探す。
観光客も多い。外国人の姿もちらほら見える。
そのため、金髪で緑の瞳のバネッサが歩いていても、注目を浴びることはない。
大きな街は、その点では気楽で助かる。
ただ、コンクリートとガラスに囲まれている感覚は、少し苦手だ。
もう少し、木と土の香りがしないと落ち着かない。
目的地である大きなホテルに着いた。
少しざわついているフロントで受付をし、名前を書く。
――石野バネッサ。
バネッサが、非転生者社会――つまり一般社会で、現在使っている偽名だ。
昔の採取師は、偽名に「石」や「岩」などの字をよく使っていた。
その名残である。
部屋は、きれいなシングルだった。
窓からの景色はビルだらけで、あまり好みではない。
夜になったら、また印象が違うのだろうか。
ふう、とリュックをベッドに下ろす。
良い弾力だ。
ちょっと座って、お尻で弾んでみた。
ちょっと楽しい。
しばらく遊んでから、シャワーを浴びよう。
◆ ◆ ◆
夕方。
オリヅルとパトラに会う約束の時間になった。
ロビーは、相変わらず人で混雑している。
運よく空いているソファーに座れたバネッサは、ここでも弾力を確認していた。
「バネッサさーん」
少しハスキーな女性の声。
オリヅルだ。
声のする方へ目を向けると、懐かしい二人の女性が、ドアのところで手を振っていた。
オリヅルは、オレンジ色のシャツに青いスカート。
足元は革のサンダル。
スカート姿の彼女を見るのは初めてだ。
長身で体格の良い彼女だが、とても女性らしい。
しかし、スカートのラインに何か凶器を隠しているのは、いかがなものか。
隣には、パトラが立っていた。
髪が伸びたようだ。
きれいに編み込んで、後ろでまとめている。
桜色のワンピースに、白いパンプス。
パトラもオリヅルと同じくらいの身長と体格だが、こういった格好がとても似合っていた。
「ア、アネッサ……あ、バネッサさん。お、お久しぶり、です」
「やだなあ、パトラ。さん付けはやめてくださいよ」
「で、でも、わ、私、知らなかったし。バネッサが、ゆ、有名な……」
「中身は変わってませんよ。前と同じに話してくれないと、私が困っちゃう」
「わ、分かった。き、気を付ける」
パトラは相変わらずだ。
黙っていればクールな女性に見えるのだが、中身は可憐な少女のままだ。
「バネッサさん、じゃあ、店に行こうぜ」
「オリヅルさんも、さん付けはよして。落ち着きません」
「じゃあ、私もオリヅルって呼んでくれ、な」
女三人は、タクシーで移動することにした。
体格の良い二人に挟まれたバネッサは、まるで捕らえられた宇宙人のようだった。
パトラがお菓子をくれた。
こういうところも、相変わらずだ。
バネッサは、思わずクスクス笑ってしまう。
川沿いにテラス席のあるレストランに着いた。
そろそろ陽も落ちる。
灯りはじめた街灯の光が、川面に反射して綺麗だった。
「かんぱーい」
オリヅルはビール。
バネッサとパトラは、おすすめのフルーツジュースをいただく。
「バ、バネッサ。そ、それが本当の髪の色、な、なんだね」
「そうなんですよ。あの後、色を落とすのに苦労しました」
「でも、髪の色を変えなくても、ばれなかったんじゃないかね」
「いやあ、念のためだと思って。でも、あれ出しちゃったからなあ」
バネッサは、槍を振るふりをした。
「一部の人には、ばれていたかもしれません。東北のお年寄りは、鋭い人が多いですからね」




