第3話「パーティへのご招待・3」
いやだなあ。
ただでさえパーティなんて出たくないのに、その上、面倒な相談までされたらたまらない。
バネッサは、どうやって断ろうかと考えながら、壁に掛けられた大きな風景画を見た。
この絵をくれた、美也子先生。
彼女の結婚披露パーティーで、バネッサは採取師のハナと一緒に、変なお面をつけて踊った。
思いのほか盛り上がったけれど、あれはもう、何十年前のことだっただろうか。
「パトラとオリヅルも、会いたがっています」
ここで、その名前を出すのはずるい。
心の中の天秤が、反対側にすっと傾いた。
パトラ、久々に会いたいな。
男性恐怖症は、少しは良くなっているだろうか。
「……いつですか」
「来週末、金曜日の夜です」
「……分かりました。仕方ないです。行きますよ」
口に出した瞬間、バネッサは少しだけ後悔した。
別に、誰かを救いに行くつもりはない。
大きな問題を片づけるつもりもない。
そもそも、そういうことが得意な人間ではない。
ただ、パトラとオリヅルには会いたかった。
ついでに会いたい人たちも居る。
そして、クロエさんがここまで回りくどい来方をしたということは、きっと面倒な事情がある。
それでも、話を聞くくらいなら。
そう思ったところで、バネッサははっとした。
これは、いつもの流れだ。
話を聞くくらいなら、から始まって、気づいたら現場に立っている。
魔道具に関係しているとクロエは言った。
慎重に話を聞いて退散することを優先しよう。
「ドレスなどは、クロエ商会が用意します」
サイズは以前、高校の制服のために採寸したので、準備は問題ないとのことだった。
「メイクも優秀なスタッフが担当しますので、安心ですよ」
もうすでに、バネッサが了承する前提で、この人たちは動いている。
何だか悔しい。
バネッサからも、海産物を提供してくれているハル商会――から分離した普通の企業――に、挨拶に行きたいとお願いした。
ふと、前回の仕事の内容を思い出す。
「私は『アネッサ』として振る舞わないとですかね?」
「いえ。バネッサさんさえよければ、正体を明かしても問題ありませんよ」
前回は、新人の採取師として潜入調査を行った。
その際、偽名として「アネッサ」と名乗り、髪の毛も黒く染めていたのだ。
髪を黒く染め直すのは面倒だ。
金色に染めたと言えばいいだろう。
名前は……出たとこ勝負でいいか。
◆ ◆ ◆
クロエとアキラが帰っていった、その夜。
バネッサは閉店後のうどん屋の厨房で、片付けを終えた後のお茶を飲んでいた。
今思い返すと、東北の山は楽しかった。
一ヶ月にも満たない短い間だったが、濃い経験をしたと思う。
盗掘者として捕まった老採取師たちは、まだ生きているだろうか。
今回は山には入らないだろう。
だが、装備はどうしようかと悩む。
何があるか分からない。
念のため、使い慣れた道具類だけは持っていこうか。
なんとなく、楽しみになってきている自分に気づき、バネッサは両頬を叩いて気合いを入れた。
だめだ。
クロエさんの術中にはまっている。
次こそは、華麗に断らなければ。
◆ ◆ ◆
翌週。
バネッサは、列車に乗って北へ向かっていた。
駅弁は、前回とは違うものを購入済みである。
お昼の時間が楽しみだ。
相変わらず、窓が開かないのは残念だが、流れる景色は楽しい。
あれから、まだ一年も経っていない。
記憶が確かなら、そろそろ海が見える頃だ。




