第13話「ドレスアップ・2」
一階のエレベーターホールでオリヅルたちと別れ、フロントへ向かう。
預かりものはないかと聞いたところ、後で部屋までお持ちします、と言われた。
そんなに重い物だっただろうかと思いつつ、ではお願いしますと答え、部屋に戻った。
部屋に届いた段ボール箱は、厳重に封をされていた。
さらに、「精密機器注意」などと、赤い文字で書かれている。
マトリョーシカのように何重にも梱包された、緩衝材まみれの箱。
その中から、テツのセンサーとサイン用のペンを取り出すのに、十分近くかかってしまった。
「気持ちは分からないでもないですが、程度ってものがあるでしょう」
昔使っていたものと、同じモデルだ。
当然、バネッサにも適性が合っている。
久々に起動した。
移動中や採掘中の周辺状況を監視したり、鉱石の場所を調べたりするセンサーは、採取師にとって必須となる魔道具だ。
今、手にしているセンサーは、探索範囲と速度のバランスが良い。
細かな調律も可能で、中級者から上級者まで、現場で使える性能を持っている。
バネッサが地域の採取量レースで一位を取り、エースとなった際、ギルの商館の皆から贈られたモデルでもあった。
結局、バネッサが採取師を半分引退するまで、三十年近く使った愛器である。
最後は、とある事故で壊れてしまったが。
調律で設定変更をしてみたかったが、テツに悪いのでスイッチを切った。
起動時にも思ったが、オンオフにかかる時間が、記憶より少し早い。
テツなりのチューンナップだろうか。
マニアはこれだから怖い。
食べ過ぎと長めの散歩で、少し疲れたのだろうか。
軽い眠気を覚えたので、シャワーを浴びた。
暇なら後で遊びに来て、とパトラが言っていたことを思い出し、部屋を出る。
◆ ◆ ◆
オリヅルとパトラの部屋をノックする。
中に気配はある。
だが、なかなか開けてくれない。
しばらくドアの前に立っていると、ようやくパトラがドアを開けてくれた。
中は、なかなか忙しそうだった。
二人ともメイクをしつつ、互いに細かな修正をし合っている。
「も、もう少し、は、ハイライトを……あ、あ、赤を足した方が」
「そうかあ。最初のうちは控室でお酌だろ? こんなもんでいいと思うぜ?」
「ひ、控室の、で、電球色は、か、寒色だったと、お、思います」
「なんだと。それ、早く言えよ」
すごいなあ。
バネッサはベッドに寝ころび、頬杖をつきながら足をぷらぷらさせて二人の戦いを見ていた。
「ば、バネッサ。お、起きて」
いけない。
手伝うこともないので、見ているうちに寝てしまったようだ。
目の前には、長身の美人が二人立っていた。
オリヅルは、和風を意識した王道の仕上がりだった。
目尻に紅を入れたメイク。
黒を基調とし、炎をモチーフにした、彼女らしいドレス姿。
シアー素材の袖まわりが、筋肉質な腕を綺麗に隠している。
パトラは、エスニックな雰囲気の妖艶な姿に仕上がっていた。
いつもの少し幼い感じは、微塵もない。
しゃべらなければ、ミステリアスな美女だ。
肩の近くまで大胆に開いた襟元が印象的な、薄桃色のドレス。
とてもよく似合っている。
「……す、すごいですね。お二人とも」
「八十五点ってところか。どうせ爺さんだけだし、このくらいでいいだろう」
「お、オリヅル、そんなことない。九十点は、い、いってると、お、思う」
「そうかあ。まあ、お前も今日はいい感じで九十点だな」
「え、えへへ。あ、ありがとう」
どうしよう。
私、この本気の人たちの前でドレスを見られるの、怖くなってきたのですけど。




