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第12話「ドレスアップ・1」

翌朝。


パーティー当日の早朝。


ホテルのモーニングビュッフェのレストラン前に、パトラが立っていた。


「おはよう、パトラ。……あれ、オリヅルさんは?」

「き、昨日、あ、あれから、の、呑みすぎたみたい。あ、後で一人で、来るって」

「そうですか。じゃあ、久しぶりに二人で食べましょう」


昨日の反省から、サラダは必要以上に盛らないようにした。


しかし、焼き立てのクロワッサンの匂いに敗北。


結果、また食べ過ぎてしまった。


パトラたちは、正午から会場フロアの警備任務につくそうだ。

バネッサは、午後六時にフロント前へ集合と言われている。


パトラも、中途半端に時間が余っていた。


腹ごなしに散歩へ行こうと誘う。


これまでも仕事で何度かこの街に来たことがあるらしいパトラの案内で、街の近くを流れる川まで歩いた。


途中にある店舗は、コンビニを除いてまだ開店前だった。

街がまだ起ききっていない感じがする。


烏の声が、遠くに聞こえた。


歓楽街のゴミ箱をあさっているのだろうか。

彼らは街でもたくましいな、とバネッサは微笑む。


川はさほど広くもなく、緑色の水が揺れながら、ゆっくりと流れている。


川岸は散策道となっていて、石畳の歩道が川に沿って左右に伸びていた。


コンクリート製の護岸。

整然と並ぶ街路樹。

対岸に見える住宅街。


安全な街だ。


上流に向かっても下流に向かっても、大して景色は変わらない、とパトラが言う。


不老の身である久遠なら、ここで哲学めいたことでも言えば格好良いのかもしれない。


だが、胃袋に血を持っていかれているので無理だ。


来た道を戻るのも何だか嫌なので、いったん下流に向かって、二人並んで歩く。


自然と、今日の任務の話になった。


この手の仕事では、オリヅルとパトラは以前、ウエイトレスの格好をして給仕をしていたらしい。

しかし、二人とも長身で目立ちすぎるため、最近はウエイターの格好が多かったそうだ。


今回は、二人ともドレスで正装して会場入りするよう指示されたという。


何か意味があるのだろうかと聞くと、職人さんたちが地味なので、会場を少しでも華やかにしたいとクロエ社長が言っていた、とパトラは苦笑する。


クロエ社長は、どこまで本気なのだか。

バネッサも、合わせて苦笑した。


のんびり大回りして、駅前近くまで戻ってきた。


駅前のロータリーが遠くに見える。

出勤するビジネスマンたちのスーツ姿が多い。


昨日の悪夢が一瞬よぎる。

だが、一晩もすれば忘れ去られるでしょう、と頭から記憶を振り落とした。


そういえば、テツ君はセンサーを預けに来たのだろうか。


「そろそろ、ホテルに戻ろうか」

「うん。そ、そうだね」


一階のエレベーターホールに、オリヅルが立っていた。

ぎりぎり、モーニングビュッフェの時間内に起きて、食事はできたらしい。


「クロワッサンが食べたかったぜ。品切れになってたよ」


バネッサは、たぶん私のせいじゃないはず、と内心つぶやいた。


たぶんね。

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