第11話「腹ペコ猫vsオタク事件・4」
「だ、だからって、え、駅の前で、アネ……バネッサを、さらし者にしちゃ、だ、駄目だよ」
「さらし者なんて、……そんなつもり、は、無かった」
「つ、つもりが無くても、わ、分かるでしょ。可哀そう、だよ」
「俺、女の人と……付き合ったこととか無いし……そういうの、知らないんだよ。ごめん」
全員が、ため息を吐いた。
「……まあ、テツさんには、もう少し常識のお勉強が必要だということは分かりました」
バネッサは、額に手を当てながら微笑んだ。
「正直、理由はまだよく理解できていません。ですが、今夜の件に悪意は無さそうなので、許しましょう」
「ありがとうございます……すみませんでした」
「あれだけ現場では状況が見えているのに。私生活にも少し活用してください」
「……はい」
「じゃあ、私は部屋に戻ります。オリヅルさんたちもお休みになるでしょうし、テツさん、一緒に出ましょう」
「……分かりました」
テツがしょんぼりと立ち上がり、靴を履く。
「ではお二人とも、明日の朝、ビュッフェの始まる時間にレストランで」
「うん。バ、バネッサ、お、お休みなさい」
「おお、今日はお疲れ。よく休めよ」
オリヅルたちの部屋を出て、エレベーターホールへ向かう。
テツと並んで歩きながら、バネッサは口を開いた。
「テツさん、スペアのセンサーは持っていますか?」
「はい?」
「明日、センサーを私に渡しても、警備の業務はできるのですか」
「え、あの」
「予備のセンサーがあるなら、明日の朝、フロントに預けておいてください。『サインしてほしいやつ』を、私宛に」
「バ、バネッサさん!」
「でも、期待はしないでくださいね。私も、だいぶ久しぶりに会う方なんですから」
バネッサは、エレベーターのボタンを押した。
「あ、あと、サイン用のペンも忘れないでください」
◆ ◆ ◆
興奮気味のテツと別れて部屋に戻る。
出るときにカーテンを閉め忘れていた。
窓から夜の街が見える。
知らない街。
知らない建物。
知らない人たち。
採取師として山に入るなら、まだいい。
地形を見て、風を見て、足元を見ればいい。
危険があるなら、危険として扱えばいい。
けれど、人の集まる場所は難しい。
昔よりも周囲からの視線が怖くなくなった。
とはいえ、人は樹木や岩と違うので、見てもすぐには分からない。
勝手に、伝説だの、有名人だのと言われるのは困る。
私はただ、山で石を掘っていただけなのに。
バネッサは小さく肩を回した。
明日はきっと、おいしい食べ物が出る。
そこだけを希望にしよう。
そう思ったら、少しだけ気が楽になった。




