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第13話 連携

「――分かった。そういうことか……!」

 戦場の喧騒の中で、アキラの声だけが不思議なほど静かに響いた。


 目の前では、三体のキメラがそれぞれ別の脅威を撒き散らしている。


 シュナが受け止めている獣型。

 井戸へ触手を伸ばし続ける花茸型。

 上空から何度も急降下してアキラの命を狙う飛翔型。


 だが、ベルカが示した『胸』の位置。

 三体に共通して脈打つ、同じ色の核。


「ベルカ! よく見つけてくれた!」

「キュッ!」


 ベルカが屋根の上で誇らしげに胸を張る。

 その背後すれすれを、飛翔型の影が掠めた。


「危ないッ!」

 アキラが叫ぶ。


 だがベルカは細い木柵の先へ跳び移り、紙一重で鉤爪をかわした。


「シュナ!ベルカ!三体とも、胸に同じ核がある! そこが制御中枢だ! たぶん、三つのどれかが『親になる核』で、残りは子だ!」

「どれが親ですか!?」

「分からない! 確率は三分の一! 一体ずつ倒して親を当てるしかない!」

 シュナが獣型の突進を受け止めながら、短く舌打ちした。

「面倒ですね!」

「だから、まずは親子の繋がりを切る!」


 アキラは腰のポーチをまさぐり、小さな革包みを取り出した。

 中には、三本の細い金属杭と、小瓶に分けられた透明な液体が入っている。

「ベルカ! 僕のところへ戻って! すぐ!」

「キュイッ!」

 ベルカが飛翔型の爪をもう一度かわし、跳ねるようにアキラの肩へ戻ってきた。

 アキラは素早く三本の杭の先端に液体を垂らした。

「それ、何ですか?」

 集落の娘が震える声で訊いた。


「樹液封じのくさびだよ。植物の導管を一時的に塞ぐ薬剤を塗ってある」

 アキラは答えながら、目は三体の動きから離さない。

「根と核の流れを断てば、あとはただの不格好な肉塊だ」

「……そんなことが」

 娘が呆然と呟いた時、花茸型の触手が井戸へ伸びた。


「まずい!」

 アキラが駆け出そうとするより早く、シュナが獣型を蹴り飛ばして跳んだ。

「触らせません!」

 真紅の軌跡が閃く。

 竜の爪が花茸型の触手の束を一息に断ち切った。


 だが、断たれた先からまた別の蔦がぬるりと伸びてくる。


「しつこいですね……!」

「シュナ! 足を止めるだけでいい!」

「分かりましたッ!」


 シュナは花茸型の胴を蹴り上げ、その巨体ごと井戸から引き剥がした。

 そこへ獣型が再び土煙を上げて突っ込んでくる。


「ベルカ、右だ!」

「キュッ!」

 ベルカがアキラの肩から飛び、頬を膨らます。


 ビュンッ!!ビュンッ!ビュンッ!


 硬い殻ごと圧縮された魔蜂蜜クルミが、獣型の顔面へ弾丸のように叩き込まれた。


「キュッ!(これ、実は結構痛いんだよ!)」


 ほんのわずか視線が逸れた隙に、シュナが横薙ぎの蹴りを獣型の胸に叩き込む。


 ドゴォッ!!


 獣型が巨木にめり込んだ。

 だが、胸の奥の脈動は止まっていない。

 樹皮を食い破るように根が這い出し、キメラの肉体の再生を始める。


「届かないかッ……!」

 アキラの視線が高速で戦場を走る。


 獣型は胸部装甲の中央。

 花茸型は、腹の裏から少し上、蔦の束の根元。

 飛翔型は、羽膜のあいだ、胸骨の下。


 三箇所。


「シュナ! 五秒でいい、三体の動きを同時に止められる!?」

「五秒なら! でも、その間に全部やるんですか!?」

「やるしかない!」

 アキラは三本の楔を握りしめた。

「ベルカ、飛翔型の胸にこれを刺せるかい?」

「キュッ……」

 ベルカが一瞬だけ怯んだ。


 上空を旋回する異形の影。その爪の鋭さを、さっき身近で見たばかりだ。

 アキラはしゃがみ、ベルカの目をまっすぐ見た。


「怖いよね。分かってる。……でも、君しか届かない」

 ベルカの耳がぴくりと動く。


「成功したら、特級の魔蜂蜜クルミ二十個」


「キュッ!!」

 ベルカの瞳がギラリと輝いた。


『キュキュキュ!!(増えてる!!)』

「命がかかってるから大サービスね!」

 アキラは立ち上がり、集落の娘へ振り返った。


「君、名前は?」

「え……ユ、ユラです」


 アキラは真剣な眼差しで見つめた。

「ユラ、キミの弓が素晴らしいのはさっき見せてもらった。飛翔型の目を狙えるかい? 傷つけなくていい、一瞬怯ませるだけでも十分だ」

「え、あ、はい。で、でも、私なんかの弓が――」

「大丈夫、キミなら出来る。サポートは僕らがやるから安心して」

 アキラは少し微笑んだ。

「……わ、分かりました。――やりますッ」

 娘は唇を噛み、震える手で弓を握りしめた。


「皆さん! もっと遠くに逃げてください!動ける人は負傷者の救護を!」

 アキラが集落の人々へ叫ぶ。

 倒れていた男たちも、傷を押さえながら必死に這って移動し始めた。


「シュナ、お願いだ!」

「ええ!」


 シュナが深く息を吸う。

 竜の瞳が赤黒く燃え上がる。


「跪きなさい――!」


 地面を蹴った。

 その速度は人間のそれを凌駕する。

 まず獣型の頭上へ。

 次に花茸型の背へ。

 最後に飛翔型の進路を読むように空中へ跳ぶ。


 生気を一瞬で枯らす殺気が、三体へ同時に向けられた。

 空気が震える。

 彼女を中心に、目に見えない圧が爆ぜた。

 獣型の四肢が地へ沈み、

 花茸型の触手がびくりと硬直し、

 飛翔型の羽ばたきが乱れる。


「今ッ!!」

 アキラが走る。


 一体目、獣型。

 巨木にめり込んだ胸の継ぎ目に、楔を突き立てる。


 ザシュッ!


「一本目!」


 そのまま反転し、花茸型へ。

 ぬめる蔦をかいくぐり、腹の裏へ滑り込ませる。


 ブシュッ!


「二本目!」


 だが、五秒は長くない。

 飛翔型が再び羽を広げようとしていた。


「ユラッ!今だッ!」

 アキラが逃げながら叫ぶ。


 ユラが放った矢が、飛翔型の目の脇をかすめた。

 ほんの一瞬、軌道が揺らぐ。


「ベルカッ!今だ!」

「キュイイイッ!!」


 ベルカが金色の弾丸となって跳んだ。

 見張り台の残骸から倒木へ、倒木から飛翔型の背へ。

 その小さな体が羽膜のすき間へ潜り込み、最後の楔を胸骨の下へ叩き込む。


 ギィンッ!!


「よしッ!刺さった!」

 アキラが叫ぶ。


 次の瞬間。


 三体のキメラが、同時に痙攣した。

 胸の核へ流れ込んでいた根の脈動が止まる。


 獣型の再生が止まり、

 花茸型の蔦が萎れ、

 飛翔型の羽膜にひびが走る。


「やった……!」

 集落の誰かが呟いた。

 だが、アキラは叫ぶ。


「まだだ! まだ切っただけだ!」


 彼の目は次の一手を探していた。


 核を孤立させた。

 だが壊してはいない。

 このままでは、また別の根を伸ばして繋ぎ直すかもしれない。


「シュナ! 今なら核が剥き出しになる! 一気に――」


 その時だった。


 花茸型の腹が、不気味に膨らんだ。

「……っ、まずい! 全員伏せて!!」


 ボンッ!!


 花茸型の胸が内側から裂け、大量の黒紫の胞子が噴き出した。


 視界が一気に染まる。

 鼻を刺す甘ったるい腐臭。



「吹き飛ばしますッ!!」

 シュナが前へ出て、一瞬、力を込めたかと思うと、両手を開いて力を解放する。

 

 擬態の一部が解ける。


 彼女の背に、灼熱の赤竜の両翼が展開した。


 集落の人々がざわめくのが聞こえる。

 両翼を一度、打ち振るうと、暴風が胞子の流れを逸らし、アキラと集落の人々を庇った。

 だがその隙に、獣型が最後の力を振り絞ってシュナへ噛みつこうと飛びかかる。


「ッ……!」

 シュナの腕が獣の顎に挟まれた。


「シュナ!!」

 アキラが顔色を変える。


 飛翔型はまだ落ちない。

 ボロボロになった羽膜を羽ばたかせ、ベルカごと上空へ舞い上がる。


「キュッ、キュウウッ!!」

「ベルカ!」

 アキラの叫びが戦場に響く。

 三体は死にかけてなお、最後の悪足掻きを見せていた。


 次の瞬間、アキラの視線が一瞬だけ止まる。

 

 花茸型の裂けた腹部の奥に固定された黒紫の胞子の中、三体の核の中で一際、禍々しく輝く核が見えた。


「……あれかッ!!」

 アキラが低く呟く。


 楔で流れを止めたことで、隠れていた中枢が剥き出しになった。


「シュナ! 親の核はあれだ!」

「どれです!?」

「花茸型の腹の奥! 黒い根の束の奥だ!」


 シュナのこめかみに筋が立つ。

「……いつまで噛みついているつもりだ、下等生物め」

 獣型の顎を無理やりこじ開ける。

 血の滲んだ腕で、なお前を見る。


 飛翔型の上で、ベルカが必死にしがみつきながら叫んだ。

「キュイッ!!」

「ベルカ、もう少し堪えて!!」

 アキラの目が、初めて完全な勝ち筋を捉えた。


「あと一手、あと一手で終わる!!」

 アキラは強く拳を握りしめた。

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