68 クロと再び合流
二人分の上着は、思いのほか早く仕上がった。麻生地で作った親子お揃いの一着に袖を通すと、ロトは嬉しそうに父親の裾を掴み、アギトもまた、動きやすさに安堵したように肩を軽く回していた。せっかくなので、木綿生地のタンクトップ肌着も、手早く仕立てることにした。
二人に『クリーン』をかけて早速着替えてもらった。昨日のうちにクリーンをかけてあげれば良かったと、今になって思う。
気が付けば、すっかりお昼を過ぎていた。手を止めて軽くパンと果物を食べ、一息つく。
「クロが戻るまで、まだ時間ありそうだし……狩った魔物でも解体して、夕食の準備でもする?」
「あぁ、時間あるしな。解体するか」
ルドが立ち上がり、肩を軽く回しながら鞄からオークを取り出した。アギトが、命がけで仕留めたあのオークだった。
「このオーク、解体して食料にしていいか?」
ルドが問うと、アギトは一瞬、息を呑むような表情を見せた。それから、すぐに表情を引き締めて頷く。
「……もちろんです。取っておいていただき、ありがとうございます。解体の手伝いもできます」
その声には、わずかな感慨が滲んでいた。ロトを守るために命を懸けて戦った相手が、こうして自分たちの食料になる――その事実を噛み締めているようにも見えた。
三人が解体を始めたので、私は焚火をしていた場所まで移動する。オーク肉が手に入るので、今夜はオークステーキと野菜のスープにしよう。アギトたちに気付かれないよう、こっそりと野外調理セットにある包丁とまな板、大きめの鍋と鉄板をインベントリから取り出した。
まずはスープを作る。ジャガイモと人参、玉ねぎを一口大に切り分け、鍋に水と一緒に放り込む。火にかけながら、マイハウスから持ってきたハーブと塩を加える。
ぐつぐつと煮立つ音と、男三人の解体作業の音が、洞窟の中に入り混じっていく。やがて、ルドたちが切り分けた肉を持ってきてくれたので、ステーキ用に厚めの部位をいくつか取り分け、残りはスープの鍋へと加えた。
解体と調理が終わる頃には、すっかり夕暮れ時になっていた。オレンジ色の光が洞窟の奥まで差し込み、焚火の炎と混じり合う。
大きめの鍋で切り分けたオーク肉に、塩と胡椒を振って焼き上げる。じゅう、と香ばしい音が響くと同時に、肉の焼ける匂いが洞窟いっぱいに広がった。
「おお……! こいつは美味そうだ」
ルドが我慢できないとばかりに身を乗り出す。焼き上がったステーキを皿に盛り、野菜スープと一緒に並べる。パンも一緒に出せば、思いのほか立派な食卓になった。
いただきます」
四人で手を合わせ、揃って食べ始める。ロトは最初こそ恐る恐る口に運んでいたが、一口食べるなり目を丸くした。
「……おいしい!」
「だろ? こいつの飯は、いつも美味いんだよ」
ルドが得意げに言うと、アギトも静かに頬を緩める。
「こんなに美味しいオーク肉は初めてです」
噛み締めるような呟きに、誰も言葉を挟まなかった。ただ、炎の爆ぜる音と、食事をする音だけが、しばらく洞窟の中に満ちていた。
食事が一段落したところで、懐の魔石がかすかに光った。ルドが受け取り、すぐにクロからの連絡だと分かる。
「あぁ、俺だ。……そうか、分かった」
短いやり取りを終えると、ルドがこちらを振り返った。
「クロからだ。馬車の準備が整って、明日の早朝、森の入り口――馬車が入ってこられる場所まで来るらしい。そこで合流するってよ。」
「じゃあ、早起きの為にも今日は早やめに休もうね」
てきぱきと後片付けを済ませて焚火の後始末をする。
ロトはすでに、満腹と安心からか、アギトの膝の上でうとうとと船を漕ぎ始めていた。
――そして、翌朝。
鳥の声で目を覚ますと、外はすでに白々と明け始めていた。手早く身支度を整え、朝食は簡単に、昨日の残り物のスープとパンを食べる。食べ終わると、皆で荷物をまとめていく。
アギトとロトは、昨日作ったリュックを背負っていた。中身はまだほとんど入っていないけれど、クロと合流すれば、荷物もきっと増えるだろう。
「忘れ物はないか? よし、行くぞ」
ルドの号令で、一行は洞窟を後にした。まだ怪我の癒えきらないアギトとロトには馬に乗ってもらい、朝靄の立ち込める森の中を、馬車が入れる入り口目指して歩いていく。
しばらく進むと、木々の合間から、見覚えのある人影が見えてきた。クロがこちらに気付き、小さく手を上げる。その後ろには、幌の付いた荷馬車が一台、静かに止まっていた。
「待たせたな」
クロがそう言って、荷馬車の荷台をぽんと叩く。覗き込むと、中にはいくつか紙袋があり、食材と思われる野菜などもあった。
「頼まれていた物も買ってきた」
「早速なんだけど、パンツ見せて」
「おまっ!いきなり何てこと言うんだ!」
「あー、こいつ昨日は散々パンツ見せろって騒いでな……終いには、脱いで見せろなんて言うんだぜ?」
「……一応、ルドに言われて、下着一式買ってきたが……お前、変態か?」
クロから、変態を見るかのような、軽蔑する視線を向けられる。
「はっ! 違うよ!誤解だから!布はあるし、裁縫好きだから、手作りしようと思ったの!私の考えている下着と何か違う感じがして……それに、尻尾を通す穴なんて見た事もなかったから……」
クロが心なしか目を逸らしながら、布の包みを差し出してくる。中を検めると、きちんと男性用・子供用に分かれて、それぞれ数枚ずつ入っていた。
まずはズボンを手に取り確認する。生地は少しごわごわしていて、着心地はあまり良くなさそうだ。お尻の部分を見ると、ただ切れ込みが入っているだけだった。パンツの方も、切れ込み部分の作りは同じで、生地もシャツ用より少しやわらかい程度。伸縮性はなく、丈は三分丈のショートパンツだ。ウエストにゴムは使われておらず、紐で結ぶタイプだった。
「パンツはこれが一般的?他にもあったりする?」
「一般的だが?お前の考えるパンツは違うのか?」
ルドが呆れたように呟き、クロもどこか複雑そうな表情を浮かべている。
(個人的にはボクサーパンツの方が良いと思うけど……今はこの世界に合わせないとね)
「色々あるけど……これと同じ感じで作るよ」
深く追及されないうちに、少し離れたところにいるアギトとロトを呼び寄せることにした。
「二人とも、クロが着替え買ってきてくれたから、仕分けしよう」
少し離れたところにいたアギトだけれど、獣人は耳が良いと聞く。きっと、今の会話もすっかり聞こえていたのだろう。
どうか、変態だと思わないでもらいたい……
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