65 旅の準備
マイ・ハウスに入り、リビングを抜けて真っ直ぐ作業部屋へ向かう。ドアを開けると、窓辺には幅広く長い机と椅子。、部屋の中央に大きな作業テーブルが置かれている。
左右の壁には収納タンスと棚、クローゼットがあり、中には沢山の生地や服飾用品、ミシンまで揃っている。材料が揃っているのは有難い。
久しぶりの洋裁だけど、どうにかなるだろう。
「とりあえず、着替えと鞄は作ろうと思う」
「……お前んち、スゴいな…」
私もそう思う。しかも、使っても無くならないという有り難い機能付きだ。裁縫、手芸も大好きだし、魔法スキルもあるから何でも簡単に作れそうな気がする。
「ここで作るべきか…材料を持って、洞窟で作った方がいい?」
「まずは材料、布を見せてみろ」
クローゼットを開けると様々な生地や材料、道具がズラリと並んでいた。
ルドが素材や生地を幾つか手に取り、確かめるように眺める。
「……こういう布や素材は、お前の中じゃ普通なのか?」
「 ? 至って普通だよ? だいぶ良いものもあるけれどね」
呆れ顔で聞いてくるということは、この世界では普通ではないのだろうか……だが、あるものは使ってなんぼ。
「作るのは、シャツとズボン。下着と鞄かな?靴下は作ったこと無いからどうしよう…」
「…作るよりクロに連絡して一通り揃えて貰った方がいんじゃねぇか?」
確かに…だが、材料はあるし、私の暇潰しでもあり、趣味でもある。久しぶりに、自分の手で何かを作ってみたい気持ちもあった。
「うーん。靴下はお願いしたいな。洋服はサイズあるから私が作るよ。洋服に使う生地選びはルドに任せていい?私は鞄の材料を揃えるから」
役割を分けたほうが早い。私がそう提案すると、ルドは腕を組んで少し考え込んだ。
「靴下は後でクロに連絡する。布は選んでもいいが……」
そう言いながら棚から一反、また一反と生地を手に取っては、その手触りや光沢を確かめている。やがて呆れたように息を吐いた。
「絶対、庶民向けじゃねえぞコレ」
「まあ、あるものは使てしまおう。使っても、ちゃんと自動補充されるみたいだから」
「…………」
ルドは何か言いたげな顔をしていたが、結局は諦めたらしい。小さく首を振ると、無言のまま生地選びに戻っていった。
私はその間に、鞄の材料を集めることにする。肩掛けにするか、リュックサックにするか――どちらでも作れるよう、材料は多めに見繕っておいた。ちょうど棚に厚手のデニム生地があったので、それを使うことに決める。紐とボタンを選び出し、裁縫セット一式を作業台に並べる。生地も、少し余裕を持たせて多めにカットしておいた。
「これ、どどうだ?」
ルドが選んだのは、シャツ用に麻の生地。ズボンには少し厚手の深緑色の生地。頑丈で、鞄にも使えそうなほどしっかりとした織りだった。そして下着用にと差し出されたのは、伸縮性のまるで感じられない、ただの白い生地だった。
「シャツとズボンの生地はそれでいいとして……下着に、この白い生地? 履き心地、悪くない?」
「はあ?下着用としちゃ、だいぶ良い方だぞ?」
(もしかして、この世界の下着って、日本とは全然違うのかも……)
そう思えば、確かにこの世界の下着など、これまで一度も目にしたことがなかった。
「ねえ、ちょっとパンツ見せてよ」
「は!?」
「この世界のパンツなんて見たことないから、私が思ってるのとは違うのかもしれない。パンツに伸縮性のない生地を選ぶくらいだし……作る前に、一回確認しておきたいから、見せて」
「おまっ! 馬鹿か!! 羞恥心はないのか!?」
ルドが真っ赤になって声を裏返らせる。その反応こそが、何よりの答えのような気がした。
(よくよく考えてみれば,そうなのかも…)
日本で生活していた頃は、家で息子がよくパンツ一丁でうろついていたものだ。だから、つい気にせず言ってしまったけれど――今の私は十八歳。年上のお兄さんに「パンツ見せて」は……さすがにない。
「えーっと…ごめんね?つい気になって…ね?変な意味は無いよ?でも、見せてくれたら有り難いかな。参考になるし…」
ダメ元で聞いてみる。
「見せるわけないだろ! お前は恥女か!! 恥じらいは ないのか!?」
「そんなこと言ってたら、パンツ作れないじゃない」
「作らんでいい!!クロに頼むから!!」
「えっ。頼んだら、クロが見せてくれるの?」
「そうじゃないだろぉー!クロに買ってきてもらうから、お前はパンツのことは考えるな!!」
残念。まぁ、買ってきた物を参考に見せてもらおう。着る前に見るのは、大丈夫だよね?
「買ってきたパンツは、見てもいい?」
「……好きにしろ」
そんな蔑む視線はやめて欲しい。真面目に作りたいだけだよ?決して恥女ではない。
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