64 旅の準備どうする?
クロが再び王都へ行ってしまった。これからは、アギト親子も一緒に旅をすることになるので、色々と準備したいものがある。ある程度はクロが調達してくれるとは思うのだけど、私に出来る事はしておきたい。
特に気になるのが、アギト親子の身の回りの物だ。二人は身一つ。当然、着替えなんて持っていない。
マイハウスに行けば、衣服を作るための材料はいくらでもある。生活魔法も使えるし、時短調理ならぬ時短作業のような感覚で、ある程度の服ならすぐに用意できるはずだ。
問題は――マイハウスの存在を、ルドにどう説明するか。
……何だか、今更な気がしてきた。色々バレてるし!!バラしているから大丈夫だろう。今さら一つ増えたところで大差ない。
「ルドちょっといい?話があるんだけれど」
「どうした?」
振り向いたルドに、私は周囲をちらりと確認してから続ける。
「少し込み入った話なんだけれど…」
獣人は人間よりも遥かに聴覚が鋭い。洞窟の中で話せば、アギト親子に聞かれてしまう可能性もある。それを察したのか、ルドはすぐに立ち上がった。
「わかった。外で話そう」
二人で洞窟を出る。さらに念のため、洞窟から少し離れた場所まで歩いていく。周囲に人の気配がないことを確認してから、ようやく足を止めた。
「私も旅の準備をしようと思ってね?家に行って来てもいいかな?」
「は?お前、家あるのか!?どこに住んでたんだよ。ここから近いのか?」
「違っ!そうじゃなくて!テントみたいに持っているの!」
「!? テントでも十分“家”だが? テントより家の方が凄そうなんだが!?」
「家には洋裁道具が揃っているから、アギトたちの着替えや鞄を作ろうと思って」
「……不安しかないんだが?一俺も一通り確認しておきたい」
ルドはそこで一度言葉を切ると、軽く息を吐いた。
「アギトには留守番していてもらおう。お前ちょっとそこで待ってろ。アギトに言ってすぐに戻る」
「……分かった」
そう言うと、ルドは踵を返して洞窟へ向かって歩き出した。
待っている間、少し落ち着かない気持ちで木の幹に寄りかかる。今までクロにもルドにも、マイハウスの存在は伏せてきた。クロはともかく、ルドはどんな反応をするだろう。
そんなことを考えていると、思いのほか早くルドが戻ってきた。
「待たせたな。アギトには、少しやる事があるから離れると言っておいた」
「早いね」
「まあ、あいつも勘のいい男だ。込み入った話だろうってことは、察してくれたみたいでな」
ルドはそう言うと、私の正面に立ち、腕を組んだ。
「それで? 見せてもらおうか。お前の“家”とやらをよ」
ルドは面白そうに目を輝かせながら、私を見る。その目には、からかうような色と、それ以上に「一体どんなものなんだ?」という純粋な好奇心が浮かんでいた。
まあ、そうなるよね。
「マイハウス、家に行くとね気配が消えちゃうけれど大丈夫?アギトに感づかれたりしないかな?」
正直なところ、獣人の身体能力がどれほど優れているのか、私はまだよく分かっていない。特に嗅覚や聴覚が人間より優れていることは知っているけれど、それがどの程度なのかまでは知らない。
「……それは確かにまずいな。もう少し離れた場所に移動しよう」
そうして私たちは、アギト親子からさらに距離を取るために移動することにした。
念のため、かなり離れたところまで歩いてきたのだが――開けた場所が見当たらない。どうしようかと考えたが……「!!」そういえば……以前、テントの中でもマイハウスを出したことがあったじゃない!出てきたのは、玄関の扉だけ。でも、その扉を開けて中に入れば、その先はちゃんとマイハウスの中だった。
「これだけ離れていたら大丈夫かな?」
私が確認すると、ルドも周囲を見回した。
「大丈夫だが……家を出す広さは、ここにはないぞ?」
「玄関のドアだけ出して中に入るから平気だよ」
「……そうなんだ」
なんとも言えない顔をしている。
「じゃあ、出してみるね」
「……ああ」
ルドは半ば呆れたような顔で頷いた。
私は近くの大木に手を当てて―――
「出でよ。マイ・ハウス!!」
大木が淡い光に包まれて玄関の扉が出現した。木の幹に、立派な玄関扉。
玄関の扉を開ければ――その先にはリビングへ続く空間が広がっている。私は満面の笑みを浮かべて、ルドへ振り返った。
「わが家へようこそ!」
「………………」
ルドは何とも言えない表情のまま、大木に埋め込まれた玄関扉を見つめている。
……うん。改めて考えると、かなりおかしな光景だ。
「……俺、今、何を見せられてるんだ?」
「細かい事は気にせずに!とりあえず中に入ろう。色々準備しないとね」
「いや、細かくないだろ……」
ルドが何か呟いているが、私は聞かなかったことにする。今はそんなことを気にしている場合ではない。
これから旅の準備をしなければならないのだ。私は開いた扉の向こうへ一歩踏み込み、ルドを振り返る。
「ほら、早く!」
「……はいはい」
ルドは諦めたようにため息をつくと、渋々その後に続いた。
玄関を抜け、家の中へ入ったルドは、興味深そうに周囲を見回している。
「テントと似たような作りではあるが……結構広いな」
「作業部屋に行こう。必要な物を準備して……洞窟で作った方が良いかな?」
「……まずは材料を見てからだな」
「材料なら、いっぱいあるよ?」
「そうなのか?」
ルドはそう言いながら、私の後をついてくる。
「うん。たぶん必要なものはほとんどあると思う」
私は自信満々に答える。するとルドは少し考えた後、苦笑した。
「なら、作る場所を考えるより先に、何を作るか決めた方がいいな」
「それもそうだね」
こうして私たちは、旅の準備に取り掛かることになった。
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