クロ王都にて2
宰相は、呪いが跳ね返された影響で致命的な状態だという。魔女も同じような状況になっている可能性は高い。しばらくは放っておいても良いだろう。
(宰相は呪いを掛けてまで俺を排除したかったのか……)
宰相の裏にはきっとあの方がいる可能性が高い。何せ、俺は忌み子だ。この赤みがかった紫の瞳が、魔獣の赤い瞳に似てるということで、昔から忌み嫌われてきた。今ではそのような考えも薄らいできてはいるものの、年長者は特に忌避感が強い者が多い。家族がそんなことを気にもしていないのが、せめてもの救いだ。
そんな俺を、特に嫌っているのが祖母の王太后――親父の母親である。
小さい頃から俺を忌み嫌い、抹殺しようとしていた筋すらあったが、両親と二人の兄が俺を守ってくれていた。貴族の中には王太后に賛同する者も少なくはない。表面上は取り繕っているが、蔑むような視線を寄こしてくる者もいる。上手く隠している輩もいるが……それも仕方のないことだと、放っておいている。
「それより、これからどうする。宰相はああなった以上、証言を得るのは難しいだろう。やってはみるがが……黒幕の存在までは辿り着けまい。目星はついてるだろうがな」
親父も薄々気付いてはいるものの、証拠が無いのでどうする事も出来ないのが現状のようだった。
「任務中に掴んだ情報によると宰相は隣国フライギルとの間で、奴隷と人身売買に関わっていた可能性が高い。それについて少し調査したいのでフライギルに行く。俺とルドはこのまま極秘任務扱いで通して欲しい」
「――分かった。表向きは、極秘任務扱いにしておこう。国境での面倒事には気をつけろ。必要な物は秘密裏に準備するが、何かあるか?」
「一つ頼みがある。転移者の奴のことだが、このまま身分証もなしに旅を続けさせる訳にはいかない。秘密裏に身分証を発行してほしい。出来れば早急に」
親父はしばらく黙考していたが、やがて小さく頷いた。
「……分かった。数日中には手配させる」
「助かる」
「その代わり、条件がある」
親父の声が、わずかに低くなった。
「その転移者の女――名は何という。歳は?信用できる奴なのか詳しく聞かせてもらおうか。それと、お前の気配が一切感じられない原因もな」
俺は一瞬、言葉に詰まった。どこまで話すべきか、まだ自分の中でも整理がついていない。
「名はナナと言う。歳は十八歳らしい。詳しいことは後日、本人の意思を確認してから話す」
「……まあいい。無理には聞かん。だが……可愛い子なのか? 一緒に旅をするのか?」
親父が、興味津々に聞いてきた。
「気になるのはそこなのか!?」
「当然だろう。何せ、女っ気の一つもなかったお前が、素性も知れない女を旅に連れて歩くと言うんだ。気にもなる」
親父はにやりと笑みを浮かべた。子供の頃から、こういうところだけは変わらない。
「別に、そういう話じゃない。色々とこっちも事情があるんだ。ただそれだけだ!」
「ふん、まあいい。今はそういうことにしておいてやる」
からかいの色を隠しもせず、親父はそう言って話を切り上げた。
「また連絡する」
短く頷いたのを見届け、俺は窓から身を躍らせた。さて、これからどうするか……ルドたちと合流できるまで数日かかる予定だが……どこまで進んでいるか一応確認しておくか。
連絡するため王城を出て、人気のない場所を探す。通信用の魔石を取り出して魔力を込めた。
「クロ? どうしたの?」
「こちらは特に問題はない。今はどのあたりだ?」
声が魔石越しに響く。通信が繋がったことに少しほっとした。
「今は王都近くの森の洞窟だ。ちょっと訳ありで今日はここで野営する」
突然ルドの声に切り替わる。どうやら魔石がルドの手に渡ったらしい。だが、何故野営なんだ?
「……洞窟で野営……何か問題でもあったのか?」
「まぁ……詳しくは合流してから話すが……そっちはどんな様子だ?何か分かったか?」
「あぁ、どうにか親父と話すことができた。黒幕も大体の目星がついたが……この話は合流してから話そう。ところで、やけに早くないか?3日は掛かる予定じゃなかったか?」
(俺がいない間に一体何があったんだろう。何かしらのトラブルか……)
「あ……それも後から詳しく話す。で、今から合流できそうか?」
「近くまで来ているなら、合流した方が良さそうだな。森に着いたら連絡するから、ルドが魔石を持っていてくれ」
「わかった。気を付けて来いよ」
通信が切れると、魔石の淡い光がふっと消えた。急いで森に向かい、事実確認をしなくては……
森に着くと同時にルドへ連絡し、程なくして合流することができた。
「何か情報は掴めたか?」
開口一番、ルドが尋ねてくる。
「親父と直接話すことができた。数日前に宰相が倒れた。今後、復帰の見込みがないらしい」
「……魔女の協力者は宰相ってか!? 俺たちが人身売買や隣国の件を調べていたのを、もみ消すためか」
「それだけでは無い様だがな。だが、宰相はこの件に関わっていた可能性は高い。だから、隣国フライギルに行って調べようと思う」
「あーそうなるわなー」
何とも歯切れの悪いルドの言い方である。
「到着がやけに早いけれど何故だ?しかも洞窟で野営。何があった?」
「それなんだが………」
俺が出た後の出来事を、ルドが説明してくれた。……何と言うか……この二人にしたのは、まずかったか?
(馬に栄養ドリンクを飲ませるとは・・・しかも怪我人の親子を拾っただと!?)
これからフライギルに行くのだが……あいつの力を頼りにしてる部分が強い。あいつは助けてあげたいらしいし……最悪一緒に連れて行くか。
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