62 今後について考えよう
助けたは良いが……どうしたらいい……?
答えの出ない問いが、頭の中をぐるぐると回る。このまま置いていくわけにはいかない。かといって、王都に連れて行ったところで、人族との子であるロトが安全に暮らせる保証などどこにもない。
今後について真剣に考えなければいけない。
王都は目の前、そこは、クロとルドの帰る場所でもある。私も王都や町での生活に興味があるけれど、アギトとロトをそのままにしては行けない。クロたちの問題も解決している可能性もある訳だし…………そしたら、二人とも元の生活に戻らなければならない……寂しい気持ちはあるけれど、ここでクロとルドとはさよならかも。
ルドの軽口も、クロの淡々とした気配りも、この短い旅の中で、いつの間にか私の日常の一部になっていた。それがなくなるかもしれないと思うと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
それでも――私はこの世界ではまだ、常識外れなのは分かってる。行き当たりばったりだってことも。……それでも、二人がどこかに落ち着くまでは、私にできることをしてあげたい。
クロが合流した際に話してみよう。別れは寂しいけれど……
焚火の爆ぜる音だけが響く静かな時間がしばらく続いた。急にポケットに入れていた魔石がぶるりと振動した。クロからの連絡である。魔石を手に取り確認することにした。
「クロ? どうしたの?」
「こちらは特に問題は無い。今はどのあたりだ?」
淡々とした声が石越しに響く。それに気付いたルドが、横から手を伸ばして魔石を取り上げた。
「今は王都近くの森の洞窟だ。ちょっと訳ありで今日はここで野営する」
「……洞窟で野営……何か問題でもあったのか?」
「まぁ……詳しくは合流してから話すが……そっちはどんな様子だ?何か分かったか?」
「あぁ、どうにか親父と話すことができた。黒幕も大体の目星がついたが……この話は合流してから話そう。ところで、やけに早くないか?3日は掛かる予定ではなかったか?」
「あ……それも後から詳しく話す。で、今から合流できそうか?」
「近くまで来ているのなら合流した方が良さそうだな。森に着いたら連絡するからルドが魔石を持っていてくれ」
「わかった。気を付けて来いよ」
通信が切れると、魔石の淡い光がふっと消えた。ルドはそれを手のひらの上でしばらく見つめてから、懐にしまい込む。
どうやらこれからクロがこちらに来るようだ。これからの事をしっかり話をしなければ……私は膝を抱えるようにして焚火を見つめる。
「あいつら寝ちまったみたいだな」
洞窟の奥に目をやると、アギトとロトが寄り添うようにして眠っていた。その寝顔にほっとしつつも、怪我を完全に治していないことが少し気にかかる。
「アギトの怪我、完全に治したらまずい?」
「そのままでいい。重傷だった傷が、もう上級ポーション並みに回復してる。これ以上治したら、さすがに怪しまれるぞ。それに、上級ポーションは結構な高級品だからな」
「そっか……普通のポーションってことにして、もっと薄めて飲ませるのは?」
「明日の朝、体調を見てから決めよう。獣人は人よりも回復力に優れているからな」
焚火の炎に照らされたルドの顔を見ながら、私は小さく頷いた。
しばらく明日からの事を考えていると、焚火の温もりに誘われるようにウトウトし始めていた。まぶたが重い。膝を抱えたまま、意識が沈んでいきそうになる。
「――お、来たか」
ルドが素早く魔石を取り出す。私はハッと我に返り、眠気を振り払うように顔を上げた。
「森の入り口まで来た。方角がいまいち分からん、迎えに来てくれるか」
「わかった、すぐ行く」
ルドは立ち上がると、こちらを振り返った。
「ちょっと迎えに行ってくる。すぐ戻るから待ってろ」
「うん、気をつけて」
ルドが焚火の明かりを離れ、洞窟の入り口から闇の中へと駆けていく足音が、次第に遠ざかっていった。
眠気と戦いながら、私はぼんやりと炎を見つめ続けた。
どれくらい経っただろうか。うとうとと舟を漕ぎ始めた頃、洞窟の入り口から複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。
「戻ったぞ」
ルドの声に続いて、静かな足取りでクロが姿を現す。焚火の明かりに照らされたその表情は、少しだけ疲れているようにも見えた。
「クロ、おかえり」
「……ああ」
クロは焚火の傍に腰を下ろした。視線の先には、奥で眠るアギトとロトへと向く。しばらく無言でその親子を見つめていたクロは、やがて小さく息をついた。
「――話は、色々あるみたいだな」
「まあね、今日は色々とあったから…」
私がそう返すと、クロはふっと微かに口の端を緩めた。ルドもクロの隣に腰を下ろし、三人の間に静かな空気が流れる。焚火の炎だけが、ぱちり、ぱちりと小さな音を立てていた。
「ルドから話は聞いたが……今後どうするつもりなんだ?」
「どうしたらいいかまだ分からないけれど、このままほっておけない……」
正直な気持ちをそのまま口にすると、クロはしばらく黙って焚火の炎を見つめていた。パチ、と薪が爆ぜる音だけが響く。
「俺らの問題はひと段落ついた。すまないがお前の存在を俺の親父に話さざるを得なくてな。事情を話した。一応、この国の住民登録は極秘にしてもらえることになったから、数日で身分証を作ってもらえることになっている。」
「クロが必要と判断して話したなら仕方ないよ。親父ってお父さん?……つまり……王様!? だ、大丈夫なの? 私不法侵入!?」
「落ち着け。大丈夫だ。お前の事情を知っているのは俺たち二人と親父だけだ」
「まあ、細けぇことは気にすんな。親父さんも、クロが連れてきた奴なら悪いようにはしないだろ」
ルドが横から軽い調子で口を挟んでくる。その気楽さに、少しだけ肩の力が抜けた。
「……分かった。ありがとう、二人とも」
素直にそう伝えると、クロは小さく頷き、また視線をアギトとロトの方へと戻した。
疲れもあってか、二人はぐっすりと眠っていた。
さて、今後どうしたら……いいんだろう。
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