61 野営頑張る
今日は他の人がいるので残念だけどテント様は使えない。
確かインベントリに野外調理器具一式 があったはず。これ使えるかな?
野外調理器具一式
・焚火セット(料理も出来るし魔獣除け効果半径30㍍)
・鍋、フライパン一式(ミルク鍋、両手鍋、寸胴鍋、フライパン…………各種色々)
・バーベキューセット(大きさ自在に変化できるよ)
・カトラリー一式(∞)
さすがチートありがとうございます。
一応、ルドには相談した方がいいよね?他の人もいる事だし……離れた場所で馬の世話をしているルドを呼ぶ。
「ねえ、ルド。ちょっといい?」
馬の手綱を結び終えたルドを、少し離れた場所に呼ぶ。何事かと首を傾げながら近づいてきた彼に、私は声を潜めて切り出した。
「今日、テント使えないでしょ? アギトたちがいるし」
「あー……まあ、そうだな。あれ見られたらさすがにまずい」
ルドが苦笑しながら頷く。私のインベントリに入っている簡易テントは、外見からは想像もつかないほど快適な空間が広がっている代物だ。とてもではないが、事情を知らない人間に見せられるものではない。
「野外調理器具一式があったはずなんだけど、これなら怪しまれずに使えるかなって」
「ん、見せてみろ」
ルドに促されて、私はそっとインベントリを開き、焚火セットを取り出す。ごく普通の焚火台と、薪をくべる道具一式。見た目には何の変哲もない。
「……ああ、こいつは大丈夫だろ。多少作りが良くても、旅の商人とか冒険者が持ってるようなやつと変わんねぇ」
ルドは焚火セットを一通り眺めると、あっさりとそう言った。
「魔獣除けの効果がついてるのも、この手の物なら別に珍しくねぇしな。むしろ持ってなきゃ野営なんてできねぇ」
「そっか、良かった」
「出すのは焚火セットだけにしろよ……後は……普通の何も入っていないパンと果物だけだ。それ以上は今は出すな」
確かに、食事で変に勘繰られても困るので素直に頷く。
「そうだね。ありがとう、ルド。あっ!飲み物はどうしよう……」
「……魔法で出せます。で大丈夫じゃねえか?だが、少しづつ出すんだぞ!」
ルドはそう言って、いつもの飄々とした笑みを浮かべた。相談してよかった、と私は密かに安堵する。少しでも確認できることは確認しておこう。
「俺が焚火セット持って行くからお前は食べ物の準備な」
そう言ってアギトたちのいる洞窟へと向かった。
私はインベントリから大き目の鍋を取り出して、ポケット収納からはロールパンと適当に果物を取り出して鍋に入れる。見た目変だがまあ大丈夫でしょう。準備ができたのでルドの後を追って洞窟へ向かう。
洞窟の入り口に近づくと、すでにルドが焚火セットを組み終えていた。パチパチと小さな炎が上がり始めている。
「おう、遅かったな」
「準備に手間取っちゃって」
私は鍋を抱えたまま、アギトとロトの近くに腰を下ろす。二人とも先ほどより顔色が良くなっていて、少し安心した。
「パンと果物があるけど食べない?」
「ぱん!」
ロトがぱっと目を輝かせた。
「遠慮しないで。多めに持ってきたから」
私は鍋からロールパンをいくつか取り出し、アギトとロトに手渡した。果物も添える。
「……本当に、何から何まですまない」
アギトはパンを受け取ると、深く頭を下げた。その手は、まだ少し震えている。
「気にしないでいいから。ゆっくり食べて」
私がそう言うと、アギトはようやく小さく頷き、パンを一口齧った。ロトはもう我慢できないとばかりに、両手でパンを掴んでかぶりついている。
「……! このパンすごくやわらかくて、おいしいよ!」
「こら、そんなに慌てて食べたら喉に詰まるぞ」
アギトが苦笑しながらロトの背中を優しく撫でながら、アギトもパンを食べ始めた。
「おとーさんおいしいね!」
「……ああ、美味いな」
微笑ましい光景を見ながらポケット収納からコップを取り出して魔法で水を注いで二人へと渡す。
「お水もどうぞ」
「助けてもらった上に食事まで……感謝する」
アギトはまだ少し戸惑った様子を見せながらも、コップを受け取った。ロトは早速こくこくと水を飲んでいる。
少し離れたところで焚火をしているルドの側に行きパンを一つ取り、残りは鍋ごとルドへ渡して隣に腰を下ろした。焚火の炎がぱちりと爆ぜ、洞窟の壁にゆらゆらと影を映し出す。
隣でパンを頬張りながら、ルドがふと声を落とした。
「……なあ、この後どうすんだ? こいつらのこと」
その問いに、私は少し考え込む。王都まではあと少し。だが、アギトとロトを、このままあの村に帰すわけにはいかないだろう。かといって、勝手に王都まで連れてはいけないし……私一人では決められない。
「どうしよう……このまま、ほっとくことなんてできない……」
私がそう答えると、ルドは「まあ、そうだな」とだけ言って、それ以上は何も聞いてこなかった。
「……獣人の国では人族と結ばれる事を良しとしないと考える奴らは結構いる。生まれて来る子供も獣人の血を引いているが獣人の能力が全くない人の子、見た目は人族、獣人の能力が遥かに劣る子か、獣人として生まれて来るかのどれかだ」
「そうなんだ……ロトは、見た目は人族に近いけど……」
「ああ。とはいえ、あの子の場合は能力が遥かに劣るタイプだろうな。見た目通り、獣人としての力はほとんど発揮できねぇはずだ」
ルドはちらりとロトの方に目をやりながら、パンを一口齧った。焚火の向こうで、アギトが小さな声でロトに何かを話しかけている。二人の間に流れる空気は、穏やかで、優しい。
「けどな」
ルドの声のトーンが、少し低くなった。
「見た目も能力も人族寄りってのは、獣人の国じゃ一番厄介なんだよ。獣人としての『格』がねぇって、下に見られる。かといって人族の国に行きゃ行ったで、獣人の血が混じってるって分かりゃ、それはそれで白い目で見られる。……どっちの国でも、居場所を見つけるのは簡単じゃねぇ」
私は黙って、その言葉を噛み締めた。差別や偏見というものは、こんなにも幼い子供の未来まで縛りつけてしまうものなのか。ロトはまだ、自分がどれほど厄介な立場に生まれたのか、きっと分かっていないだろう。今はただ、父親と一緒にパンを頬張って笑っている、それだけの子供なのに。
「……村には、もう帰れないよね」
「無理だろうな。今までも厄介者扱いだったみたいだしな」
ルドの言葉は容赦がなかったが、それが現実なのだろう。
助けたは良いが……どうしたらいい……?
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