60 二人をどうする?
作品読んで頂きありがとうございます。
新しく連載します。前編、中編、後編の3部作。
元、強気女28歳が穏やかな伯爵令嬢に転生!!悲劇の主人公気取りの婚約者を切り捨て・・・新しく恋をします!
興味があれば読んでみてください。
「俺たちは魔物の囮にされた……」
「なんだと!? 囮って……お前ら、一緒にいた連中に見捨てられたってことか!?」
ルドの声が怒りで低く震える。普段のからかい好きな彼からは想像もつかないほど、鋭い眼光で獣人の男を見据えていた。その勢いに、ロトがびくりと肩を震わせ、獣人の服の裾をさらに強く握りしめた。
獣人は、一瞬言葉に詰まったものの、小さく頷いた。
「そうだ。隠すようなことでもない……俺はアギト。この子はロト、俺の息子だ。村から荷馬車で町へ向かっている途中でオークが出た。仲間と荷馬車を守るために俺達が囮にされたんだ」
アギトは静かに首を振ると、膝の上のロトの頭を優しく撫でた。
「この子は……ロトは、人族との間にできた子供なんだ……村じゃずっと、俺たちは厄介者扱いだった」
アギトの声は淡々としていたけれど、その奥に押し殺した怒りと、諦めにも似た疲れが滲んでいるのが分かった。
「……そんな理由で……」
差別なんて、この世界でも珍しくないと分かっていたつもりだった。でも、実際にこうして目の前で、子供が涙を堪えながら父親にしがみついている姿を見ると、頭で理解するのとはまるで違う重さがあった。
「それでも、村を出るわけにはいかなかった。ロトが一人で生きていける場所なんて、この国ではそう簡単には見つからない」
アギトはそう言うと、ロトの頭をもう一度そっと撫でた。ロトは涙を袖でごしごしと拭いながら、小さく頷く。
「とうさん……僕のせいで……いつも……ごめんなさい」
「ロト……」
アギトが優しくロトを抱き寄せる。 その光景に、私の胸がぎゅっと締め付けられる。
何とかしてあげたい!このまま見過ごすことなんて……私には出来そうになかった。
隣を見るとルドも同じことを考えているのか、いつもの飄々とした表情はどこにもなく、真剣な眼差しでアギトとロトを見つめていた。
「ねえ、これからどうするの?行く当てあるの?」
アギトは何か言い返そうとしたようだったが、結局何も言えずに俯いた。
「……なあ、アギトまだ本調子じゃねぇだろうが。そんな状態で子供連れて森の中をうろつくのは危険だ」
栄養ドリンク一滴しか摂取していないので重傷だったアギトはまだ完全には癒えてない。ロトの方は回復しているようだけれど……傷の痛みからか、それとも他人への戸惑いからか、その表情には複雑なものが滲んでいた。もう少し栄養ドリンクを飲ませたいところだけれど、色々バレてしまいそうなので、これ以上は今は控えよう。だけど、調子が戻るまでは出来るだけの事はしてあげたいと思った。
「まずは、場所を変えよう」
ルドがそう言って倒れたままだったオークの死体に近づいて鞄に収納した。
「持って帰るの、それ?」
私が聞くと、ルドはにやりと笑った。
「魔石も素材も高く売れるからな。放っておく手はねぇだろ」
「……すごいな、その鞄マジックバックってやつか……」
アギトが呆然とした様子で呟いた。
「このままここにいても仕方ねぇし、一旦移動する」
アギトは、立ち上がるが足元がふらついている。ロトが支えるようにして隣に立った。
「アギトとロトは馬に乗せた方がいいよね」
私がそう言うと、ルドは頷いた。
「そうだな。馬は少し離れた所に繋いである。俺が連れてくるから、お前らはここで待っててくれ」
「うん、お願い」
「アギト、お前も無理すんな。もうしばらく座ってろ」
ルドはそう言い残すと、身軽な足取りで木々の合間へと駆けていった。その背中を見送りながら、私はアギトとロトの隣にそっと腰を下ろした。
「……助けてもらってまだ礼も言ってなかった……ありがとう。俺も息子もあんた達のお陰で助かった」
そう言って深々と頭を下げる。
「そんな!頭を上げて。偶々通りかかっただけで運が良かったんだよ!」
「だが……俺達の為に高価なポーションを使ったんだろ?でなければ俺はきっと助からなかったはずだ」
その言葉にロトの顔が強張る。ロトは気絶していたからアギトの状況は知らなかったのだろう。
「今は何も持っていないが、必ずポーション代は払う。さっきのオークも金の足しにしてくれ」
「そんなことは気にしないでいいよ!オークも持ち運びしやすい様に収納しただけで、貰おうなんて思ってないから!」
「だが……」
「今はこれからの事を考えよう!ポーションの事はきにしないで!」
そう言い合いをしているとルドが戻って来た。
「……ん、悪い、待たせた。アギトとロトは馬に乗ってくれ」
「……助かる」
アギトは短く礼を言うと、ロトに手を貸してもらいながら、ゆっくりと馬の背に乗り込んだ。まだ足元がおぼつかない様子だったが、ロトが甲斐甲斐しく支える姿に、私は思わず頬が緩む。
「野営できそうな場所を探すつもりだったが……この辺りに詳しくねぇからな。アギト近くにないか?」
「……この近くなら、俺が知っている。小さな洞窟がある。昔、猟師をしていた頃に何度か使ったことがあるんだ」
「洞窟?」
「ああ。ここから半刻ほど北に行った所だ。狭いが、雨風はしのげるし、獣避けの跡も残っているはずだ」
「よし、そこに案内してくれ」
「……分かった」
一行は森の中を静かに進み始めた。木々の隙間から差し込む夕暮れの光が、地面に長い影を落としている。日が沈むまでにはそう時間がなさそうだった。
半刻ほど進んだ頃、アギトが指差した先に、岩肌にぽっかりと口を開けた洞窟が見えてきた。入り口はそれほど大きくないが、中は思ったより奥行きがありそうだった。
「ここなら、火を焚いても外からは見えにくい。雨風もしのげる」
アギトの説明に、ルドが満足げに頷く。
「今夜はここで野営するか」
私たちは馬を洞窟の近くに繋ぎ、野営の準備をする。
すっかり日が傾いた空の下、ようやく一息つけそうな場所を見つけたことに、私は密かに安堵の息を漏らした。
今日はテント様は出せそうにない。




