55 話を聞こう
クロがお風呂に入っている間に、私は夕ご飯の準備を始め、大量のだし巻き卵を作り終えたタイミングで、玄関が勢いよく開いた。
――バンッ!!
「戻ったぞー」
「!?…ルド!! えっ! 数日かかるって……」
「俺もそう思ったんだが、栄養剤? あれはヤバい代物だ!」
数日はかかると思っていたので、思わず目を丸くする。
しっかりと人型で戻ってきたルドは、興奮気味に話し出した。どうやら、栄養ドリンクの効果が超絶だったらしい。
「クロはまだ戻ってねぇのか?」
「馬と一緒に帰ってきてるよ。今はお風呂に入っている」
「詳しい話は、揃ってから話す……いい匂いがする……先にご飯食っちまっていいか?」
「もう少しでお風呂から上がって来るとは思うけど……」
余りにも、物欲しげな視線を送って来るので……負けた。
「準備するからダイニングテーブルで待ってて」
ルドに『クリーン』を掛けて、ご飯をテーブルへと運ぶ。
テーブルの上には、豚汁とだし巻き卵、サラダにごはん。少し物足りないので、パントリーから大量の唐揚げを追加する。
テーブル一杯に並べられたご飯を見てルドの目が輝きに満ちていた。
「先に食べちゃう?」
「……食べたい……いいのか?」
「たくさん作ってあるから大丈夫だよ」
「だったら……」
ルドが言い終わる前に、浴室からクロが出てきた。
「は!?」
「「……?」」
「どうしたの? ご飯たべよー?」
「お腹空いたー! 早く食べようぜ!」
「・・・・・・」
何でお前が戻って来ているんだ!? と、言いたい言葉を飲み込む。
俺の気遣い・・・すべてが要らない考えだったな。
俺があれこれ気にしていたのが馬鹿らしくなるくらい、いつも通りすぎる。
まさかルドが戻って来ているとは思いもしなかったが……こいつのお気楽さに、何だか救われたような感じもしないでもない。
「ほら、何してるんだ? 早く来いよ!」
「ご飯冷めちゃうよー!」
「……はいはい」
二人に急かされ、俺は小さく息を吐きながら、食事の席へと着いた。
「今日は留守番して暇だったから、色々と料理作って……これが豚汁で、こっちがだし巻き卵だよ。私の故郷の料理なんだけど、食べてみて」
真っ先にルドがだし巻き卵にかぶりつき「うんっまーーーい!!」と一気に食べ始めた。
「おい、俺の分も残しておけ。 これが…豚汁? 美味いぞ!」と言いながら物凄い速さで食べていく。
聞きたい事は沢山あるけれど……食事の後にした方が良さそうである。
だし巻き卵は卵20個分は出したのにすぐに無くなってしまった。卵の食べ過ぎ良くないのでは?ってことで、かぼちゃのサラダを追加で出す。たくさん食べてくれるから、作り甲斐があるのでうれしい。
食事と後片付けを終わらせ、ソファーでコーヒーを飲みながら今日あった出来事を順番に話すことにした。
「先に俺から報告させてくれ。『栄養ドリンク』アレはヤバすぎる!疲れ知らずで物凄く早くなる!調子乗ってめっちゃ走って行ったら……一時間半くらいで王都に着いちまった」
「「・・・・・・」」
なるほど。そりゃー帰って来られる訳だ。能力爆上げして疲れ知らず……さすが神様!!
無限に出せるけれど……やっぱり、取り扱いには注意が必要だね。
「言いたい事は色々あるが…王都で分かった事を報告しろ」
「ああ、そうだな……王都で分かったことなんだが、俺達が行方不明なのを把握していたのは、団長と俺達の両親だけで、他の連中には、極秘任務に就いている事になっていた。騎士団の中で混乱があるような感じはしなかった。誰かと接触するべきか悩んだが……今の状況で下手に動くのも危険だ。だから何もせずに戻ってきた」
「そうだな……明日は俺が王都まで行って確認する。だからルドはそいつを連れて馬で王都に向かってくれ」
「はあぁぁーしょうがねえな……なら、通信の魔石はクロに渡しておく。何かあったら連絡してくれ」
魔石をクロに手渡して再び明日の予定を立てる。クロは早朝には出るが、私とルドは無理せずに王都を目指すことになった。
「町へ馬を買いに行ってきたが、特に有益な情報は得られなかった」
クロはおもむろに立ち上がり、リュックを持ってきた。
中から巾着と紙袋を取り出すと私に差し出して――
「これはお前にだ。残りのお金も返しておく。必ず返すからな」
「お金のことは気にしなくてもいいのに……この紙袋は?」
「ローブだ。俺達がお前のローブを使っているから……あった方が良いと思って買ってきた」
袋から取り出してみると、ワインカラーのフード付きローブであった。襟元と袖口に可愛い花の刺繡が施されていた。
「かわいい……!」
「何の付与もされていないが、無いよりはマシだろう」
「うん! 十分嬉しいよ!」
「そうか」
短く答えたクロだったが、その表情はどこか安心したように見えた。




