55 留守番終了
この際だから作り置きをたくさん作ることにした。
カレーとシチュー、ミートソース、豚汁にチャーシューなど色々作った。
高級魔物肉を使って魔法で時短。大量にできた料理に大満足である。
勿論、大量のお米を炊くのも忘れてはいない。ついでに大量のパスタも湯でておく。
本来なら何時間もかけて煮込む料理まで、あっという間に完成していく。
なんて素晴らしい魔法なんだ。
ポテトサラダ、かぼちゃのサラダ、かぼちゃプリンも大量生産した。
次は何を作ろうかと考えていると、玄関から声が聞こえてきた。
「戻ったぞ」
私はぱっと顔を上げる。「帰ってきた!」
慌ててキッチンを飛び出し、玄関へ向かう。
「おかえり!」
「……なんだ、この匂い」
玄関に入った途端、クロが怪訝そうに鼻を動かした。
「えへへ。帰ってくるまで暇だったから、作り置きをいっぱい作ってたの」
「食べ物沢山あるのにか?」
「パントリーにも冷蔵庫にも無い料理を作っていたの。美味しいよ?」
「美味しそうな匂いではあるが……」
料理に夢中で気が付かなかったが、色んな匂いが部屋中に充満している。
「うわっ!色々な匂いがごちゃ混ぜ! クリーン!」
部屋に充満していた料理の匂いが、一気に消えた。ついでにクロにもクリーン。
玄関の外を見ると薄暗くなっていた。料理に夢中になっていたせいで、時間の感覚がすっかりなくなっていた。
「テントの側に馬をつないである。水と餌を準備したいのだが……」
「馬と言ったら人参!準備するから待ってて」
慌ててキッチンへ戻り、トレーに大量の人参を入れて持って行く。
「……結構重い」それでも両手でしっかり抱え、玄関へ戻る。
「お待たせ!」
「……お前、それ全部食べさせるつもりか?」
「分からないけど、いっぱい食べるかもしれないし!」
「そういう問題では……」
クロが何か言いかける。その時―― 外から馬の声が聞こえた。
「ヒヒーン!」
「ほら! お腹空いてるって!」
私は人参を抱えたまま、意気揚々と馬の元へ向かった。
――新しい仲間にも、ちゃんとご飯を用意しなくては。
「待っててねー! 今、人参持っていくからねー!」
急いで馬の所に行くと…思っていたより大きな馬である。この馬も異世界仕様なのか、兎に角デカイ!!私の身長よりも馬の頭が1m程高いところにあった。
つぶらな瞳で私を見つめて…いや、人参を見つめている。
「お腹すいてる? 人参食べる?」
目線は人参。口からは大量のヨダレがこぼれ落ちていく。そっと地面に人参をトレーごと置くと、勢い良いよく食べ始めた。
ベシャッ!!
唾も勢いよく飛んで来た。顔面に・・・
後ろでクロが笑っているが、気にせず「クリーン」である。
あっと言う間に食べ終えた馬は何だか物足りなさそうな視線を寄越す。
「水を飲め。食い過ぎだ」
いつの間にかバケツに水を入れて、持って来てくれていた。
「馬に大量の人参は贅沢だ。人参や果物はおやつ程度で良い。これに慣れてしまっては大変だぞ?餌は乾し草だ」
成る程…私は大量のおやつをあげてしまった様である。
「数日分の乾し草は買ってある。人の話は最後まで聞いてくれ」
その通りである。
「ごめん…馬は人参!って考えしかなかったよ。次からは気を付ける」
「そうしてくれ。俺はこいつにブラッシングするから、テントに先に戻っておけ」
物欲しそうに馬が視線を送って来るが、ここは素直にクロの言うことを聞いておこう。
「分かった。先に戻っておくね」
先にテントに戻って来た私はお風呂へ直行した。『クリーン』したけれど、しっかりと洗い流したい気分である。臭いも凄かったしね!
きれいサッパリと入浴を終えた頃に、クロはテントに戻って来た。
「お疲れ様。先にお風呂入っちゃったよ。クロも入る?それとも、ご飯先にする?」
「…先に風呂入る。」
ぼそっと呟いて風呂場へ行った…
…? 何だか元気がない?何かあったのかな?
ぐぅぅー
お腹空いた。料理しまくりで、今まで気づかなかった…お昼ご飯食べてなかった!
「ご飯何にしようかな?クロに聞いてみるか」
お風呂場まで行き、ドア越しに話しかける。
「ご飯、お米とパスタどっちがいい?」
「っ!! おまっ! なっ、何でもいい!!」
やけに慌てた返事が返ってきた。
「じゃぁ…豚汁にするね」
「わかった!」
私はキッチンへ行き、豚汁を用意する。
インベントリから大鍋に作った豚汁を5人分ぐらい新しい鍋に入れて、残りは大鍋ごとインベントリに収納。
急に、だし巻き玉子が食べたくなったので、これも大量に作っておこう。卵50個分である。
せっせと焼いて、巻いてを繰り返していく。生活魔法のおかげで、素早く美味しく作ることができた。
「魔法最高!!」
時間を少しだけ遡る―――
馬のブラッシングを終えて、テントに戻ると「お帰り」と笑顔で迎えられた。
ふわり、と漂ってくる石鹸の香り。どうやら、風呂上がりで出迎えてくれたらしい。
なんと無防備な……と、思ったが今更だな。数日間一緒に生活しているし……
だが――今夜は、俺と彼女の二人きり。そう思った瞬間、妙に彼女の存在を意識してしまう。
つもと同じように過ごせばいいだけなのに、俺は逃げるように浴室へ向かった。
シャワーを浴びながら考える。今夜は二人きり……こんな状況は今まで経験したことが無い。
そもそも、俺に近付く女は、俺自身ではなく、顔や地位が目当てにすり寄って来る煩わしいだけの存在だった。二人っきりだと意識したら、妙に落ち着かない。胸の奥がもやもやする。
「ご飯、お米とパスタどっちがいい?」
「っ!!!」
突然、浴室のドア越しに話し掛けられて、思わず肩が跳ねる。
こいつには恥じらいも遠慮もないのか!!
「っ!! おまっ! なっ、何でもいい!!」
何か言っていたが、適当に返事をして追いやった。
異世界でこういう事は普通なのか!? 俺が気にしすぎているだけなのか?
考えれば考えるほど、余計に分からなくなってくる。
「何でもない……何でもない……気にするな俺!!」
床にしゃがみ込んだ俺は、落ち着きを取り戻すまで、頭からシャワーを浴びるのであった。




