53 クロ町へ行く
俺はテントを出て、ローブの認識疎外の設定調整をする。 完全に姿や気配を消すのではなく、人の記憶に残らない程度にしておいた。
「……便利すぎるな、これ」
こんなものを簡単に渡してくるあいつには、驚かされる。
だが、今はありがたく使わせてもらおう。
調整を終えたら、急ぎ足で町へと向かった。 目的は、馬の調達だが…できれば情報収集もしておきたい。
何か有用な情報が掴めるかもしれない…だが、あまり期待はしないでおこう。
しばらく進むと、目的の町が見えてきた。
魔獣の森の側にあるこの町は、トーラスの町。
確かアワード辺境伯が領主として納めていたはずだ。
町を囲むように高くそびえ立つ石造りの頑丈な壁は、ただの囲いではない。
魔物の襲撃から住民を守るための、防波堤のような役割を持っている。
壁の上には見張り台があり、周囲を警戒する兵士の姿も見える。
「……相変わらずだな」
この町を収めている領主。アワード辺境伯とは面識がある。
ただの顔見知りという程度ではない。魔物討伐の際に何度も共に戦い、王城でも幾度となく顔を合わせ、言葉を交わしてきた相手だ。その実力と功績は、騎士団の中でも広く知られている。
騎士団に所属している者で、彼の存在を知らない者はいないだろう。
それほどまでに、辺境伯は騎士団との繋がりが深い人物だった。
「……まあ、あの人なら話は早いかもしれないなが……」
俺は門を見上げながら呟く。
信用できる相手だとは思うが、何の根拠もない。
今回の件は、まだ何も分かっていない。
根拠のない判断で誰かを巻き込むわけにはいかない。もっと慎重に行動する必要があるし、あまり表立って動くわけにはいかない。小さく息を吐き捨て、俺は門へ向かって歩みを進めた。
しばらく待つと、ようやく町へ入る順番が回ってきた。
「何ようだ? 身分証はあるか?」
門番に尋ねられ俺は慌てることなく答える。
「魔物に襲われて、逃げる途中で身分証をなくしてしまった」
嘘ではない。
門番は少し気の毒そうな顔をする。
「それは災難だったな。だが、身分証がない場合は少しばかり高くなるが入領金を払ってくれ」
「分かった」
提示された金額を支払い、無事に町へ入る。
思ったよりも簡単だった。 認識疎外の効果もあるのだろう。
門番は俺の顔を見てはいるが、特別気に留めている様子はない。
同じ獣人であることも大きな要因だろうけど、俺が身分証を持っていないことを余り不審には思わないようで、れそれ以上深く追及されることはなかった。安堵とともに俺は町の中へと足を踏み入れた。
町は以前来た時とさほど変わりはなく、人々の声が飛び交い、店はにぎわっている。
俺は周囲を確認しながら、まずは目的の馬屋を探す中で、一軒の店が目に入った。 洋服屋だ。
そういえば……あいつのローブを二つとも俺達が使ってしまっている。
目立たないためにも、もう一着あった方がいいかもしれない。
「……必要になるかもしれないな」そう思った俺は店に入り、あいつに似合いそうなローブを一着選び、購入した。さすがに同じ性能のものは勿論ないので、何の付与もされていない普通のローブである。
それでも、何かの役には立つだろう。
店を出てから、ふと気が付いた。
俺が、他人の服を選んで買うのは……初めてではないだろうか?
そう考えると、なんだか不思議な感じがした。思わぬ寄り道をした俺は、購入したローブをリュックにしまい、気持ちを切り替える。
そして、再び馬屋へ向かって歩き出した。
ほどなくして馬のいななきと、賑やかな声が聞こえてきた。どうやら目的の馬屋に着いたようだ。
厩舎には毛並みの良い馬が何頭も繋がれており、店員たちが手際よく世話をしている。
俺が店先へ足を踏み入れると、一人の中年の男が愛想よく声を掛けてきた。
「よう、旦那。旅人かい?」
人懐っこい笑みを浮かべながら、男は胸を張る。
「うちは良い馬が揃ってるぞ。長旅用から足の速い奴まで、用途に合わせて紹介できる」
俺は厩舎を見渡しながら頷いた。
「王都まで行ける馬を探している」
その言葉を聞いた男は、にやりと笑う。
「王都か。それなら、足が速いだけじゃ駄目だな。長距離を走れて、気性も安定してる馬じゃねぇと」
男はそう言うと、自信ありげに奥の厩舎を指差した。
「ちょうどいい馬がいる。こっちだ」
店主に案内され、厩舎の奥へ向かう。
そこには、艶のある体格の良い栗毛の馬が一頭、大人しくこちらを見つめていた。
俺はゆっくり近づき、首筋を撫でる。馬は嫌がることもなく、小さく鼻を鳴らした。
「長距離向きで気性もいい。王都まで行くなら、こいつがおすすめだ」
この馬の体格なら二人乗りでも問題なさそうだ。
「……こいつにする」
「毎度あり」 店主は嬉しそうに頷き、手続きを始めた。
ついでに、鞍も二人で乗れるものを用意してもらうよう頼む。
少々値は張ったが、こればかりは仕方ない。
馬の準備ができるまで、少し時間がかかるらしい。
待っているだけでは時間がもったいないので、その間に情報収集することにした。
人気の少ない路地裏へ行き、周囲に人がいないことを確認する。
そして、疎外認識を最大にして姿と気配を完全に消し去る。
まずは冒険者ギルドにでも行ってみるか……
冒険者ギルドなら、人が集まる場所だ。魔物の情報、街の噂、最近の出来事など、何か分かるかもしれない。
俺は気配を消したまま、大通りへ向かって歩き出した。
――一方、その頃ルドは。
「ひゃっほぉぉぉぉぉーー!!」
栄養ドリンクの効果で、絶好調のまま街道を爆走していた。
あまりの速度に、人として認識されることすらなかった。
「ん?あれは……王都!?」
ルドは勢いよく駆ける足を止め、遠くに見える巨大な城壁へ目を凝らした。
間違いない。あれは、紛れもなく王都だった。
「はああぁーーー!? 幾らなんでも速すぎるだろーー!!」
思わず大声で叫んでしまった。
少し離れた街道の前方にいた人影が、ビクッと肩を震わせ勢いよくこちらを振り向き目が合う。
??? 一瞬、時間が止まる。
!! 疎外認識かけ忘れてた!!!
俺の格好ヤバイ!!
慌てて疎外認識を最高設定へ切り替える。
効果が出たみたいで、前方の人物は首を傾げると、不思議そうに辺りをキョロキョロと見回し始めた。
やがて「気のせいか」とでも言いたげに首を振り、そのまま歩き去っていく。
「……あっぶねぇぇぇ。」
ルドは胸をなで下ろし、大きく息を吐いた。
危うく王都に着く前に、不審者扱いされるところだった……王都に着く手前で気付けてよかった。
安堵したのも束の間、改めて遠くにそびえる王都へ視線を向ける。
三日はかかるはずの距離を、ほとんど時間を感じることなく駆け抜けてしまった。
あまりにも非常識な速度に、ルドはただただ驚愕するしかなかった。
面白い! 続きが気になる!
と思ったら
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】をタップして頂けたら嬉しいです
【★★★★★】にしてくれたらものすごく嬉しいです!!
ナイスマークをポチっと
して頂けたら感謝!感謝です!
読んで頂きありがとうございます!




