52 別行動開始
連絡手段を手に入れたことで少し不安だけ和らいだ。
これなら離れていても連絡が取れる。
何かあっても状況を確認できると思うと、気持ちが随分と楽になった。
時間は、おそらく昼頃。
準備も整い、ルドは早々に王都へ向かうことになった。
相変わらず少し不貞腐れた雰囲気は漂っているけれど……まあ、それは仕方ない。
「あっ、そうだ!」
出発しようとするルドを呼び止める。
「行く前に栄養ドリンク飲んでみない? 体力維持の効果もあるみたいだから、長距離移動が少しでも楽になるはず」
ルドは差し出された栄養ドリンクと私の顔を見比べる。
拗ねたような表情のまま、無言で見つめる。
蓋を開け、ルド犬の前に差し出すと、まずは慎重に香りを確かめた後に、ほんの少しだけ舐める。
「味は……悪くない」
大丈夫と判断したのか、今度は躊躇することなく、口に咥え、そのまま一気に飲み干した。
「大きな変化は感じないが……やる気が溢れ出てくる感じがする」
その場で軽く飛び跳ねたり、体を伸ばしたりして調子を確認し始めた。
「体がやけに軽く感じる。いつも以上の速さで行けそうだ」
「本当?」
私が驚くと、ルドは頷く。
「ああ。これは長距離移動にはかなり助かる」
そう言うと、そのまま玄関に向かったので、クロと一緒にその後を追う。
テントの外でルドを見送る。
「何か分かればすぐ連絡する」
「こっちでも何かあれば連絡する。……無理はするな。 十分に気をつけてくれ」
お互い目線を合わせて頷きあう。
「分かっている。 じゃあ、行ってくる」
そう言ってルドは王都目指して駆けだした次の瞬間――。
ドンッ!!
地面を蹴る音だけが響き、物凄い速さで見えなくなっていった。
あまりの速さに唖然とする私……
「獣化ってすごいね……あんなに早く走れるなんて……」
素直に感心しながらルドが消えた先を見つめる。獣人は身体能力が高いとは聞いていたけれど、ここまでとは思わなかった。
だが、
「どう見ても異常だろう…… さすがに、アレは……ない……」
「え?」 振り返ると引き攣った顔のクロがいた。
「……もしかして、栄養ドリンク?」
「それしか考えられないだろ……」
凄まじいスピードで行ってしまったルド……
さすがにあの速度で移動して、何かにぶつかったりしないだろうか。
しかし、たとえ事故っても大丈夫なはず。きっと、ローブの絶対防御が守ってくれるはずだから。
「……ルド、無事に着いてね」
私は遠く消えていった方向へ、そっと祈るのだった。
私とクロは、再びテントの中に戻ると次は、クロのお出かけ準備をすることにした。
ここから町まで少し距離があるみたいだしね。
インベントリからリュック型の収納鞄を取り出してクロに差し出す。
「このリュックも収納機能付いてるから念のために持って行って」
クロは受け取ったリュックを珍しそうに眺める。
「あまり見ない形だが、どう使うんだ?」
こちらではリュックは無いらしい。
私は言葉で説明するより早いと思い、自分で背負って見せた。
「なんだか便利そうだな。手ぶらで町に入るには怪しいし……借りておこう」
「食べ物入れてく?」
「そんなに時間はかからないだろうから、無くても大丈夫だろう」
町へ行って、馬を調達して戻ってくるだけなら、食料まで持っていく必要はないかもしれない。
そう納得しかけたところで、ふと思い出した。
「それもそうか……あっ! お金、お金持って行って」
インベントリからお金の入った袋を取り出してクロに渡す。
クロは袋を受け取り、中身を確認する。
「……全ての硬貨が一枚ずつあるのだが?」
「神様が準備してくれてたんだよね。本当に有難いよね」
複雑そうな表情で袋の中身を見つめたクロは、しばらくして小さく息を吐いた。
「分かった。少し借りる。必ずかえすから」
と律儀に告げる。こういうところは、本当に真面目だと思う。
別に返してもらうつもりで渡したわけではないのに、クロにとってはそこを曖昧にすることはできないらしい。
「必要な物があったら買ってもいいからね!」
「分かった。必要な物には使うようにする。俺が帰ってくるまではテントからは絶対に出るなよ」
「分かったよ。ちゃんと待ってる」
その言葉に、クロは少し安心したように頷いた。その表情から本当に心配してくれているのが伝わってくる。それからクロは荷物を背負い直し、玄関へ向かった。
「行ってくる」
「うん。気をつけてね」
私が見送ると、クロは一度だけ振り返る。そして小さく頷いたあと、テントを後にした。
静かに閉まる扉。さっきまでルドとクロがいたテントの中は、急に静かになった。
私は一人になった室内を見回す。
「さて……何をして時間をつぶそうか……」
一方―――
王都に向かってるルドは……
「何だこれ―!!メチャクチャ体は軽いし、いつもより走れるぜー!!」
と、爆走中である。
「よし! このまま一気に行くぜ!」
さらに速度を上げ、ルドは王都へ向かって駆けていくのだった。
……だが、本人はまだ知らない。
しっかりと疎外認識が掛かっていない事を・・・
爆走している存在がバレバレであることにルドは気付いていない……
しかし、あまりの速さに、誰にも正体を気付かれることはなかった。
速すぎるのだ。
目に映ったと思った瞬間には、すでに姿は遠くへ消えている。
「……今、何か通ったか?」
道を歩いていた者が、風のような何かを感じて足を止める。
しかし、そこには何もない。
「気のせいか……」
そう判断して、再び歩き出す。
爆走中のルドだけど、誰もそれが一人の獣人だとは気付く事はなかった。
ただひたすら、自分の身体能力の向上に感動しながら王都を目指していた。
まさか自分の移動速度が、周囲から見れば「何かが通り過ぎた」程度になっているとは知らずに。
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