51 別行動……連絡手段どうする?
散々笑い倒して、ようやく落ち着いた頃には、すっかり息が上がっていた。
「はぁ……はぁ……ご、ごめん……ルド……」
一応、謝る。
本当に申し訳ないとは思っている。 ……思っているのだけれど。
ちらりと視線を向ける。そこには、ローブと鞄を完璧に装備したまま、明らかに不機嫌そうなルド犬がいた。
耳はぺたりと垂れ下がり、尻尾も力なく下がっている。
完全にご機嫌斜めである。
「……」
無言の圧がすごい。
「……いや、本当にごめんね?」
もう一度謝る。 でも。 でもさ…… これは仕方ないと思う。
思い出しただけで、また口元が緩みそうになる。
笑っちゃ駄目だ。 ……だけど、正直に言おう。
ウケた。 物凄くウケた。 あれは反則だ。 誰だって笑うと思う。
クロもまだ少し肩を震わせているし、たぶん同じ気持ちだと思う。
「……」
ルド犬がじっとこちらを見る。その目は完全に光を失っていた。
「ちゃんと装備できることも分かったから、よかったね? 食料に着替えも持って行けるしね!」
これで、荷物の問題も解決したのでは?
獣化しても問題なく動けそうだ。 ただ、見た目がウケる!
「認識疎外の調節すれば完全に姿と気配も消せるから、移動中でも他の人に見られる心配ないよ? だからどうにかなるよ!」
他者には見られないから大丈夫だと伝えるが、ジト目で睨まれた。
完全に不貞腐れている。笑いすぎた感は否めない。そう考えていると、視界からふっとルド犬が消えた。
どうやら認識疎外MAXのようだ。
「気配も完全に消えてる」
クロは感心したように、先ほどまでルド犬がいた場所を見つめた。
しばらくすると、パントリーの方から」ごそごそと物色する音が聞こえる。
どうやら、出発の準備をしているようである。
鞄に物を入れるということは……人の姿に戻ってるのかもしれない。
きっと、全裸にローブと肩掛け鞄の姿なんだろう……
見えないから何とも言えないけど。
「食べ物は好きなだけ持って行ってね。あと、飲み物も忘れずに入れて!」
私が声を掛けると、ごそごそと物色していた音がぴたりと止まった。
聞こえたのだろうけど、返事する気はないようで、再びごそごそと荷物を詰める音だけが聞こえ始める。
「まだ機嫌は直ってないみたいだな」
クロが苦笑しながら肩をすくめた。
私はソファーへ腰を下ろし、ルドの準備が終わるのを大人しく待つことにした。
その間、町に着いてからの予定を話し合う。
「まず、町に入るには入領金が必要になる。それと、基本的には身分証の提示も求められる」
クロは淡々と説明を続ける。
「冒険者証や商人証を持っていれば、どの地域へ行っても通行時の料金は基本的に免除される。身元の保証にもなるからな。だが、どちらも持っていない者が全くいないわけではない」
クロは少し考えるように言葉を選ぶ。
「その場合は、少し高めの入領金を払えば町に入ること自体はできる。ただ……小さな村の出身者か、何か事情を抱えている者だと思われる可能性が高い」
なるほど。
確かに、身分を証明するものを何も持っていない人というのは、普通に考えれば少し怪しく見えるだろう。
「そして、俺たちは後者に見られる可能性が高い」
クロがちらりとこちらを見る。
「この国では人族は少ないからな。お前はそれだけで目立つ可能性がある。身分証を持たない人族……となれば、余計に警戒されるだろう」
「それだと、冒険者に憧れ旅をする設定は無理があったんじゃ?」
「それはあくまで他者と遭遇した時に怪しまれないための設定だ」
「……ですよねー」
思わず肩を落とす。
森の中で誰かに会った時の言い訳としては、それっぽく聞こえる。
でも、町へ入る時に身分証を求められるなら、その時点で詰む。
「このままでは町に入れないのでは?」
「残念だが今のところ厳しい。入れなくはないが、かなり怪しい目で見られて下手したら監視される可能性もある」
その言葉に、思わず眉をひそめる。
「監視……」
「ああ。何か問題を起こす可能性がある者として警戒されるだろうな」
……なるほど。
ただ町に入るだけなのに、想像以上にハードルが高い。
「だから、俺だけが町に入って馬を調達してこようと思う。すまないが下手に動いて何か問題になってからでは遅い。王都の様子次第では、こちらから身分証を準備してやることも出来なくは無い……と思う」
クロは少しだけ視線を逸らし、少し自信なさげに言うクロ。
「……思う、なんだ」
「確実なことは言えないが、方法がないわけではない。ツテはあるから……どうにかなるはずだ」
危険を冒してまで町へ行きたいとは思わない。
焦る必要もないし、クロの言う通りにした方が良さそうである。
私は素直に頷いておいた。
「……分かった。クロに任せる」
クロは少しだけ安心したように表情を緩めたが、真剣な顔で続ける。
「すまないが…俺が町に行ってる間は、念のため、外へ出ずにテントで待ってて欲しい」
何か事が起きても怖いので了承する。
心配してくれているのは分かるし、今は素直に従っておくことにした。
ある程度、話がまとまったところに突然ルド犬が現れた。
ルド犬は不機嫌そうな顔をしてこちらを見上げる。
「これから王都へ行ってくる」
別行動になってしまう事に不安がよぎる。
この世界での連絡手段てどうなっているのだろう。
「今更だけど、連絡手段てどうするの?」
「……魔法で連絡を飛ばすことはあるが……そこから足が付く可能性は無くもない」
周りを警戒して行動する二人には魔法で連絡を取り合うことは不向きであるようだ。
「伝達魔道具もありはするが……今は手元にない」
連絡手段はいくつかあるみたいである。
魔道具がるなら魔石を使って生活魔法で作れないだろうか?
「魔道具って魔石使ってるよね?どんな魔石?」
「確か風の魔石を使っていたはずだ。……まさか、お前……」
クロが怪訝な表情で問うがきっと当たりである。
魔石は魔獣を倒したときに沢山手に入った。その中に風の魔石もあったはずだ。
「魔石はあるから試しに作ってみようと思うの」
インベントリから風の魔石を二つ取り出す。
何となくだが生活魔法で作ることができる気がする。
魔石を両手で包み携帯電話をイメージすると、使える魔法が頭の中によぎる。
その生活魔法は…… 「電話機能搭載!!」 そのまんまである。
二つの魔石は淡い光を放ち始める。
その光はゆっくりと魔石の中へ吸い込まれていき――やがて輝きが収まった。
「……できた?」
恐る恐る鑑定をしてみる。
鑑定
【対の電話】
効果:どれほど離れた距離でも通話が可能。
使用方法:通話する時に「電話します。もしもしー」と唱えれば相手へ繋がる。
着信は、音・振動・光から自由に設定可能。
(持ち主を固定するのがおすすめです)
これで、王都へ行くルドと連絡が取れるなら、これ以上ないほど安心できる。
「できたのか? それに、電話ってなんだ?」
「えっと……遠くにいる人と話ができる道具? 多分、伝達魔道具と同じ様な物だと思う。この二つがセットになっていて、片方を持っている人と離れていても会話できるの」
「かなり便利な魔道具ではないのか? 伝達魔道具は大きさがあるから持ち運びには不向きだが、これはそうではない。 不用意に人に知られないようにしろよ」
どうやらこの世界ではかなり画期的なものを作ってしまったらしい。
まあ、使えるものは使わないとね!
二人へ簡単に使い方を説明する。
「話したい時は、『電話します。もしもしー』って唱えるだけ。受け取る方は、音と振動と光で設定できるみたい」
「……もしもしー?」
クロが何とも言えない表情を浮かべる。
持ち主登録をルドとクロに設定しようとしたが、クロが制止した。
後々の事を考えて、ルドと私で持ち主固定した方が良いだろうとの事。
クロのアドバイスに従い登録固定する。
お互いに魔石へ魔力を流し込むと、淡い光が一瞬だけ輝き、登録は無事に完了したようである。
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