50 別行動…準備する?
ルドは獣化して単独で王都へ向かうことになる。
身軽な方が動きやすいだろう。だが、だからといって何も持たせず送り出すのは心配だ。
「せめて着替えと食料くらいは持って行ってよ」
私は斜め掛けタイプの収納鞄を取り出し、ルドへ差し出した。
「これ貸してあげる。この収納鞄、サイズは自動調整できるし、マジック収納だから見た目以上にたくさん入るよ」
さらに、ファイト○発〇ポビ○ンD(……何だか言いたくないので、栄養ドリンクと呼ぼう)
数本と、お守りを手渡す。
「パントリーの食べ物も好きなだけ持って行ってね。時間停止機能付いているから腐ることも無いから」
「それは有難いんだが……俺、獣化するんだぞ?」
獣化して鞄を持って移動する獣人って、いないのかな?
だけど、獣化して後に人型へ戻った時は……裸だ。
嫌な予感が脳裏をよぎる――
思わずルドとクロを見比べる。
「……まさか! 獣人は人前で裸になって当たり前なの!!」
「「違う!!」」
二人は顔を真っ赤にして、声を揃えて怒鳴った。
えぇ……。
獣人の事なんて分からないから、私の知らない常識があるのでは?と気になっただけなのに……
そんなに声を荒げなくてもいいのでは?
「人目のない場所で獣化を解くのが普通だ!」
「服は事前に隠すか、仲間に預ける。人前で裸になる奴なんて、ただの変態だぞ!」
「腕輪やネックレスの収納型魔道具もあるが、容量はかなり小さいし、結構高価な代物だ」
「まぁ、裸さらすのが普通っていうのが違うと分かって安心したよ」
「何をどう考えたら、その結論になるってんだ……」
ルドは深いため息をつき、クロは額を押さえながら首を横に振る。
「お前の発想は、たまに斜め上に飛んでいく……」
失礼な。ちゃんと考えてはいるが、何しろ分からないことが多い。無知って怖いよね……
こうして、呆れながらも教えてくれる二人は有難い。
んなことを考えながら、ふと気付く。
「あ、そうだ! 鞄もだけど、周りに気付かれないようにするためにはローブ必要だよね?」
「「……」」
二人は一瞬、顔を見合わせキョトンとするが……
私は想像してしまった――
「ぷっ、ぷぷぷっ……。 犬がローブ着て鞄持ってるって」
「ぶふっっ!」
私の言葉でクロが盛大に吹き出した。
隣のルドは唖然である。二人とも想像したらしい。
「ちょ、クロ!?」
私が驚いて見ると、クロは口元を押さえながら必死に笑いを堪えていた。
「いや……だって……想像したら……」
隣を見ると、ルドは完全に固まっている。
「……」
耳だけがピクリと動いていた。
どうやら、こちらも同じものを想像してしまったらしい。
ローブを着て、斜め掛け鞄を背負った犬。 ……。
確かに、少し……いや、かなりシュールかもしれない。
「お前……」
ルドが呆然とした顔で私を見る。
しかし、出来る限りの準備はしておきたい。
着替えやら食糧などは、何かあった時の為に絶対あった方がいい。
「まずは、装備してから考えてみてもいいんじゃない?」
そう言いながらも、思わず口元が緩む。
ニマニマしながら提案する私に、ルドは嫌な予感を感じ取ったのか、少し後ずさった。
「……お前、今絶対面白がってるだろ」
ジト目で睨む不貞腐れたルドの隣で、クロはいまだに、肩を震わせて笑いを耐えている。
「ぷっ……いや、すまない…… まぁ……確認するだけならいいんじゃないか?」
「クロまで!?」
口では謝っている……が、全然すまないと思っていない顔である。
むしろ、面白いものを見つけたと言わんばかりに楽しそうだ。
クロの裏切りに悲壮な表情で目を見開くが、クロの容赦ない言葉が飛ぶ。
「実際に装備してみないと分からないだろう? 案外、違和感がないかもしれない」
「……」
ルド、沈黙。
その一言は、彼の心に確実な一撃を与えたようだったが、そんなことは気にしていられない。
「ほら、ルド。試すだけだから。 決して好奇心からだけじゃないよ? 着替え。食糧。大事だよ? 備え大事! 必要な物を持って行けるようにしたいだけだから」
どんな感じになるのか気になるが、言葉にはしないでおこう。
多少、顔には出てるとは思うけど、そこは仕方ないよね!
だが、渋るルドに冷淡にクロは言い放つ。
「いや……でもな……」
「獣化しろ。まずはそれからだ」
クロ辛辣!!!これでルドの逃げ道は無くなった。
悲壮感あふれるルドだが、ここは諦めてもらおう。
ルドはしばらく沈黙した後、大きなため息をつく。
「……分かったよ」
その声には、諦めと悲壮感がたっぷり込められていた。
覚悟を決めたルドは素早く獣化した。
目の前には耳も尻尾もしょんぼりしたルド犬が現れた。
その姿を見て少しかわいそう……とは思わなくもなかったが、クロは容赦なく動いていた。
脱皮のごとく抜け殻となった衣類と武器をクロが手早く鞄に収納する。
私は、脱げ落ちたローブを手に取り、いそいそとルド犬の前に向かう。
「大丈夫。きっと似合うよ」
そう声を掛けながら、ローブを掛けようと手を伸ばした――その時。
「先にこっちだ」
クロが素早く動いた次の瞬間、ルド犬の背中に肩掛け鞄が掛けられた。
鞄は、掛けた瞬間にルド犬の体に張り付くようにピッタリと縮小された。
「「ぶふぉー!!!」」
耐えられなかった。
私とクロは、同時に吹き出した。
「ちょ、ちょっと……待っ…て……!」
私は涙目になりながらも必死に笑いをこらえ……持っていたローブをルド犬に掛けると――
大きすぎたはずのローブが、ルド犬の体格に合わせるように縮んでいく。
首から腰のあたりまでの体のラインに沿ってにローブが縮小し、ピタッと張り付けた状態になった。
「「「ぐぅっ……! ひぃー……っ……ぶわはははー」」
私とクロは同時に吹き出し、膝から崩れ落ちた。
笑いすぎて息ができない。
「笑っ……て…ご、ごめん……でも……!」
息も絶え耐えに言葉にするが、後に続かない。
隣を見ると、クロは地べたに腹を抱えて、静かに転がっていた。
若干、ビクついて震えているから、まだ息はあるようだ。
「……」
一方、ルド犬は微動だにしない。 どこか遠い目をしていた。
完全に心が折れたようだ。
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