48 冒険者になる?
獣人の国で冒険者になるのは私には難しいらしい。
出来なくはないが……訳あり女になるか、笑い者になるか……
両方だと思う。
さて、どうするか……
冒険者になれれば、身分証も手に入るし、仕事も受けられる。生活するには一番手っ取り早い。
でも、人族というだけで笑われるような場所へ、自分から飛び込んでいくのも気が重い。
「別に笑われるくらいなら平気だけど……面倒事は嫌なんだよねぇ」
「お前の場合、笑われて終わるとは思えねぇけどな」
ルドがぼそりと呟く。
「……どういう意味?」
「お前、絶対何かやらかすだろ」
クロまで真顔で頷いた。
失礼な二人である。
だが、やらかして余計な注目は集めたくない。
「なら、冒険者以外の方法で身分を作る?」
「あるにはあるが……基本は商人か職人だな。あとは誰かの身元保証を受ける方法もある」
クロが思い出すように答える。
「なるほど……」
商人もいいかもしれない。
マイハウスへ戻れば、ハンドメイドもできる。クローゼットや収納には、布や糸、革細工の材料、工具まで揃っていた。
好きなものを作って売る――そんな暮らしも悪くない。
選択肢がないわけではない。
焦って冒険者になる必要もないのかもしれない。
まずは町へ入り、この国がどんな場所なのか、自分の目で見て、自分の耳で聞く。
その上で、これからどう生きていくのかを決めればいい。
「うん。急ぐ必要なんてないよね」
そう呟くと、不思議と肩の力が抜けた。
商人もいいかもしれない。マイハウスに行けばハンドメイドも出来るし、材料も色々あったしな……好きなもの作って売るってのもありだね。
焦って冒険者になる必要もないのかもしれない。
まずは町へ入り、この国がどんな場所なのか、自分の目で確かめてからどうするか決めよう。
考えてみると、寝る場所も食べる物も困らない。
マイハウスという反則級の拠点がある以上、生活に追われて焦る必要はどこにもないのだ。
「設定はどうするんだ? 冒険者になりたい人族の嬢ちゃんと、護衛兼指南役の俺ら――ってことでいいか?」
「嬢ちゃんって……私18歳! ここでは18歳は大人でしょ!?」
思わず抗議すると、二人は顔を見合わせ、そろって可哀想なものを見るような視線を私へ向けてきた。
何とも言えない、言葉を選んでいるような表情で――
「お前……どう見ても未成年にしか……」
ルドが気まずそうに呟く。
じとーっと睨みつけると、ルドは慌てて手を振った。
私が睨むと「い、いや! 見た目っていうか……その……身長が低いっていうか……」
「……」
この野郎……なんてデリカシーのない奴なんだ。
ちらりとクロを見ると、口元を押さえて肩を震わせて……笑ってる。
しかも必死に堪えているだけで、全然隠せていない。
私は二人をびしっと指差した。
「あんたらが無駄にでかいんでしょうが! 私は普通です! 人族として普通なの!!」
私は思わず声を張り上げる。
ルドもクロも獣人だけあって、百九十センチ近い長身だ。
そんな二人と比べらたら、小柄に見えるのは当然である。
「いや、普通って言われてもなぁ……俺の知っている人族より……」
「もういいから黙って! 私は冒険者に憧れて旅をしている! 二人は指南役兼護衛! これでいいよね!?」
半ば強引に話を打ち切る。
こう見えても、元は四十五歳なんだから!
今は18歳になってるけど、感覚的に年下から嬢ちゃんなんて呼ばれるのは嫌すぎる。
……とはいえ。
渋くて包容力のあるイケメンなおじ様になら、「嬢ちゃん」と呼ばれても悪くない。
いや、むしろ少し照れながら「はい」と返事をしてしまうかもしれない。
……いけない、いけない。
つい、どうでもいい妄想に意識が飛んでしまった。
「まぁ……今のところ、それが妥当だろう。しかし、町に着いても俺達は素性を隠したい。どうにか資金を作る手立てを考えなければ」
クロはすぐに現実的な話へと戻す。
「あっ、それなら大丈夫! 一通りお金は持ってるから!」
私は自信満々に胸を張る。
神様がインベントリの中に、この世界のお金を一通り用意してくれていたのだ。しばらく生活するくらいなら困ることはないだろう。
「だが…」
クロはなおも渋い表情を崩さない。
私は別に気にしないんだけどなぁ……。
律儀というか、真面目というか……こういうところは本当に融通が利かない。
「いずれ返してくれればいいんだし。それに、宿に泊まらなくてもテントがあるでしょ? 食べ物にも困らないし、案外お金を使う機会なんてないかもしれないよ?」
「どんどん借りが貯まっていく……世話になり過ぎている。こんな状況では仕方ないのかもしれないが…」
その表情には、申し訳なさと悔しさが滲んでいる。
私は少し驚いた。 そこまで気にすることなのかな……?
確かに、森で絵会ってから色々お世話したけれど、それ以上に二人から色々なことを教えてもらっている。
「そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「……」
「私だって、二人に助けてもらってるんだから。一方的に貸してるつもりなんてないよ」
そう伝えると、クロは何か言いたそうに口を開きかけた。
けれど、その前に――
「今の状況じゃしょうがねえ。いずれ借りは返すからよろしく!」
ルドが明るい声で割って入る。
その軽い言葉に空気が少しだけ緩んだ。
……本当にルドはこういうところが上手い。
深刻になりすぎそうな時に、自然と場を明るくしてくれる。
私は思わず笑ってしまう。
クロも小さく息を吐き、諦めたように肩の力を抜いた。
「……お前は本当に楽観的だな」
「褒め言葉として受け取っとくぜ」
いつもの調子で笑うルド。
そんなやり取りを見ていると、自然と頬が緩んだ。
この異世界で最初に出会ったのが、この二人で本当に良かった。
もし森で一人だったら――
きっと今頃、何を信じて、どう進めばいいのかも分からず、途方に暮れていたはずだ。
だから、町に着いた後、さよならする事を考えると少し寂しく感じる。
たった数日一緒にいただけなのに。
いつの間にか、この二人がいることが当たり前になっていた。
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