42 魔物現れる
不可侵の森を出て、安全地帯を進んで行く。
これから先は、私にとって本当に未知なる領域である。
今まで遭遇しなかったモノを目にする事になるであろう。
魔物を目の前にしたとき、私はちゃんと戦えるのかな……。
魔法がどれくらい通用するのかも分からない。
頭では「大丈夫」と思っていても、不安がないと言えば嘘になる。
時折聞こえてくる魔物の鳴き声にビクつく私。かなりの小心者である。
冒険使用の服は絶対防御があるから、怪我はしないだろう…だが、怖いものは怖い!
地図で確認しながら歩いているものの、この道はいったいどれくらいの道幅なんだろう……
気になった私は、地図を拡大して確認してみる。
大体、大人5~6人が横並びしたぐらいの幅だってことが分かった。
案外狭い。
道が狭いということは、かなり近くまで魔物が来るということである。
「魔物の居場所が分かればいいのに……」
ふと、呟いた言葉に地図が反応した。
『敵探知を表示します』
「…えっ!?!?」
地図上に赤い点が現れた。
慌てて足を止め、地図を縮小して周囲一帯を表示する。
すると――至る所に赤丸がある。
道の周囲だけではない。
森のあちこちに、無数の赤い点が表示されていた。
「おい、どうした?」
突然立ち止まった私に気付いたクロが声を掛ける。
「えっと……安全地帯の道幅が気になって調べていて……魔物の居場所が分かればいいなぁーと思ったら分かるようになった」
「「はぁぁ!?」」
「お前の魔法は何でもありなのか?」
「……そうみたい」
「「………………」」
二人は言葉を失ったまま、地図と私を交互に見比べている。
「道幅は意外と狭くて、大人5~6人が横に並んだぐらいしかないの」
「……馬車一台が通れる程度ってとこか?」
「まぁ、魔物の居場所が分かることは有難いではある……な」
「だが、過信はするなよ。位置が分かったとしても、魔物の強さや種類までは分からないみたいだしな」
クロが忠告した直後。
地図に表示された赤い点のひとつが、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「ねぇ…魔物? こちらに向かって来ている赤い点があるんだけれど…」
「確かに、気配は感じる。結構強そうな感じじゃねぇか」
ルド犬が耳をぴくぴくしながら赤い点が示す方角へ視線を向けた。
「どんな魔物か確認してみるか。ついでに、この安全地帯とやらが本当に安全性なのかも確かめたい」
「まぁ…俺らが倒せそうなレベルではありそうだしな!」
その言葉に少しだけ安心する。
とはいえ、異世界で初めて見る魔物だ。
少し楽しみな気持ちもあるけれど、それ以上に緊張の方が勝っている。
私はいつでも魔法を使えるよう身構え、魔物が姿を現すのを待った。
バキッ! バキバキバキッ!!
木々をなぎ倒すような轟音が森中に響き渡る。
「来るぞ!!」
クロの声と同時に、心臓が大きく跳ねた。
全身に力が入り、自然と息を止める。
私はいつでも魔法を放てるよう身構え、その姿が現れる瞬間を待った。
木々を揺らしながら姿を現したのは、高さ四、五メートルはあろうかという巨大な――木。
……いや、木だよね!?
太い幹には節くれ立った腕のような枝が伸び、根がまるで足のように地面を踏みしめながらゆっくりと歩いている。
「トレントか! こいつは仲間を呼ぶ性質がある。一気に叩くぞ!!」
「陽動は俺に任せろ!」
ルド犬は地面を蹴り、巨大な木の魔物へ一直線に駆け出した。
その姿を追いながら、私は目の前の魔物を見据える。
大きな木の魔物……。
一気に倒すとしたら、これかな?
私は片手を静かに掲げ、トレントへ向ける。
「――乾燥!!」
魔法が発動した瞬間、淡い光がトレントを包み込む。
みるみるうちに幹から水分が奪われ、瑞々しかった樹皮はひび割れ、枝葉は音を立ててしおれていく――。
そして、動かなくなった。
「「「・・・・・・」」」
森に、妙な静寂が訪れる。
クロもルド犬も、目を丸くしたまま固まっている。
目の前にあるのは、干からびた大木。
……元トレント?
「……あれ?」
私はトレントと二人を交互に見比べる。
「戦闘……終了?」
沈黙だけが返ってきた。
どうやら、本当に終わってしまったらしい。
思ってた戦闘とは…… なんか違う……
干からびた元トレントを目の前にして、
「……これ、どうしようかな……」
倒したのはいいけれど、このまま放置していいものなのだろうか。
とりあえず、いつものように鑑定してみることにした。
「鑑定!」
【トレント】
状態:最良好
品質:最高の素材
備考:内部に魔石あり(解体することで取り出せます)
「……最良好?」
干からびてカラッカラなのに、状態は最良好らしい。
「最高の素材って……薪じゃなくて?」
思わずトレントを見つめながら首を傾げる。
「トレントは高級素材なんだ」
クロは干からびたトレントを見つめたまま、静かに口を開く。
「そもそも強い魔物だから倒すだけでも一苦労だ。しかも普通は剣で斬ったり魔法で焼いたりするから、素材としての価値も落ちる」
そう言いながら、私の方へ視線を向ける。
「それを、お前は一撃で倒した上に、素材は最高品質のまま……」
クロは額に手を当て、大きくため息をついた。
「……お前、本気で規格外だな」
隣ではルド犬もうんうんと何度も頷いている。
「いや、マジでヤバい奴だぞ、お前!」
そっか…私ってヤバい奴なんだ…………
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