38 拗ねる……どうする?
少し落ち着こう。
アイスコーヒーとクッキーを準備し、ソファーで一息つくことにした。
私はコーヒーを一口飲み、息を吐く。
「はぁーー。悪いことしちゃったかなぁ……」
私の独り言だけが部屋に響く。
こんな時は、甘いもの食べて落ち着こう。クッキーを一つ取って口に放り込む。
うん。美味しい。サクッとした食感とバターたっぷりの味わい。
しばらく無言でクッキーを堪能していると――
しょんぼりと耳と尻尾を下げたルド犬が、こちらにのそのそとやってきた。
どうやら、許してもらえなかったようだ。
「………………クロが拗ねて怒っている……」
ソファーの側でぺたりと伏せて深いため息を吐いた。
しょんもりしていて……かわいい!
近寄って撫でようとするとサッとかわされる。
「やめろ。 獣化しているだけで、普通の犬じゃない」
「そうなんだけど……獣人や獣化……話ができる犬がいたら……ねぇ…?」
伸ばした手を引っ込めながら呟く私。
嫌そうな表情をしてそっぽ向くルド。
……確かに、嫌がることをするのは良くないよねー
反省。反省。そう思いながら再びクッキーを口に放り込む。
「……俺の分は無いのか?」
さすが食いしん坊のルドである。私は苦笑いをしながら――
「ちょっと待ってて、取ってくるから」
そう言ってルドのクッキーを取りにキッチンへ向かった。
ごめんなさいの気持ちを込めて、クッキーを多めに皿にのせて――ミルクを深皿に入れる。
「これでよし。 食べて少しでも元気出してくれたらいいなー」
クッキーとミルクをトレーに乗せ、ルドの元へ持って行った――
「ルド―、おやつ持ってきたよー」
すごく残念なものを見るような目で私を見た。 なぜ?
「えっ? 何? どうしたの?」
不思議に思いながら尋ねると、私はルドの目の前に歩み寄り、床にトレーを置いた。
ルドは耳をぺたりと伏せて、尻尾が力なくぺちぺちと床を叩いている。
「これ食べて元気出してね!」
私がそう言うと、ルドは深いため息を吐いて――
「……お前……一応、俺は人だ。……今は犬だが……人なんだよぉ……」
何だか寂しそうに肩を落として話すけど、仕方ないよね?
「だって、コップ持てないでしょ? まさか……持てるの?」
「持てねぇーよ!!」
即答だった。そんなに大きな声で言わなくてもいいのに。
「……せめて、テーブルに置いてくれ……なんだか、みじめだ」
先程よりも元気が無くなってしまった。私はそっとトレーをテーブルに置き直すと、のそのそと側にやってくるルド。食欲があって良かった。
「私は気にしないから、ルドも気にせずに食べてね」
そう言って再びソファーに座ってクッキーを食べ始める私。
ルドは諦めたように深ーい深ーい溜息を吐いて――静かにクッキーを食べ始めた。
すると――突然。
「ぶっ……! わはははははぁーーーーー!!」
振り向くとそこには、白いシャツに黒のズボンを着たイケメンが片手で口元を押せえて爆笑していた。
「えっ!?」
私は目を見開いて見つめてしまった。
ルドは気にする様子もなく、無表情でクッキーを静かに食べていた。
「ははっ……! だ、駄目だ……っ! ウケる……っ!」
腹を抱えて笑い続けているイケメン…いや、クロだよね!?
ひとしきり笑い倒したクロは、ポカーンと見つめる私に気が付いたのか、話し掛けてきた。
「俺も…ぶっ……! クッキー…っ、ぷっ…。…食べていいか?」
笑いをかみ殺し、何度か吹き出しそうになりながらもクッキーを所望した。
こいつら食欲優先か? なんだか凄いな。と思うが決して言葉にはしない。
「お好きなだけどうぞー」
私の言葉を聞くなり軽い足取りで、キッチンへと歩いて行った。
どうやらクロの機嫌は直ったらしい。
「ん!? 洋服はどこから?……!まさか、テント様!!?」
確かに洋服をしっかり着ていた。しかもサイズは、バッチリ合ってたよね!
そう考えていると、クロは山盛りのクッキーを乗せた皿を片手に持ってやってきた。
「クロ、その洋服は?」
「クローゼットに普通に入っていたぞ?」
何でも無いことのように答えると、ソファーに座りクッキーを食べ始めたが……
なんと!? テント様、凄すぎなのでは!??
私が驚いていることを不思議に思ったらしく、今度はクロから尋ねてきた。
「……?お前のテントだろ? 機能……知らないのか?」
怪訝な顔で聞いてきたクロ……なんて答えよう……
このまま、本当の事を話すべきか……
今のところ、この世界については、本で学んだ事しか分かっていない…
本で学んだ事も大雑把で不安はあるが、一人でも生活していける……
だが、このままお別れも…なんとなく寂しい……
私が答えを探しながら思考を巡らせていると――
「お前が……訳ありなのは分かっている。 何かしらの事情を隠していることも……俺達は助けてもらった。だから、俺達に出来ることがあれば力になってやってもいい」
「おい! クロ!そんな勝手にーー!」
慌てて会話に入り込んだルドを気にすることなく言葉を続けた。
「ルドだってそう思うだろ? コイツのお陰で俺達は力を取り戻せたんだ。少しぐらい寄り道してもまぁ…大丈夫だろ?」
「お前なぁー はぁーー。そうなんだが。そうだけれど!相談してほしかったというか……」
苦笑いで言うクロに対して少し拗ねた様子のルド。
呆れたようにぼやくルドだったが、その口調に本気で反対している様子はない。
クロはそんなルドの反応を見て、どこか可笑しそうに肩を竦めた。
二人のやり取りを見ているうちに、私の胸の中にあった迷いが少しずつ薄れていく。
この二人なら――。
正直に話しても、受け入れてくれる気がした。
何かあれば魔法があるし、どうにかなるはずだ。
私は小さく息を吸い込み、覚悟を決める。
そして――本当の事情を二人に話すことにした。
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