21 私の設定 獣人さんの設定!?
「……本当に知らないのか?」
クロの言葉に私は首をかしげる。今こそ先程考えた完璧設定を披露する時!
私はこほんっと咳払いした。
「えっと……実は、私あんまり前の事覚えてなくて」
クロの耳がぴくりと動く。
ルドもデニッシュを持ったままこちらを見た。
「気付いたらこの森にいて……家族とかも、もう居ないはずなんだけど、記憶が曖昧で……だから自分がどこから来たのかも分からないんだよね」
言いながら、自分でもちょっとしんみりした雰囲気を出してみる。
「だから、その……色々よく分からなくて」
よし! どうだ!
完全なる設定。 私記憶喪失!
私は内心どきどきしながら二人の反応を待った。
するとルドが「うわぁ……」みたいな顔をした。
「それ、かなりやばくね?」
よし! 引っかかってる! 一方クロは、じっと私を見つめたままだった。
やめて。 そんな探るみたいな目しないで。
数秒後、クロは小さく息を吐く。
「クロ?」
クロはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……記憶障害か」
おっ。 なんかそれっぽくまとめてくれた! 私は内心でガッツポーズした。
「た、多分……?」
「自覚ないのかよ」
ルドが少し呆れた顔をする。
いやだって本当に記憶ないわけじゃないし。むしろ知識がありすぎて困ってる。
クロはそんな私をじっと見つめたあと、小さくため息を吐いた。
「……まあ、何な悪い事を企んでいるような感じはしないから」
クロはそれ以上追及せずにいてくれた。
ちびっこのくせに・・・悪さはしません!ちょっぴり嘘を…嘘をついてるだけです。
私はこれ以上突っ込まれる前に、慌てて話題を変えることにした。
「そ、そうだ! 二人のことも聞いていい? 二人は兄弟?何から逃げてたの?魔物?」
その瞬間、二人の空気が少し変わった。ルドとクロはお互い視線を合わせ、何かを確認するみたいに…そして、先に口を開いたのはクロだった。
「……ルドとは幼馴染だよ」
静かな声だった。ルドは隣で小さく頷いている。
「小さい頃からずっと一緒だった」
クロはそう言ってから、少しだけ目を伏せた。
「逃げてたのは……敵……仲間だと思ってたヤツに嵌められたんだ……」
部屋の空気が、ぴたりと止まる。
私は思わず言葉を失った。 襲ったのは魔物じゃない。人間。いや違った獣人!
こんな小さな子達に、一体何があったんだろう…。
クロは静かな顔をしているけれど、どこか諦めたみたいに冷えた目をしている。
ルドもさっきまでの様子が嘘みたいに暗い表情で黙っている。
……だめだ。
これ以上踏み込むのはやめよう。余り踏み込んで聞くのは止めよう。
絶対重いやつだ。トラブル回避!これ大事!
「そ、そっか! でも今は安全だから! とりあえずご飯食べよう、ご飯!まだあるから!」
話題転換!!
するとルドの耳がぴこんっと立つ。
「……もっと食っていいのか?」
「もちろん!」
その瞬間、ルドの尻尾がぱたぱた揺れた。
分かりやすすぎる。
急いでポケットから新たにみかんとロールパンをいくつか取り出して渡す。
・・・ルドの目がきらっと輝く。
「まだ出てくるのか……」
思わず漏れた呟きに、私はぴたりと動きを止めた。
しまった!クロもじっと私のポケットを見ている。やばい。また怪しまれる流れでは?
私は慌てて笑顔を作った。
「べ、便利なんだよ! このポケット!」
「……便利ってレベルじゃないだろ」
ルドは真顔だった。
その隣で、クロが小さくため息を吐く。
「……空間魔法か」
おお。 またいい感じに解釈してくれた!
私は内心で全力拍手した。
ちびっこなのに頭良すぎじゃねぇ!?
私は内心ほっとしながら、2人に食べるよう促した。
因みに、みかんはミーカンではなく普通にみかんでした。
――ゴロゴロ……。
遠くで低い雷の音が響いた。 「……雨?」と思ったその直後。
ザァァァァァァッ!!
バケツをひっくり返したみたいな大雨が一気に降り始めた。「うわっ!?」突然の豪雨に私はびくっと肩を跳ねさせる。というか、これ絶対ただの雨じゃない。台風レベルでは?
ルドも驚いた様子で「すげぇ……」と外を眺める。
クロは少し眉を顰めて…
「この森でこの雨はまずいな……」
「えっ」 まずいの? ぴちゃん。頭の上に冷たい水滴が落ちた。
私はゆっくり天井を見上げる。……あっ。ぽた。ぽたぽた。 岩肌から水滴が・・・
やばい!
そう思った次の瞬間。 ゴォォォッ!!突風と一緒に豪雨が吹き込み、入口から一気に水が流れ込んできた。
「ちょっ、待って待って!? え、そんな一気に!?」
私は慌てて立ち上がる。
ルドも「うわっ!?」と声を上げ、クロは素早く周囲を確認する「奥へ!」クロの声に、私たちは急いで窪みの奥へ移動する。
だが雨風はどんどん強くなっていく。冷たい風がびゅうびゅう吹き込み、床もじわじわ濡れてきていた。
どうする。 どうする私。このままじゃ普通に風邪引く!私は焦りながら必死に頭を回転させる。マイハウスはチート過ぎて出せないし…
……あ。あるじゃん!インベントリに冒険者セットで確かテントがあったはず!
ちゃんと確認はしていないが子供も小さいし3人くらいなら入れるはず!
頭の中でインベントリを確認する―――
<テント>(拡張機能搭載) ……ん? 拡張機能?
ちょっと気になったけど、今はそれどころじゃない。
私は急いでポケットへ手を突っ込み、そこから取り出すようにしてインベントリからテントを出した。
ぽんっ、と急に現れた一人用三角テントに、ルドが目を丸くする。
「テント…出てきた……」
クロも目を真ん丸にして驚いた顔をしていた。
私はそんな視線を気にしてる余裕もなく、慌てて入口を開いて…
「2人とも急いでテントに入って!」
外はもう暴風雨だ。冷たい風と雨が容赦なく吹き込んできている。
ルドは「お、おう!」と返事をして、先にテントへ飛び込んだ。
クロも少し警戒した様子を見せたが、すぐに続く。
私も急いで中へ滑り込んだ瞬間――
どんっ!「「わっ!?」」目の前の2人の背中に勢いよくぶつかり、そのまま尻もちをついた。
どうやらルドとクロは、テントへ入った瞬間その場で固まっていたらしい。
私は痛むお尻を押さえながら顔を上げる。
「いったぁ……。2人とも大丈夫?……」
だが二人はそれどころではないようだった。
「……ぅえ?」
思わず間抜けな声が漏れる。
中は――広かった。 いや、広いどころじゃない。
ぽっかーん――とした顔でテントの中を見て固まっているルドとクロ。
無理もない…外から見たらどう見ても一人用の小さな三角テントだったのに……
そこに広がっていたのは・・・もはや“テント”ではなかった。
入り口は普通に玄関。靴脱ぎ場もあって…奥にはカウンターキッチンに落ち着いた色合いのダイニングテーブルと椅子。
リビングにはフカフカのラグ付き!大き目のソファーにカラフルクッションが並び……更には人をダメにするク○シ○ンまである・・・
「はぁぁぁぁぁぁーーー!!!」
思わず叫んだ。完全に家である。
ルドとクロは呆然と立ち尽くし、言葉を失っていた。私は奇声を上げた。
外では嵐みたいな豪雨が続いているのに、中は暖かくて静かだった。(私以外……)
テントも非常識なチートでした!
神様ありがとよ!!
非常識な能力隠すんじゃなかったのか私!!
これからどうするのよーーーーーーー!
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