20 続続 警戒心を解いてもらおう!
ぐぅぅぅぅ……。
追い討ちみたいに、二度目のお腹の音が響く。今度はさっきより大きかった。
ルドがとうとう吹き出した。
「ははっ……クロ、お前……!」
「笑うな」
「いや無理だろ、それは」
私はそのやり取りを見ながら、とうとう堪えきれずに肩を震わせた。
「っ、ご、ごめん……」
「……笑うな」
クロがじとりとこちらを睨む。が、
その目は鋭いのに顔は真っ赤!耳はぴんと逆立ってるし、尻尾に至っては、ぶわっと大きく膨らんでいる。
睨んでいるのに全く怖くない。むしろ可愛い。
本人は必死に平静を装っているのに、耳と尻尾が全部暴露している。
そのアンバランスさがあまりにも愛らしくて、私は危うく吹き出しそうになった。
だめだ。ここで笑ったら絶対怒られる。
私は必死に口元を引き締めながら、「ご、ごめん」と咳払いする。
するとクロはますます胡散臭そうな顔になるが、隣ではルドがとうとう耐えきれなくなったのか、肩を震わせながら笑っていた。
「ルド、お前も後で覚えてろ」
低い声で脅すように言うが、真っ赤な顔と可愛い尻尾と耳なので全然迫力がない。
……だめだ。
本当に可愛い。
このままでは拗ねてしまいそうなので気を取り直して…
「私の名前は奈々って言うの。出会ったのも何かの縁だし…よろしくね」そう言って笑うと、クロは少しだけ目を丸くした。
しばらくして、クロが小さく口を開く。
「……クロ」
「え?」
「俺の名前」隣に目線を移し「こっちはルド」
ぶっきらぼうだったけれど、さっきより声は柔らかかった。
「クロとルド。よろしくね」
私は思わずふっと笑みを零す。
するとクロが少しだけ気まずそうに視線を逸らす。さっきまで張り詰めていた警戒心が他愛ないやり取りで、ほんの少しだけ解けて刺々しい雰囲気が少し和らいだ。
「私も、もう少し食べたいから…みんなで食べよう?種類はそんなにないけど、まだあるから」
私はそう言いながらポケットに手を入れる。再びデニッシュとバーナナを幾つか取り出す。
ルドの耳がぴこんっと立った。クロは無言だけど、しっかり食べ物を見ている。
……うん、分かりやすい。
――デトックスウォーターは先程出して飲んであっちに置いてたのが・・・!?
ボトルを見ると、あんれぇ!?中身が減ってないだとぉ!!
「んん゛!?」
思わず変な声が出た。
バレたらまずい?
魔法の世界だから有りでいけるか?
ワンチャン“そういう魔法”で押し通せるのでは?
私が一人で混乱していると、クロが怪しそうに目を細めた。
「……どうした?」
「い、いや!? なんでもないよ!?」
怪しさ満点の返事だった。
私は素早くボトルを両手で掴むと、中身が見えないようにぎゅっと抱え込んだ。
そして何事もなかったかのように笑顔を作って
「飲み物入れるからコップ出して。1つしかないから二人で使ってもらえる?」
この笑顔でごまかされろ!!
ルドは「?」という顔をしながらも、素直に空のコップを差し出してくれた。
一方クロは、じーっと私を見ている。
やめて。 そんな「絶対何かあっただろ」みたいな目で見ないで。
私は内心冷や汗をかきながら、平然を装ってコップへ飲み物を注いだ。
「はい、どうぞ」
ルドは素直にコップを受け取ると、ごくりと一口飲む。その隣で、クロがまだじっと私を見ている。
「……うまい クロも飲んでみろよ」ルドの呼びかけでやっと私から視線をそらせた。
よし。
乗り切った……たぶん。
「ほ、ほら! こっちもも美味しいよ!さっき私もルドも食べたからクロも食べてみて!」
クロは数秒黙っていたが、やがて小さくため息を吐く。 「……まあいい」
見逃してくれた――はずだ・・・・・・・私は心の中で全力ガッツポーズする。
そしてすぐにボトルをポケットに収納した。
「!……美味しい!!」
ルドは目を丸くしたまま、デニッシュを夢中で頬張る。
どうやら相当お腹が空いていたらしい。耳はぴこぴこ揺れているし、尻尾もぱたぱた忙しい。
……可愛い。
さっきまであんなに警戒していたのに、美味しいものを食べてる時だけ年相応になるのが、なんだか微笑ましい。私はその様子にほっこりしながら、自分もデニッシュを一口かじった。
その隣では、クロも静かにバーナナを食べている。表情はあまり変わらないけれど耳がほんの少しだけ立っていて、尻尾の先がゆらりと揺れていた。
……うん。 こっちもちゃんと可愛いよ!
二人が美味しそうに食べているのを横目に、私はこっそり今後について考える。
さっきは勢いで「迷子」ってルドに言ったけど、さすがにそれだけじゃ怪しい。…ある程度疑われない設定考えないと…私はデニッシュをもぐもぐしながら必死に設定を組み立てた。
えーと……。気が付いたらこの森に居て、ここが何処だか分からない。家族は亡くなっていて1人
だはず?・・・記憶喪失みたいな感じで知識もあやふや・・・誤魔化せるのでは?
いける。 いける気がする!
この設定完璧では!?
私は一人でこくこく頷いた。するとクロがじっとこちらを見ていた。
「……何してるんだ」
「へぇっ!?」
思わず変な声が出た。 しまった。考え事に夢中で顔に出てた!?
「な、何でもないよ! ただこれからどうしようか考えてて……」
私は慌てて笑った。
内心は冷や汗だらだらである。
小さい子供のくせにクロの視線が鋭い。
絶対ちょっと怪しまれてる。
私は誤魔化すように続けた。
「ほら、私、迷子って言ったでしょ? ここがどこなのかも分からなくて……二人ならこの森のこと分かるかなーって考えてて……」
するとルドが食べていたデニッシュを「んぐ」と飲み込み…
「……ここ、“魔獣の森”だけど、その中にある不可侵の森じゃないか?」と普通に答えた。
だがクロはじっとこちらを見て、小さく首を傾げる。
「……本当に知らないのか?」
その瞬間、変な間が空いた。
うん、初耳です。地図読んでないのが悔やまれる。
やばい。
詰んだ?いや。
今こそ先程考えた完璧設定を披露すれば大丈夫なはず!
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