19 続 警戒心を解いてもらおう!
子供はしばらく無言でコップを見つめた後、こくこくと一気に飲み干した。
……おお、飲んだ。しかも、ぴこっと耳が揺れて後ろの尻尾はふわふわ揺れている。
――絶対気に入ったよね!?
「どう?美味しいでしょ?」尋ねると、子供は少しだけ迷った後、「……甘い」ぼそりと呟いた。
本人は平然とした顔をしているけど、耳と尻尾が全然隠せてない。
分かりやすすぎる。……可愛い。その反応に、私は思わず顔を綻ばせる。
「でしょ? 果物入ってるからね」さっきまでの刺々しい空気は少しだけ和らいでいた。
子供は空になったコップを見下ろし、それから小さな声で、「……ありがと」と呟く。
お姉さん素直な子は大好きです!!!
お腹が空いた―――けれど、もう一人の子はまだ目を覚まさない。
……うん。心配。心配だけど、お腹は空く。
人間だもの。
私はちらりと子供の様子を窺う。空になったコップを握ったまま、目を覚まさない子を見ている。不安そうに耳を伏せる姿に、……ずっと心配してるんだろうな。でも、この子お腹は空いてるかな?
「……お腹、空いてない? 食べ物もあるよ?」
そう言いながら、私は再びポケットへ手を突っ込み食べやすそうなデニッシュとバナナを取り出した。
……うん。我ながら便利ポケットすぎる。
子供は一瞬ぽかんとした後、じぃっと私のポケットを見つめた。
完全に「なんで入るんだそれ」って顔である。
だが、子供の耳が、ぴんっと立って尻尾は揺れている。
……分かりやすすぎる。隠せてない。全然隠せてないよ!可愛いよ!
とりあえず2人で食べることにして、デニッシュとバナナを一つずつ子供へ渡す。
私はデニッシュを先に食べて「ほら、大丈夫だよ」と問題ないように食べると、子供は恐る恐るデニッシュを食べ始めた。「!!」ぴこんっと耳が立て尻尾もぱたぱた揺れて…お口に合ったらしい。
「凄く美味しい…こんなの初めて食べた…」子供は驚いたようにデニッシュを見つめながら、ぽつりと呟いた。「よかったらバナナも食べてみて?……食べ方わかる?」そう聞くと、子供は小さく頷いた。小さこの世界にもバナナはあるのできっと食べたことがあるのだろう。
子供は慣れた手付きで皮を剥くと、ぱくりとかじりついた。その途端、また耳がぴこんっと揺れる。
「こんなに美味しいバーナナ初めて食べた……」
……うん。バーナナ。こちらではバーナナ……地球産。しかも高級バーナナだし美味しいよね!
小腹が落ち着いたところで、私は改めて「これからどうするべきか」を考え始めた。
この子達は何者なのか。
どこから来たのか。
そもそも、ここはどこなのか。
聞きたい事は山ほどある。
……でも、どこまで聞いていいんだろう。
下手に踏み込んで、また警戒されるのも嫌だ。
そんな事を考えていた、その時。
「うーん……」
小さな呻き声が聞こえた。
「あっ、おい! しっかりしろ! 起きろ!」隣にいた子供が慌てて駆け寄る。
どうやら、倒れていた小さい子が意識を取り戻したらしい。
「うーん……ルド? 一体、なにが……」
目を覚ました小さい子は、ぼんやりした様子で周囲を見回した。
すると隣の子――ルドが勢いよく身を乗り出す。
「おい、クロ!しっかりしろ! 俺たちは逃げてる途中で川に落ちて、そのまま流されたんだ! 思い出したか?」
「か、川……?」小さい子――クロ?はまだ頭が回っていないのか、ぽかんとした顔をしている。
その様子にルドはさらに焦ったらしく、ぺちぺちと頬を軽く叩き始めた。
「寝るな! 起きろ! 戻ってこい!」
いや、戻ってこいって何。
私は思わずツッコミそうになったが、ルドが本気で心配しているのは伝わってきたので、なんとか飲み込んだ。
「んぅ……」
小さい子はぺちぺちされながらも、ようやく意識がはっきりしてきたのか、ゆっくり瞬きを繰り返した。
そして、ふと私の存在に気付く。
「……だれ?」
ぴたり。
空気が止まった。けれど先ほどまでのぼんやりした様子とは違う。
その一言だけで、空気がぴんと張り詰めた。
ルドも「あっ」みたいな顔をする。
「誰だ。 ここは何処だ。」
小さいのにクロはルドよりずっと大人びた言動をしている。
隣にいたルドも「……クロ」と小さく呟き、困惑した。
クロの視線は年齢に似合わないくらい警戒心が強く……この子、本当に色々あったんだろうな。
……そういえば、まだ名前聞いてなかった。私は名乗ったよ……ね?
というか状況が状況すぎて、完全に聞くタイミングを逃していた。
クロは眉を顰めたまま、じっと私を見つめて怪しみ、露骨に警戒する。
やばい。
せっかくルドとは少し打ち解けてきたのに、慌てた私は…
「だ、大丈夫! 怪しい者じゃないよ!?」
反射的にそう言った瞬間、この状況でそれ言う人、一番怪しくない!?と心の中で頭を抱えた。
案の定、クロはさらに警戒した。
うぅ、視線が鋭い。この子、かなり年下なのに圧が強い。
うん、なんかごめん。
肩を落として落ち込んでいると……
ルドが、はぁ……と深いため息を吐いた。
「……こいつが助けてくれた ……こいつ、変だけど悪いやつじゃない」
「「え?」」
「傷だらけの俺たちを魔法で治してくれた……」
ぶっきらぼうな説明だったけど、クロはぱちぱちと瞬きを繰り返したあと私とルドを交互に見た。
その視線にはまだ警戒が残っている。
私はなるべく刺激しないように、小さく笑みを浮かべた。
けれど次の瞬間。
ぐぅぅぅぅ……。
妙に元気なお腹の音が響いた。
クロが硬直した。
ルドが無言で視線をクロへ向ける。私は思わず視線を逸らしながら、必死に口元を押さえた。
……だめ。 今笑ったら絶対怒られる。
クロは平静を装っているけれど、耳は真っ赤だし、膨らんだ尻尾はぶわぶわしている。
感情が隠しきれてない。
数秒の沈黙。
「……クロ」ルドがぽつりと名前を呼ぶ。
「言うな!」「言うなルド!」
「いや、だって……」
「ルド!」
低い声だった。静かなのに圧がすごい。
しかし、顔が真っ赤だった。 しかも尻尾が羞恥でぶわっと膨らんでいる。
……だめだ。 怖そうなのに可愛すぎる。
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