0085 合流
──ダンジョン中層(side大翔)──
アシュモネと別れてからしばらくして。
真っ暗な横穴を進んでいたピピが急に立ち止まり、しきりに周囲のニオイを気にしだした。
「どうしたの?」
「くえっ!」
どうやらリゼラのニオイが近づいているらしい。
失せ人探しの魔法は対象までの道筋は示してくれるけど、距離までは教えてくれないからな。
こうやって教えてくれるのはありがたい。
脚の痛みはますますひどくなってきている。
熱が出てきたのか、とにかく寒くて仕方なかった。
もう少しの辛抱だ。
そう自分を奮い立たせ、途切れそうな意識を繋ぎ止め、ピピの手綱を握りしめる。
それから五分ほど進むと、まるで腫瘍のように壁から突き出た大岩が目の前に現れた。
光の糸は先へ続く通路ではなく、真っすぐに大岩を指し示している。
なんだろう。何か仕掛けがあるのか?
大岩の前で立ち止まり、ピピと一緒に首を捻っていた────次の瞬間。
「ヒロト! よかった、ピピも一緒だったのね」
大岩が砂に変わりザラザラと崩れ落ち、裏側に隠されていた横穴からリゼラが出てきた。
明かりを灯していないところを見るに、自分に暗視の魔法をかけながら失せ人探しの魔法で俺を探していたのだろう。
「よかった。やっと合流でき……た……」
「ヒロト!?」
リゼラの顔を見た瞬間、なんだかどっと疲れが出てしまい、俺はピピの背中から落鳥した。
今までずっと我慢してたけど、もう限界だ。
折れた脚だけがじくじく熱を帯びているのに身体は凍りそうなほど寒い。
「──っ! 解放骨折してるじゃない! ……傷口が化膿し始めてる。傷口から細菌が入ったんだわ。すぐ治すからしっかり!」
俺の傷を見るなり、リゼラはギュッと表情を険しくして、長杖を俺に向け魔法を使った。
完全治癒魔法の温かな光が俺の身体を包み込むと、折れて肉を突き破っていた骨が逆再生のように体内へ押し込まれ、傷が塞がり痛みが引いていく。
「……ふぅ。ありがとう。助かったよ。ホントに凄いよね、この魔法」
「ほら、薬も飲んでおきなさい。楽になるわ」
リゼラから受け取った水薬を一気に胃へ流し込むと、まだ少し熱っぽかった身体がスッと楽になった。
俺が自力で起き上がると、リゼラがホッと胸を撫で下ろす。
「ピピもここまでよく頑張ったわね。今綺麗にしてあげるから」
リゼラが手をかざすと、ピピの全身にべっとりとこびりついていた魔物の返り血が剥がれ落ちて綺麗になった。
ようやく汚れを落とせたピピは嬉しそうに目を細めて「くるるっ」と喉を鳴らす。
「他のみんなは?」
「バラバラよ。アリアとアーシュラは一度合流できたみたいだけど、またはぐれたみたい」
横穴の奥を覗き込みながら尋ねると、リゼラはゆるゆると首を横に振った。
「みんながどこにいるのか分かるのか?」
「失せ人探しと魔力探知の応用でね。ゼロスだけは魔力を遮断してるみたいで、どこにいるのか見当もつかないわ」
リゼラの言葉に相槌を打ち、俺は頭の中で今の状況をまとめていく。
さて、ここからどうするべきか。
まずは今分かっていることを整理してみよう。
俺たちについて。
・俺たちは師匠たちを元の姿に戻すため、ゼロスさんに会いに来た。
・その途中で美乃梨と再会したが、逃げられてしまった。
・現在、聖銀の刃はバラバラにはぐれてしまっている。
ゼロスさんについて。
・聖神教とアシュモネに追われている。
・アシュモネとは昔、夫婦関係だった。
・地上で美乃梨と一緒だったことから、彼が美乃梨を保護している可能性が高い。
・現在、彼がどこに息を潜めているかは分からない。
アシュモネについて。
・詳細は不明だが、何か大きな計画のためにゼロスさんを仲間に引き込もうとしている。
・聖神教に深い恨みを持っている。
・美乃梨に似ている。(娘はもっとそっくりだった)
美乃梨について。
・多頭蛇の人体実験に巻き込まれた可能性がある。
・多頭蛇に多額の懸賞金をかけられ追われている。
・俺を避けている?
聖神教について。
・ゼロスさんを追っているらしいが理由は不明。
・【黒仮面】いわく、元の世界に帰りたいなら関わらない方がいいらしい。
・俺と接触する機会を伺っている可能性がある。
多頭蛇について。
・国際的な犯罪組織。
・美乃梨を改造した疑いがある。
・逃げた美乃梨を始末しようとしている。
・多数の獣人奴隷を地下で売りさばいている?(真偽不明)
・捕えられた獣人奴隷を追って、アーシュラの両親が動いている可能性がある。
とりあえず俺が知っている現在の状況はこれくらいか。
どうやら様々な勢力がそれぞれの思惑で独自に動いているようだ。
俺たちが目指すべき目標は、美乃梨を多頭蛇の魔の手から救い出し、ゼロスさんを各勢力に渡さないこと。
そのために俺が今取るべき行動は……。
「────美乃梨を探そう。そうすればきっと全部うまくいく」
「……それは個人的な感情? それとも何か見えたの?」
「個人的な感情があるのは否定しないよ。けど、それ以上に嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感?」
「ここで美乃梨を追わなかったら、ゼロスさんとも二度と会えなくなる。……上手く言えないけど、そんな気がするんだ」
俺が感じたことをそのまま伝えるとリゼラはしばらく考え込み、やがて何かしらの結論が出たのか、顔を上げた。
「────わかった。行きましょう」
「いいのか? 自分でも割と滅茶苦茶言ってると思うのに」
「前にもその直感に助けられたもの。ヒロトの直感には理屈を超えた何かがある。どうせ今は他に手がかりも無いのだし、信じるわ」
「ありがとう」
「くえっ!」
魔物の相手はわたしに任せなさい! と、ピピが得意げに鳴く。
再びピピの鞍に跨った俺は、リゼラを鞍上に引き上げようと手を差し出す。
が、リゼラはまるで俺に触れられることを拒むようにギョッと仰け反り、胸の前で手を握り込んだまま固まってしまう。
「乗らないの?」
「の、乗るわよ」
リゼラはわざとらしく咳払いすると、何事もなかったかのように鐙に足をかけ、自力で俺の後ろに登ってくる。
が、俺の腰にしがみつくのに抵抗があるのか、もぞもぞと落ち着かない。
「なんだよ! しっかり掴まってないと落ちるぞ!」
「わ、分かってるわよ!」
それからしばらくゴソゴソと落ち着かない様子のリゼラだったが、俺の剣帯を手綱代わりにすることでどうにか妥協したみたいだった。
……あんまりそういうことされると、こっちも無視できなくなるからやめてほしい。
気を取り直して美乃梨の姿を強くイメージし、失せ人探しの魔法を使う。
励起した魔力が術式どおりに働き、俺の指先から光の糸が「つぅ」と暗闇に向かって伸びていく。
手綱を引くとピピは光の糸を辿って来た道を引き返し始めた。
「そういえば今まで聞いたこと無かったけど、ダンジョンって何なんだ? なんかそこら中から人の敵意みたなものを感じるんだけど」
道すがら、俺は気になっていたことをリゼラに尋ねてみた。
なんとなく気まずい空気を誤魔化すためでもある。
「ダンジョンには大まかに三つの種類があるわ。一つは天然の洞窟なんかが魔素の影響で異界化したパターン。これはあくまで自然物が元になっているから、罠や宝箱はないわ。代わりに一度採った天然資源が時間経過で回復するの。鉱物とかもね」
「オーランの地下洞窟とか?」
「あそこは深海の魔物がうろついてるだけの海底洞窟よ。ダンジョン化した場所は外部と時間の流れが異なっているから、一度潜れば外との時差ですぐに気付けるわ」
「なるほど。アリアの気配がズレてたのはそういうことか」
アリアが俺の呼びかけに応じなかったのは、彼女のいる時間軸と俺のいる時間軸がズレていたせいか。
聞けば、ダンジョン内でも時間の流れが速い場所と遅い場所があるらしい。
「次が人の手で作られたパターン。これは神代の遺跡だったり、古代の魔法使いの実験場だったりね。ダンジョンの語源も、元は古代の魔法使いが実験で生み出した魔物を封じた地下牢のことをそう呼んでいたのよ。今じゃ異界化した天然洞なんかも含めてそう呼ぶけどね」
「へぇー」
「人の手で作られたダンジョンの共通点は、罠や宝箱があることね。ただしこれらは一度攻略したらそれっきりよ」
「じゃあこのダンジョンも人工物なのか」
「元は、ね。ここは世界で唯一、神代の遺跡が異界化したダンジョンなのよ。時空が歪んでる影響で、一度発見されたお宝がしばらくすると別の場所でもう一度見つかったりするんですって」
「じゃあ実質お宝取り放題なのか」
「ただ、一度解除したはずの罠もしばらくすると元通りになるし、罠の種類や位置も不定期で変わるらしいから、ハイリスクハイリターンだけどね」
天然の洞窟に見えるのに人の悪意や敵意が満ちているのはそういう理由だったのか。
通路が複雑なのも、まるで外から入ってくる敵を迷わせるためにあえてそうしているみたいだ。
……ここを作った神代の人々はいったい何と戦っていたんだろう。
「もし……。もしもよ?」
なんて、俺が太古の時代に思いを馳せていると、後ろに座るリゼラが言いづらそうに口を開いた。
「ミノリが誰の助けも求めてなくて、あなたを危険に巻き込みたくないと思ってたら……どうするの?」
リゼラらしくない、歯切れの悪い言い方だった。
やっぱり俺と合流する前に美乃梨と会ったのか。
「だとしても、俺は美乃梨を助けに行くよ」
「……どうして」
「そんなの、俺がそうしたいからさ」
俺がそう答えると、剣帯を掴むリゼラの手に力が籠る。
……美乃梨のことを想うなら、リゼラの気持ちには応えられないと、今ここでキッパリ断るのが正しいのだろう。
なのに、その一言が喉から出てこない。
こんなときに限って、勇気のスキルは何も応えてくれなかった。
だから白黒はっきりさせないまま、みっともなくリゼラの好意に甘えてしまっている。
「……身勝手ね」
「人を好きになるって、そういうことだろ」
傷つけたくない。なんて、そんなのただの言い訳だ。
本当は自分が傷つきたくないだけ。リゼラに見限られてしまうのが怖いだけだ。
リゼラの言う通り、どこまでも身勝手で、最低で。
────こんな最低野郎、いっそ嫌いになってくれた方がずっと楽だったのに。
「…………そうかもね」
どこか痛みを堪えるようなリゼラの呟きは、聞こえなかったことにした。
◇
──ダンジョン下層(side美乃梨)──
大人一人がやっと通り抜けられる程度の狭い通路を抜けると、広大な地下空間に出た。
辺りは蛍光キノコの光で薄ぼんやりと照らし出され意外にも明るく、天井からポツポツと突き出た魔光石の輝きが星のように煌めいている。
まるでプラネタリウムのようだと感心しつつ竜怪人が歩みを進めると、足のつま先が弾いた小石が急斜面を転がり落ちていく。
見れば先の地面が大きく抉れ、すり鉢状の斜面になっていた。
すり鉢の底には、最下層へ通じていると思しき通路がぽっかりと口を開いている。
「……っ」
普通なら足を踏み出すことを躊躇うほどの急斜面。
おそらく罠も仕掛けられているだろう。ここに来るまでの道のりを思い出し、美乃梨が僅かに息を飲む。
リゼラを傷つけまいと逃げ出してから、どれほどの時が経っただろうか。
一時間か、はたまた一ヶ月か。
時間の感覚が曖昧だったが、目指すべき場所だけはハッキリと感じていた。
(……大丈夫。気配の下には近づいてる)
骨の表面を目の荒いヤスリで撫でられたような不快な気配。
方向音痴の美乃梨がここまで迷わずに来れたのも、魔人特有の超感覚に引っかかったこの気配を頼りに進んできたからだ。
それの正体が何であるかはまだ判然としない。
だが気配が近づくほど、美乃梨の中にあった予感は確信へと変わりつつあった。
(この気配は、倒すべき敵に繋がってる)
それは非道な改造手術を経て魔人へ至り、それでも人を愛する心を失わなかった自分に課された、戦いの宿命だ。
愛する人のために。
なにより、これ以上自分と同じ苦しみを背負う人を生み出さないためにも、決してこの闇から目を背けてはならない。
この気配の元を消し去らぬ限り、望む平穏は永遠に訪れないのだから────。
(……大丈夫。ヒロ君のためなら、頑張れる)
正直、怖くて怖くてたまらない。
逃げられるものなら、今すぐにでも背を向けて逃げてしまいたかった。
だが、それでも。
愛する幼馴染と添い遂げる未来を掴むため、美乃梨は恐怖を押し殺し、深淵へと足を踏み出した。
すり鉢の底まで一気に滑り降りると、彼女の行く手を阻むように死神の大鎌を携えた黒衣の男が立ちはだかる。
「ヒヒッ。まさか自分から殺されに戻ってくるとはな」
フードを目深に被っており顔は判然としないが、袖口から僅かに顔を覗かせる禍々しい蛇のタトゥーが男の素性を静かに物語っていた。
美乃梨が周囲に意識を向ければ、すり鉢の底で対峙する自分たちを見下ろすように、ぐるりと展開した無数の気配が感じられる。
どうやら、地の利は向こうにあるらしい。
「……どいてください」
「へぇ、変身しても会話できるだけの知性が残ってるのか」
男が大鎌を大きく後ろに引き、刃を自分の身体で隠すようにして構える。
「テメェに恨みは無ぇが、悪く思うなよ」
言葉の通じる相手ではない。
それを悟った竜怪人は、拳を強く握りしめ、空手の構えを取った。
まるで巨大な竜に睨まれているかのような威圧感に、黒衣の男が僅かに息を飲む。
緊張の糸がヒリヒリと張り詰めていく。
すり鉢の斜面を小石がカラコロと音を立て転がり落ち────小石が底に到達するよりも早く、男が動いた。
「その首貰った!」
爆発的な脚力で男が一気に踏み込んでくる。
それと同時、すり鉢の縁から竜怪人を狙っていた無数の銃口が一斉に火を噴いた。
系統外スキル【矢避けの加護】を持つ黒衣の男に、飛び道具の類は当たらない。
そんな男を囮として使い、周囲に控えた仲間たちの十字砲火で敵だけを仕留める。
多頭蛇お抱えの暗殺部隊『毒牙』の必殺戦術だ。
鉛玉の嵐の中を真っ直ぐに突っ切った男は、一瞬で竜怪人の懐まで潜り込むや死神の大鎌を逆袈裟に振り抜いた。
「っ!?」
────が、男が斬り裂いたのは残像。
慌てて気配を探り、黒衣の男が背後を振り向こうとした瞬間、凄まじい振動が男の全身を激しく揺さぶった。
振動の正体は音。
特殊な波長の音波に脳を揺さぶられた男は、成す術もなく意識を刈り取られ、膝から崩れ落ちる。
続けざまに八方へ向け指向性の音波攻撃が放たれる。
すり鉢の淵にいた男たちも次々と意識を手放し、数秒と経たず辺りに静寂が訪れた。
「ガーッハッハッハァ! ワシ参上!!!! 覚悟しろ悪党どもめ! ……んあ? なんじゃい。もう終わっておるではないか」
と、そこへ。
ガシャガシャと多脚の駆動音を響かせ、巨大な影がズシンと飛び込んでくる。
「ゼロスさん! 無事だったんですね!」
「うむ、この通りピンピンしとるわい」
喧しくも登場したゼロスは、まるで巨大な蜘蛛と一体化したような姿だった。
八本脚の乗り物からゼロスの上半身が生えたような見た目で、ゼロス自身も機械式の鎧で武装している。
「その恰好は……?」
「よくぞ聞いてくれた! これぞワシが開発した最強の陸戦用強化外骨格【アラクネ】じゃ! 壁や天井を高速で走り回り、複数の魔導を同時併用することであらゆる障害を粉砕する! どうじゃ凄かろう!?」
『走ッテルノハ、私デスケドネ。ドレダケ装備ガ優秀デモ、中身ハ足腰ノ弱ッタ老イボレデスカラ』
「やかましいぞ!」
強化外骨格とやらの凄さはイマイチ理解できなかったが、見知った顔と再会したことで美乃梨は安堵の息を漏らす。
「ところでお前さんも姿が微妙に変わっておるな」
「なんか戦ってたら急にこうなって。コオロギ怪人の能力も使えるようになりました」
「え、何それ知らん。怖……」
「えぇーっ!?」
開発者とは思えぬ無責任な発言に美乃梨が恐れおののくと、ゼロスはケタケタと笑った。
「冗談じゃ。取り込んだ魔石がお前さんの力として最適化されたのじゃろう。心身に影響は無いか?」
「痛みとかは特に」
美乃梨はあえて、精神的な不調については話さなかった。
こうしている今も竜の声は大きくなる一方で、気を抜けば身体を乗っ取られそうだなどと言えば、ゼロスは如何なる手段を使ってでも自分を戦いから遠ざけようとするに違いない。
本来なら戦いは大人に任せるべきなのだろうとは美乃梨自身も分かってはいる。
しかしそれでも、怒りを向けるべき敵がいるからこそ、破壊衝動の手綱を辛うじて握れているのもまた事実だった。
もしもこの戦いに決着を付けないまま退いてしまえば、行き場を失った怒りは暴走し、目に付くすべてを破壊する怪物になってしまう。
こんな身体にされた瞬間から、退路など存在しないのだ。
「それより、よく私の居場所が分かりましたね」
「人探しの方法なんぞいくらでもあるわい。……この先へ向かうつもりか?」
ゼロスの問いに美乃梨は首肯で返す。
黒竜の仮面に覆われているため表情こそ見えなかったが、力強い頷きから美乃梨の覚悟が伺えた。
「……多分、魔石を生み出す卵みたいな装置がどこかにあるはずなんです。私たちの中に埋め込まれている魔石は、全部それで作り出されたものなんです」
「それがこの先にあると?」
「はい。夢で見た光景だから、本当にあるのかは分からないけど」
そう言いつつも、美乃梨はすでにその装置の存在を確信しているようだった。
「魔石の製造過程で予期せぬ情報が入力され、それが夢となって現れたのか……?」
などとゼロスがぶつくさ言っている間にも、サブアームに搭載されたライフル型の照準器が二人の近くに転がっていた黒衣の男に狙いを定める。
刹那、照準器の先端から発射された光線は狙い違わず黒衣の男に直撃。その全身を白い光が包み込む。
「何したんですか!?」
「なに、記憶を消しただけじゃ。気絶している相手限定じゃが、この照準器から発せられる光を浴びせれば、どんな極悪人も次に目覚めたときにはまっさらのパーじゃ。技能系スキルはすべて失われ、自分のケツの拭き方さえ分からなくなる」
「パーって……」
「記憶が無ければ敵になりようもあるまい?」
そうは言うが、それでは殺したのと大して変わらないではないか。
憮然と黙り込む美乃梨に構わず、ゼロスはすり鉢の縁で気絶していた男たちにも記憶消去光線を浴びせた。
「彼奴らが人生を新たにやり直そうと、どこぞで惨めに野垂れ死のうと、すべてワシの責任じゃ。お前さんが気に病むことではない」
「……はい」
爪鉄はすでに引かれた。もう後には戻れない。
それぞれの想いを胸に秘め、二人は昏い闇の底へと足を踏み入れた。




