0073-c 思春期を殺した勇者の足跡
──勇者マサヨシの手記 五冊目──
神歴一二七八年 九月九日
炎の大地 ロブウェルにて。
一ヵ月ぶりに日記帳が手に入ったので、ここに記録を残す。
もともと日記なんて書いてなかったのに、今じゃ何か書き残さないと落ち着かなくなってしまった。
ロブウェルはまだ経済が回っていた。
お金が使える。そんな当たり前に感動してしまった。
魔帝国があちこちに核兵器を投下したせいで、今じゃ無政府状態の場所も多い。
物々交換に応じてくれるだけの理性を残した人も、日に日に少なくなってきている。
晴喜は無事だろうか。それだけが心残りだ。
もうこの世界に来て半年になる。こんな戦争、早く終わらせて帰らねば。
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神歴一二七八年 九月一八日
炎の大地 ロブウェル近郊の湿地にて。
今日、また魔帝国の将軍を討ち取った。
全身をミスリルの鎧で固めた魔法の効かない相手だったけど、新たに仲間になったハルトのおかげで難なく倒すことができた。
まさか鎧ごと光の矢で蒸発させてしまうとは思わなかったけど。
数万年生きたという話もアレを見た後だと、俄然、真実味を帯びてくる。
やはり彼を仲間に引き入れたことは正解だったようだ。
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神歴一二七八年 九月二九日
雷鳴の大地へ向かう洋上にて。
ゼロスが吐いた。
船酔いの薬の材料が手に入らなかったらしい。
各国の冒険者ギルドを提携させて一つの組織として運用を始めたことで、欲しい物が必要な場所へ届く仕組みは作れた。
だが、そもそもの物資不足は如何ともしがたい。
まさか核を通常兵器のように使ってくるなんて、誰が想像できる?
やつらは狂ってる。
こんな戦い、早く終わらせて帰りたいのに。
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神歴一二七八年 一〇月七日
雷鳴の大地 ウルガルドの港にて。
港が壊滅した。魔帝国の核攻撃だ。
一瞬だった。上陸した瞬間を超高空からやられた。
幸い、ディルレアのおかげで仲間に犠牲者は出なかったが、遠目にも美しかった港町は跡形も無く破壊された。
生き残った住人は誰もいなかった。
奴らの狙いは僕だった。僕のせいで数万人が灰になった。
特に涙は出なかった。どうやらそんな機能はとっくの昔に壊れてしまったらしい。
こんな状態で日本に戻って、僕は元通り日常をやり直せるだろうか。
多分、無理だろう。
それでも帰らねば。晴喜の味方は僕しかいないのだから。逃げるな。
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神歴一二七八年 一〇月一〇日
雷鳴の大地 オウグァの町にて。
最後の六魔将と会敵した。
全身をサイボーグ化したオークで、ゼロスとディルレアが深手を負わされた。
ハルトが弱体化したタイミングと重なったのも悪かった。
一万年に一度の精霊の加護が弱まる日にあんな強敵と遭遇するなんて。
まさかと思って仲間たちのステータスを鑑定してみて、納得した。
全員「うんのよさ」が底をついていた。
パーティーの生命線だった二人は生死の境を彷徨っている。
もうダメかもしれない。
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神歴一二七八年 一〇月十一日
雷鳴の大地 オウグァの町にて。
また、放浪の魔王に助けられた。
突然ふらりと現れて、二人の傷を一瞬で治してしまったのだ。
やはり彼だけは他の魔族と明らかに違う。
彼なら、元の世界に帰る方法を知っているのでは────
────ページが大きく破り捨てられている。
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神歴一二七八年 一〇月十五日
雷鳴の大地 オウグァの町にて。
最後の六魔将を殺した。
次に進もう。日本に帰るために。
取り戻すんだ。すべてを。
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神歴一二七八年 一〇月二二日
春風の大地 ブロサスの町にて。
久しぶりに聖法国のルグェルから手紙が届いた。
どうやら最後の六魔将を倒したことを世界に向けて大々的に宣伝するつもりのようだ。
聖神教はまだまだ新興のマイナー宗教でしかない。
何かの拍子に途絶えてしまったらシナリオの規模が大きくなりすぎる。
明日、街頭で演説でもしておこう。
最大の障害を自分で育てなきゃいけないなんて、酷い矛盾だ。
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神歴一二七八年 十一月十一日
鉄砂の大地にて。
魔帝国の警戒網を掻い潜り、とうとうここまで来た。
見渡す限り砂ばかりだ。
奴らはこんな場所でどうやってあれだけの兵力を育てたのだろうか。
この戦いに人類が勝てば、魔族の残党は徹底的に狩りつくされるだろう。
そうなればエルフは滅びの道を辿ることになる。
それでもやらないわけにはいかない。
僕が逃げたら、人類の歴史はここで終わってしまう。
そうなれば僕が元の世界へ帰る道は完全に閉ざされる。
増やしすぎてもダメ、殺し過ぎてもダメ。まったく回りくどい。
……首輪さえ無ければ、すぐにでも殺してやるものを。
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神歴一二七八年 十一月二〇日
鉄砂の大地にて。
魔王ドラジスを倒した。
本当に、ギリギリの戦いだった。
仲間たちは全員が満身創痍。
あのハルトでさえ、そうなのだ。僕らが全員生きていることは奇跡に近いだろう。
それでも、生き残った。
これでようやくスタートライン。
ここからの旅路を思うと気が遠くなりそうだが、必ずやり遂げてみせる。
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神歴一二九九年 二月五日
厳冬の大地にて。
ついに見つけた。
神代の宇宙地図。ここから先は虱潰しだ。
六〇〇年後までに完遂しなければ。
時間が惜しい。すぐに発とう。
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神歴一六九八年 七月二日
雷鳴の大地 エンブーサの町にて。
町に着くなり数百年ぶりに笑ってしまった。
まさか子宝祈願の聖地になってるとは……(笑)
人らしい機能なんてとっくに壊れたと思っていたのに。
僕はまだ、昔を懐かしんで笑える。そのことに少しホッとした。
今日、四〇〇年ぶりにハルトと会う。
彼なら僕の筆跡を覚えているだろうとは思ったけど、念のため集合場所は例の宿を指定しておいた。
あんな珍事件、忘れようもないし、僕だと気づいて来てくれるだろう。
一世一代の大仕掛けだ。
彼を説得できるかどうかで、未来は変わる。
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神歴一八九八年 七月二日
予定通り、エルデンバーグ王国で英雄召喚の儀が行われた。
召喚された鈴木君は剣聖に保護されたようだ。
ここまで本当に長かった。
だけど、ここからが本番だ。
僕からすれば最終章。
彼にとっては二次創作。
鈴木君にしてみれば、勇者になるまでの成長譚。
タイトルは……『平凡勇者は挫けない』ってところかな。




