0068 覚醒(sideアリア)
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天井も、床も、壁もない、無限の広がりを見せる闇の只中を、アリアはぷかぷかと浮かんでいた。
ぼんやりしたまま周囲を見渡すと、空間そのものが絶えず溶けては混ざり、変色していく様子が目に映る。
まるでどぶ川の表面に張った油膜のような色合いに、アリアは心の表面がざわつくのを感じた。
(────これは……)
ふと、どこかから漂ってきた鏡の破片に目が留まる。
覗き込んでみると、そこには懐かしい光景が移り込んでいた。
まるで思い出の重力に引き寄せられるように、アリアが鏡の破片へ手を伸ばす。
彼女の指先が鏡の破片に触れた瞬間、混沌としていた世界は形を変え、色鮮やかな記憶が再生された。
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王城の庭園を幼い少女が歩いている。
少女のすぐ後ろには護衛の青年騎士がぴったりと付き添い、お転婆な姫が何をしてもすぐ対応できるよう目を光らせていた。
これは確か、五歳のときの記憶。
それをアリアは少し離れた場所から眺めていた。
自分の過去を俯瞰で見るというのも奇妙な話だが、それもすべてはアリアの魂がより高次元の存在へ進化しつつある証だった。
『見てカイル! 芽が出てますわ!』
『毎日お世話したかいがありましたね』
『決めました! この子の名前はちゅぼミーちゃんですわ!』
『流石姫さま、名付けのセンスが独特でいらっしゃる』
呼び起こされた懐かしい記憶に、アリアはくすりと苦笑する。
あれは確か、カイルが城下の露店で買ってきてくれた種だったはずだ。
彼が自分に何かをプレゼントしてくれたのはこれが初めてのことで、庭に埋めて毎日欠かさず水をやり、世話をしたのを覚えている。
それまで何かを育てたことなど無かったため、楽しい思い出として強く印象に残っていた。
「でも確かあの花、魔物だったんですのよね」
自分の過去を他人事のように眺めていたアリアがぽつりと呟くと、時間が早送りのように進んでいく。
芽吹いたばかりだった小さな双葉は、あっという間に見上げるほど立派な花を咲かせた。
花弁だけでも大人一人分ほどもあり、緑の触手をうねらせて奇声を上げる様は、どう見ても観葉植物の範疇を超えている。
『まぁ、ちゅぼミーちゃん! 一晩で随分とでっかくなりましたわね!』
『ちゅミミミミィィィィ!!!!』
『畜生! 妙に安い種だと思えば魔物の種じゃねぇか! あのすっとこどっこいの露天商め! また見かけたら牢屋にぶち込んでやる!』
『きゃはは! すっとこどっこい!』
『いっけね。……ごほんっ! 姫さま、今のは真似してはダメです。王族たるもの、それに相応しい言葉遣いをなされないと』
『ねぇカイル、ちゅぼミーちゃんが遊んでほしそうにしてますわ!』
『ちゅミミーッ!!!!』
『ちょっ!? なにしやがんだこの花野郎! 放せっ! 放せってんだよこの!』
『わたくしお空を飛んでますわー! きゃははは!』
触手に絡め取られ、まるで人形のように持ち上げられた二人は、ワイヤーアクションさながらに庭園の空を右へ左へ行ったり来たり。
このときのことは楽しかったとしか覚えていなかったが、こうして傍から見ていると我が事ながらヒヤヒヤさせられた。
『ええい放せってんだ、おんどりゃーっ!!!!』
カイルの太刀筋が銀の軌跡を幾重にも結ぶ。
一瞬にして触手はバラバラに切り裂かれ、アリアの小さな身体が空高く放り出される。
スライディングでアリアの真下へ滑り込んだカイルは、間一髪、幼い主を横抱きでふわりと受け止めた。
『姫様! お怪我は!?』
『ねぇカイル! 今のもう一回やってくださいまし!』
『俺の胃に穴を開けたいんですか!!!?』
『カイルは頑丈ですもの。これくらいじゃ穴なんて開きませんわよ』
『ダメったらダメです!』
結局、無茶なお願いは聞き入れてもらえず、アリアが拗ねたように「ぶぅー!」と唇を尖らせる。
するとカイルは膝をついてアリアと目線の高さを合わせると、幼い主の頭にポンと手を乗せた。
こんな時、いつもカイルは何も言わず頭を撫でてくれた。
これで勘弁してくれとでも言いたげな、どこか困ったような笑み。
(……わたくしにだけ見せてくれた、あの表情が好きだった)
カイルの心がここにないと気づいたのは、いつの事であっただろうか。
視線は間違いなく自分を見てくれている。だが、心だけがこの場に無い。
自分を通じてどこか遠くを眺めている。
だが、こうして我儘を言って困らせている間だけ、カイルは確かにアリアだけを見ていた。
(あの頃は、それだけで十分だった……)
────あの一件で触手を剪定されたちゅぼミーちゃんは、それ以降すっかり大人しくなった。
誰が近づいても奇声を上げることもしなくなり、触手が生え変わっても人を襲うようなこともしなくなった。
当然、討伐してしまうべきだという声は各所から上がった。
しかしちゅぼミーちゃんの花の蜜がアリアの病気の進行を遅らせる効果があると分かるや、状況は一変。
そのまま庭園で世話をすることになり、その後一年にわたってアリアの良き友になってくれた。
『すっかりしおしおですわね、ちゅぼミーちゃん……』
『ちゅミミ……』
『植物も命ですからね。咲けばいつかは枯れるものです』
だが魔物といえどやはり植物。永遠に咲き続ける花など存在しない。
王命により国中の植物学者たちが集められ、八方手を尽くして延命が図られたが、ほどなくしてちゅぼミーちゃんはその生を終えた。
庭園の一角にはちゅぼミーちゃんのために立派な墓が建てられた。
魔物のために墓を建てられるなど王国史を紐解いても初のことであったが、後に彼女が植わっていた場所から見つかった深紅の魔石はペンダントに加工され、アリアへと献上されることとなる。
『────わたくしも、いつかこんなふうに死ぬのかしら』
ちゅぼミーちゃんの墓を見下ろし、幼いアリアがなんとなしに呟く。
彼女は世界の広さを知ることもなく、この庭園で芽吹き、花を咲かせてその一生を終えた。
その生き様を、病気のせいで城から出ることさえ叶わない自分と重ねずにはいられなかった。
『……もう二度と失ってたまるかよ』
『カイル?』
唸るような、どこか決意さえ秘めた呟きが、僅かに漏れ出る。
幼いアリアが振り返ると、カイルはすぐに笑顔の仮面で取り繕った。
『ちゅぼミーちゃんと違って、姫さまには足があるじゃないですか。ご病気さえ治ってしまえばどこへだって行けますよ』
『なら、もしもわたくしの病気が治ったら、カイルも一緒に来てくれますか?』
『もちろんどこへでもお供しますよ。俺の剣は姫さまに捧げたんですから』
いつものように、カイルが片膝をついてアリアの頭にポンと手を乗せる。
『むぅ! 子ども扱いしないでくださいまし!』
『はははっ、病気を治して大人のレディになったら考えてあげますよ』
『ふんだ! わたくしが大きくなって殿方からモテモテになっても知りませんから!』
子ども扱いされて拗ねた幼いアリアが「あっかんべー」と舌を出して走り去っていく。
子供らしさしかない行動に苦笑しつつ、カイルは幼い姫のご機嫌を取るために彼女の後を追った────。
その様子を少し離れたところから眺めていたアリアは、僅かな胸の痛みに唇を噛み締める。
(……やっぱり、カイルは妹のことを)
いつだったか、カイルは世間話のついでに自分の過去について語ってくれたことがあった。
いわく、カイルには病弱な妹がおり、子どものころは随分と苦労をしたらしい。
だがカイルはそのとき、苦労の甲斐もあって妹の病気は治ったと、だから姫様も諦めなければきっと治ると、そう話を締めくくった。
それが同じ病気を患っているアリアを気遣った嘘だったと知ったのは、カイルが死んだあとのことだった。
カイルの妹が遺品を取りに来ると思い、彼の遺品を手元に残しておいたのだが、いつまで経ってもその妹が現れないのである。
とうとう痺れを切らしたアリアが側付きのメイドに調べさせると、カイルの妹は何年も前にすでに死んでおり、さらには彼の妹が偶然にも自分と同じ名前だったことが分かった。
思い出の世界に亀裂が走り、鏡のように砕けて割れる。
飛び散った破片の中に映り込むのは、カイルと過ごした日々の記憶。
リゼラと一緒にこっそり城を抜け出したアリアを、カイルが必死の形相で追いかけている。
何度か繰り返す内にカイルもこちらの行動パターンを読んで先回りするようになり、最後は決まって二人そろって説教された。
眠れない夜はいつもカイルに冒険者時代の話をせがんだ。
冒険者カイル・ギアハートの体験談は、どんな物語よりも生々しく、だからこそ心躍った。
アリアの私室を飾っていた小物の数々も、すべてカイルがどこからか仕入れてきたものだった。
遠い異国の民間伝承にまつわる品や、ハンドメイドの工芸品、果ては魔物の角まで。
どれもが病に効くとされる品ばかりであり、部屋を飾る小物が一つ増える度、カイルの愛を感じて嬉しくなった。
それら一つ一つを目で追っていく内、アリアは最も忘れがたい記憶を見つける。
釘の打たれた木製の棺がガルダ車に乗せられ、墓地へと運ばれていく。
カイルが死んでしまったのは、ちゅぼミーちゃんの死から三年後。
建て替え工事中だった教会に酒に酔って迷い込み、積まれていた資材の崩落に巻き込まれてのことだった。
今にして思えば、不審な点の多い死だった。
そもそもカイルは元はソロで活躍していた冒険者であり、十四歳で最高ランクの金等級にまで上り詰めた天才でもある。
そんな彼が資材の崩落ごときで命を落とすだろうか?
それにカイルが酒に酔っていたというのも、彼をよく知るアリアからすれば不自然な話だ。
カイルは大の酒嫌いであり、さらに言えば下戸だった。
以前、王国騎士団の同僚が冗談のつもりでカイルの飲み物に酒を一滴混ぜたことがあったそうだが、そのときはそれだけで目を回して倒れたと聞く。
そんなカイルが事故の日の晩だけ、城下町の酒場で浴びるように酒を呷っていたらしい。
葬儀自体も、まるで最初からその日に死ぬと分かっていたかのように段取りよく進められ、アリアが口を挟む間もなく遺体は墓地へと埋葬された。
遺体の状態が酷いという理由で、彼の死に顔さえ拝ませてもらえないまま────。
やはりカイルは、何者かに殺されたのではないのか。
証拠は何一つない。
だが前後の状況を改めて見返すと、やはりそうとしか思えなかった。
だとすれば、いったい誰が……。
「……あら?」
思考の海に没していたアリアの眼前を、大きな欠片が横切っていく。
それはまったく身に覚えのない記憶だった。
まるで吸い寄せられるように、欠片へと手を伸ばすアリア。
彼女の指先が触れた瞬間、欠片は強い光を放ち、アリアの意識はここではないどこかへと旅立った。
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森の中を、二人の少年と一人の少女が笑顔で駆けまわっている。
『それっ! そこだ!』
金髪の少年が子供用の木剣を振り回し、魔法で動き回る人形相手に打ち込んでいく。
その動きは子供ながらに見事なもので、金髪の少年が剣を得意としているのが一目で分かった。
『今だハルト!』
『分かってる!』
銀髪の少年が構えた弓から矢を放つ。
矢は人形の中心に描かれた的を鋭く穿ち、弱点を撃たれた人形が地面にころりと転がった。
『兄さんすごーい!』
『やったなハルト!』
『カシウスのおかげさ』
雪のような白髪の少女が両手を上げて喜ぶと、二人の少年は嬉しそうに肩を組んで笑い合う。
それは数万年の時を経ても色褪せることのない、不老不死の英雄の根源とも言うべき記憶────。
(……やはり、そうでしたのね)
アリアの眼から、玉の雫がはらりと零れ落ちる。
託された願いに背き、守るためだと言い訳を重ね、自ら森を出たこと。
その結果、妹の子孫たちに滅びの道を選ばせてしまったことを、ハルトは強く悔いていた。
最早エルフを滅びから救う手立ては無く、されど不老不死の身体では自ら死を選ぶこともできない。
だからこそ二人の瞳が交わったあの瞬間、ハルトはアリアの放つ死の気配に惹かれたのだ。
そしてアリアに妹の面影を重ね────そんな己を恥じたからこそ、彼はあの場を立ち去った。
「それでも、わたくしは……!」
叶わぬ恋であることなど元より承知の上。
今更真実を知ったところで、好きになってしまった気持ちはどうしようもない。
もう間もなく、不老不死の英雄はその永き命の終わりを迎える。
あのとき瞳を通じて結ばれた絆が、彼が終わりへ向かっていることを知らせてくれた。
祈りを捧げるように。アリアが胸の前で両手を組み、目を閉じる。
混沌とした世界に光が溢れ出す。
覚醒めのときは近い。
◇
──月面基地 研究区画──
無数のモニターの明かりが闇を四角く切り取っている。
部屋の中央には大掛かりな台形の装置があり、その上に神秘的な輝きを放つ薄青の結晶が置かれていた。
「AMS動作開始」
「MP濃度規定値まで低下。各種計測値オールグリーン」
「魔素分解光を確認」
アリアはどこか夢見心地で、結晶の中から周囲の様子をぼんやりと眺めていた。
全身を機械に置き換えた小鬼の研究者たちがモニターの数値を睨みつつ、台形の装置を起動させる。
装置から発せられた波長を浴びた結晶は、まるで脈打つように明滅を繰り返し、その輝きを強めていく。
天井から伸びたロボットアームが結晶にゆっくりと近づき、触れる。
するとアリアを閉じ込めていた結晶は彼女と共に光の粒子へと変わり、宝箱の奥底へ吸い込まれていった。
やがてぽっかりと口を開けた宝箱だけがその場に残り、そのままロボットアームは宝箱の中へと手を伸ばす。
「魔神の右腕の再構築を確認。分離開始」
宝箱から光が溢れ出し、アームに引っぱり出される形で魔神の右腕がゆっくりと現世へ顕現────再構築されていく。
「計器に異常! MP値が急激に上昇しています!」
このまま順調に終わるかに思われた分離作業だったが、計器が異常な数値を吐き出したことで場の空気は一変した。
「まずいぞ! このままでは臨界点を超える! 出力を上げろ!」
「MP値なおも上昇! 制御不能!」
「爆発するぞ! 退避! 退避ぃぃぃぃぃ!!!!」
闇を四角く切り取っていたモニター群が赤い警告光を放つ中、ゴブリン研究者たちが我先と逃げ出していく。
直後、臨界を超えた魔力光が研究室から溢れ出し────爆発。
その威力は凄まじく、青月の地下にあった研究区画は地上部分も含めて完全に蒸発。
併設されていた五つの区画も、爆発の余波を受け使用不能状態に陥った。
すぐさま基地の維持管理機能が作動し、火災現場に急行したドローンにより消火剤が撒かれる中、爆心地にポツンと取り残されていた宝箱がガタガタと震えだす。
バキッ……!
宝箱に亀裂が走る。
箱が震えるほどに亀裂は広がり、内側から濃紺の光が溢れ出す。
消火活動に当たっていたドローンの一機が光を感知し、その様子をカメラに捉えた、次の瞬間。
宝箱が弾け飛び、世界に濃紺の光が溢れた。
やがて光は一点に収束し、黒のゴシックドレスを纏った白髪の少女へと形を変える。
星の輝きを宿したドレスは、まるで夜空をそのまま切り取って衣装に仕立て上げたようだった。
「まぁ! 素敵なドレス」
神秘的な夜空のドレスに気をよくしたアリアがくるりと一回転してスカートの裾を躍らせる。
軽く目を閉じれば、近くに大翔やリゼラたちの気配を感じ取れた。
『《────わたくしの声が聞こえますか》』
大翔の気配に波長を合わせて思念を送ると、すぐに返事が返ってきた。
『《────っ! ……そっか。『死』に寄り添う道を選んだんだね》』
『《ヒロトさまも、覚悟をお決めになられたのですね》』
『《託されたから。それに、師匠なら間違いなくこうしてた》』
『《こちらは大丈夫ですから、どうか自動報復システムの破壊を優先してくださいまし》』
『《分かった。気を付けて》』
魂同士の触れ合いに距離は関係ない。
一瞬でお互いの状況を理解した二人は、短く言葉を交わすとそれぞれの現実へと向き合う。
アリアが見上げた先には、一機の巨大円盤。
どうやら再び自分を捕らえようという腹積もりらしい。
瞳の奥に魔法陣を灯し、アリアが頭上を塞ぐ円盤へ右手を向ける。
すると彼女の右肩のあたりから小さなキューブが湧き出るように出現し、膨張と増殖を繰り返して細腕を覆ってゆく。
そのまま彼女の身長の五倍近くまで膨れ上がったキューブが弾けると、機械の巨腕が現れた。
「すぐに送ってさしあげますわ」
前腕部のボルトが白いスチームを噴きながら外れ、分厚い装甲がスライドして、より禍々しく攻撃的な容へ姿を変えていく。
変形の完了した右腕は、まさしく異形と呼ぶに相応しい形状をしていた。
露出した漆黒の内部機関に赤いエネルギーラインが血管のように走り、鋭い銀光を放つマニピュレータはさながら悪魔の鉤爪のようだ。
「────命は巡り移ろうもの」
悪魔の爪がゆっくりと握りしめられていく。
その動きに合わせるように世界がぐらぐらと歪む。
「今ひとときの安らかな死を」
アリアが右手を握りしめると同時、月の周辺宙域を激しい空間震が襲う。
宇宙の闇を銀一色で覆い尽くしていた円盤艦隊は、空間震の影響を受けて装甲が歪み、拉げ、断裂し、耐久限界を超えた機体から次々と爆発。
無数の閃光が星のように瞬き────消えた。
アリアが巨腕を真横に振り払う。
廃熱口から大量のスチームが魔物の吐息のように吐き出されると、機械の巨腕は無数の小さなキューブへと分解され、元通りの少女の細腕へと戻った。
「────っ! そこにいますの!?」
大聖堂で出会った新緑の瞳を持つエルフの少年。
その気配を感じ取り、アリアが宇宙に向かって飛び出すと、アリアとハルトの魂が触れ合い、意識が繋がった。
『《……会ったばかりの君に僕は自分の弱さを押し付けてしまった》』
『《お互い様ですわ。わたくしだって、故人の面影をあなたに見出していたのですから》』
『《最後に君と出会えて、本当によかった》』
『《……っ。宇宙はわたくしに任せて、あなたはどうかヒロトさまのところへ》』
『《ありがとう。また後で》』
『《ええ、また》』
月面へ向かって飛びこんできたハルトと、一瞬だけすれ違う。
最後の戦場へ赴く彼の表情は、そうとは思えぬほど安らかなものだった。
そうこうしている間にも、続々と基地を飛び立った円盤艦隊が再び宇宙を銀一色に埋め尽くしていく。
母なる星を背にし、滲んだ目元を拭ったアリアは、再び魔神の右腕を顕現させた。
「一人一人、きっちり送ってさしあげますわ」




