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【2章完結】平凡勇者は挫けない【6章まで毎日投稿】  作者: 梅松竹彦
第三章 世界樹編

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0065 戦う意味

 ──円盤型宇宙船 連絡通路──


 発射された最終兵器は、エルフェリア上空で爆発し────……。



 バ カ が 見 る オ ー ク の ケ ツ



 色とりどりの光と、酷い煽り文句が鮮やかに空を彩った。


「ね? 大丈夫だったでしょ」


「「はぁ……ぁ」」


 リゼラのドッキリにまんまと騙された俺は、アーシュラと二人でへなへなと腰を抜かしてしまった。

 し、心臓に悪い……。


「あの魔王、プライドの塊みたいな奴だったし、悔しがる顔が目に浮かぶわ」


 と、やった本人はこの上なく意地悪な顔でほくそ笑んでいた。

 さてはアリアを攫われたこと、かなり根に持ってたな。


「やりすぎだバカ! あんなに煽って、野郎がブチギレて残ってるやつ全部撃ち尽くしたらどうすんだよ!?」


「それはないわ」


「んなこと、どうして言い切れるんだよ」


 まだ納得いっていない様子のアーシュラが目を細めると、リゼラは指を二本立てて、さらに続けた。


「根拠は二つ。第一にヒロトをすぐに殺そうとしなかったこと。加護が付いていないとはいえ、ヒロトは英雄の卵。つまり魔王の天敵よ。普通なら真っ先に殺しに来ると思わない?」


「……まあ、そうだな」


「第二に、カウントタイマーをわざわざ私たちに見せて止めるチャンスを与えたこと。本当に撃つ気だったら、魔神の右腕を回収した段階で撃ってればそれで終わりだったでしょ?」


 言われてみれば、確かにその通りだ。

 あれだけの憎しみを抱えているドラジスが、わざわざ俺たちに発射までのカウントダウンを開示する理由がない。

 大陸を丸ごと消滅させるほどの兵器なら、先制攻撃で使ってしまえばそれで終わりだったのだから。


「多分だけど、エルフへの復讐とは別軸で、何か大きな計画があるんじゃないかしら。魔神の右腕を奪ったのもそうだし、計画のためにヒロトを殺すわけにいかなかった。そう考えれば話の辻褄は合うわ」


「お前、そこまで読んで……」


 アーシュラが感心したように目を丸くする。

 たったあれだけの情報からそこまで読んでたのか。


「それよりアリアを助けに行かないと。場所は……あっちね」


 アリアの魔力を感知したらしいリゼラに続いて艦内を進んでいくと、頑丈そうな金属製の扉の前にたどり着く。

 扉の横にはIDカードをかざす認証装置がついていて、手動で開けられそうな気配はない。


 リゼラに「任せたわよ」と背中を押され、扉の前に立った俺は剛剣アダマスを鞘から抜いた。



『だからテメェの刃は軽いんだよ!!!!』



 さっきからドラジスの一言が脳裏にこびりついて離れない。

 だめだ。やめろ。考えるな。


 耳の裏で何度も反響する声を追い出そうと頭を振り、剣を構え直す。

 余計なことは考えるな。────余計? 何がだよ。全部ホントのことだろ。


 違う違う違う! 今は目の前の扉を斬り裂くことに集中しろ!



 ────バキンッ!



 闘気も、刃筋も、そして覚悟も。

 何もかも中途半端なまま振り抜いた剣は、当然のように扉に弾かれ、半ばで真っ二つに折れた刃がくるくると宙を舞って床にストンと突き刺さる。


 しん。

 と、突き刺さるような沈黙が両肩にのしかかる。


「……おいヒロト。お前まさか」


「……っ」


「敵の言うことなんて真に受けてどうする! シャキッとしろ!」


 アーシュラに胸倉を掴まれ、俺は思わず目を逸らした。


「……無理だよ。だって俺に覚悟が足りてなかったのはホントのことだ」


 あのとき俺はハルトを痛めつけられた怒りで刃を振るおうとした。

 だけど俺の剣はドラジスには届かず、逆に奴の一言で気付かされてしまった。


「今まで敵を倒すことの意味なんて考えたこともなかった! 怖いんだよ! 殺すのも、殺されるのもっ!」


 ティリアとの戦いはとにかく必死で、そんなことを考えている余裕なんてなかった。


 オーランでの戦いも運よく手を汚さずにいられただけ。


 剣で斬れば相手は死ぬ。

 俺は今まで、そんな当たり前のことさえ考えず剣を振るっていた。


 たとえ相手がどうしようもない悪人だったとしても、敵を倒すということは、人の命を奪うということ。……人殺しの言い換えだ。


 この剣が誰かの命を奪ってしまうかもしれない。

 今はそのことがどうしようもなく────怖い。


「俺は今まで一度だって、人を殺す覚悟で戦いに挑んだことなんてなかった……。だから俺の剣はドラジスに届かなかったし、アイツの言うことを正しいと思ってしまった。だから何も言い返せなかった!」


「だからってそのままいじけてるつもりかよ!」


「俺みたいな落ちこぼれに何を期待してるんだよ!? 俺なんてどこにでもいるただの中学生だよ!? こんな戦いの場にいること自体が間違ってるんだ!」


 俺が叫び返すと、アーシュラは胸倉を掴んでいた手を乱暴に解き、もう知らんとばかり舌打ちした。


 ……そうだよ。俺なんてもともと運動も勉強もパッとしない落ちこぼれだったろ。

 そんな奴が主役を張ろうとするから無理が出るんだ。


 どうしようもなく惨めになって自分の影を睨んでいると、心底呆れたようなリゼラの溜息が聞こえてくる。

 もう嫌だ。元の世界に帰りたい……。


「ヒロト」


 呼ばれても、顔を上げられなかった。

 きっとがっかりさせたし、軽蔑しただろう。

 そうだ。俺なんて……っ。


「いいからこっち見なさい!」


「いひゃい!?」


 ぐにぃっ、と。

 リゼラが両手で俺の頬を掴み、思い切り横に引っ張った。


「さっきから聞いてればグダグダウジウジ! そういうのはやるべきことをやってからにしなさい!!!!」


 たーてたーて よーこよーこ まーる描いてちょん!


 ほっぺが千切れるんじゃないかと思うほど引っ張られたかと思えば、今度は思い切り両手で顔を挟み込まれて強制的に前を向かされた。

 むぎゅう。


「私たちはアリアを助けに来たんでしょう!? 忘れたとは言わせないわよ!」


「っ!」


 そうだった。

 もともと俺たちはそのために世界樹に挑んだんじゃないか。

 それが自分でも気づかない内に状況に流されて、優先順位がおかしくなっていた。


 言われてようやく本来の目的を思い出すと、リゼラはやれやれとため息一つ、ヒリヒリ痛む頬に治癒魔法をかけてくれた。


「急に物語の英雄みたいになんてなれないですって? とっくに一つの国を救った英雄になってるくせに馬鹿言わないで。ヒロトは自己評価が低すぎるのよ」


「だって、あれは俺だけの力じゃないし。師匠なら誰も犠牲なんて……」


 口に出しかけて、あまりの子供っぽさに恥ずかしくなった。

 何が「だって」だよ。情けない。

 思わず顔を逸らすと、リゼラはそんな俺の頭を撫でて小さく苦笑を漏らした。


「それでもよ。あなたの行動が戦況を変えたのは事実だし、それで大勢の命が救われたのも事実でしょう?」


「……ったく。やっぱまだまだガキだなお前」


 リゼラの言葉に同意するような雰囲気を醸しつつ、アーシュラが首から下げていた形見のロケットを持ち上げ、俺の鼻先にそれを突き出した。


「もしあそこにいたのが剣聖だったら、これだって今頃海の底だ。こいつを拾ってくれたこと、すげー感謝してんだぞ。だから……その……いつまでもウジウジしてんじゃねぇ!」


 アーシュラは俺の胸を拳で軽く小突くと、照れ臭くなったのか、ぷいとそっぽを向いた。

 そんなふうに思ってくれてたのか。


「アーシュラの言うとおりよ。今は空元気でもいいから前を向きなさい。ヒロトのいいところは、どんな怖くても立ち上がれる勇気があることでしょ」


「そうかな……」


「少なくとも、私はそう信じてる」


 俺を見つめ、リゼラが柔らかく微笑む。

 ────仲間が最初に信じた自分を信じろ。


 ふと、世界樹に登る前に聞いたアーシュラの言葉を思い出した。


「それに相手は伝説の魔王なのよ? そんな相手に冒険者になって一ヶ月そこらの新人が勝てるはずないじゃない」


 言われてみれば、だ。

 そういえばドラジスって、六〇〇年前に劔が戦った相手じゃないか。

 そんな伝説級のラスボス相手に、最初の町から旅立ったばかりのヒヨッコが勝てるわけがない。

 あしらわれて当然だった。


「それに、剣を握るときは人を殺す覚悟でやれって、あなたの師匠はそう教えたの?」


 師匠と同じ、秋晴れの空のような青が俺に真っ直ぐ問いかけてくる。

 その瞳があまりにも師匠とそっくりで、改めて親子なんだなと思い知らされた。

 なんだか師匠に叱られてるみたいだ。


「……師匠がそんなこと言うもんか」


「だったらこれからも教わった通りになさい。ヒロトは今のままでも十分凄いんだから」


 リゼラは俺に軽くデコピンすると、指杖をひょいと振るう。

 すると折れて床に刺さっていた刃がふわりと浮き上がり、そのまま鞘に収まった。


 ……そうだ。しっかりしろ鈴木大翔。

 今は兎に角アリアの救出が最優先。それ以外のことは全部終わった後に考えろ。


 ひとまずは目の前のことに集中しようと決めて顔を上げると、横から俺たちの様子を眺めていたアーシュラの呆れた顔が目に映った。

 え、何その顔。


「今ので気付かねぇとかお前マジで……」


「アーシュラ!!!!」


「んむーっ!?」


 なにか言いかけたアーシュラの口をリゼラが慌てて魔法で縫い塞ぐ。

 え、何? よく聞こえなかったんだけど。


 しばらくわちゃわちゃと格闘していた二人だったが、リゼラの手を逃れたアーシュラが俺を盾にすることでようやく落ち着いた。


「────ぷはっ! ったく、めんどくせぇな人族は!」


「何が?」


「うるせぇよ鼻詰まりが!」


 聞き返すと、アーシュラに思い切り頭をひっ叩かれた。

 痛いっ!? 鼻詰まり!? どういうこと!?


「ほら、遊んでないでとっとと行くわよ!」


 何やら誤魔化すみたく、リゼラが顎をしゃくって先を急かす。

 固く閉ざされていたはずの扉は、いつの間にか開かれていた。


「こんなあっさり……」


 こんなことなら最初からリゼラに任せておけば剣を折らずに済んだんじゃないのか。

 やるせなさに苛まれつつ部屋に足を踏み入れた────次の瞬間。


 けたたましい警告音が辺りに鳴り響いた。


「な、なんだ!? うわっ!?」


 正面から猛烈な風が吹き荒れる。


 爆風から顔を庇いつつ薄目を開けると、一隻の輸送艇がゲル状の膜を突き破り宇宙空間へと飛び出していくところだった。


 すると何か感じるものがあったのか、リゼラがハッと目を見開き、叫んだ。


「────っ! アリアはあの中よ!」


「ええっ!?」


「なんで魔族がアリアを連れてくんだよ!?」


「どうせアリアが魔神の右腕を拾い食いして、この艦の設備じゃ分離できなかったとか、そんな理由でしょ!」


「「ああ……」」


 そう言われると本当にそうとしか思えないから困る。

 拾い食いして敵に捕まるお姫様がどこにいるんだと思わなくもないけど……アリアだもんなぁ。


 わたくしですわー!

 なんて、元気いっぱいダブルピースする彼女の顔が目に浮かぶ。


「私たちもあれで追いかけるわよ!」


 と、リゼラが指差す先には、さきほど発艦したのと同じ型の輸送艇がもう一隻。

 大きさは二階建ての一軒家ほどで、台形の船体の両脇に細長い燃料タンクが付いている。


「敵の輸送艇じゃん!? あんなの操縦できるの!?」


「操縦は魔法でどうとでもなるわ! 一応敵の船なんだし攻撃はされない……はず……きっと……多分」


 俺が尋ねるとリゼラはどんどん尻すぼみになり、最後は自信なさげに目を逸らされた。多分!?


「それでも行くしかねぇだろ! いくらアリアでも宇宙に連れ去られちまったら一人じゃ戻って来れねぇぞ!」


 とはいえ宇宙に出るにはアレに乗るしかない。

 アーシュラの言葉に頷き返し、俺たちは全員で輸送艇に乗り込んだ。


 中は思ったより狭いんだな。

 リゼラが操縦席に座り、船の制御系を魔法で掌握していく。

 一分もしない内に操縦席のモニターに光が灯り、エンジンが始動して船が動き始めた。


「どうやら先に出発した船は月の裏側へ向かったみたいね」


「その月の裏側からどんどん敵が溢れ出してきてるんだけど!?」


「行くしかないのよ! 出るわ!」


 リゼラが操縦桿を手前に引き寄せると、船がふわりと浮かび上がる。


 流れ落ちるゲルの膜を突き抜け、輸送艇が宇宙空間に出ると、すでに見渡す限りが銀の円盤で埋め尽くされていた。


 もう黒が一で白が九くらいの割合だ。残念ながらガン●スターはここにはない。

 どうか撃墜されませんように……。


「おいあそこ見ろ!」


「ん? なんだあれ……ハルト!?」


 アーシュラが窓の外を指差して驚いたような声を上げる。

 目を凝らすと、宇宙空間を自在に飛び回りながら光の矢で円盤を次々と撃ち落としていくハルトの姿が見えた。


(────僕が道を開くから、君たちは彼女を追って!)


「っ!」


 俺の脳内に直接ハルトの声が響く。

 直後、一際大きな光の矢が宇宙そらを切り裂き、直線上にいた円盤たちが星のように瞬いて消えた。


「道が開けた! 突っ込むわよ!」


 俺たちを乗せた輸送艇が宇宙空間に開けた暗黒の一本道に向かって突き進む。


 するとすぐ近くをすれ違ったハルトと一瞬だけ視線が交わった。

 瞬間、首から下げていた青い石から目が眩むほどの光が溢れ、光が俺を包み込む────。

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